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教えるのは日本語だけでなく日本文化や日本そのもの

言語を学ぶ方法も時代と共に変化しています。インターネットの普及によって家にいながら海外の先生とプライベートレッスンができるようになりました。教室に通う時間はないけれど、自分の空いた時間に自宅でレッスンを受けたいという人の希望も叶えられます。オンラインで、生徒に寄り添ったレッスンを心がけているという小川さんにお話をうかがいました。

  • お名前:小川清美さん
  • 日本語教師歴:約9年

日本語教師を目指したキッカケはなんですか?

英語教師をしていた時に、働いてた幼稚園のブラジル人の子供の母親に日本語を教えてほしいと言われたことがきっかけです。

その方のお宅に何回か遊びに行った時に教えてほしいと言われたのですが、実はほとんど教えることができませんでした。こんな時なんて言うの?というような質問には答えられましたが、いざ文法を教えようと思ってもどこからどうやって教えていいのかわかりませんでした。それで、その方が持っていた日本語のテキストを見せてもらったのですが、結局なにも教えることができませんでした。

その経験から、ただ助けるだけでなく、きちんと日本語教師として教えたいという気持ちが生まれました。

日本語教師になるために努力したこと、苦労したことなどは?

日本語は当たり前に理解ししゃべっている母語です。外国人に教えるため、今まで改めて考えたこともなかった日本語の文法を理解し、自分の口ですらすらと説明できるようになるまでが大変でした。日本語教師養成講座に通い始めたころは、毎日頭が“?”という感じで本当に苦労しました。

勉強を始めた時は、下の子を保育園に預けて幼稚園の英語講師をしていたので、仕事が早く終わった帰り道に、ファストフード店などに寄って勉強してから保育園にお迎えに行っていました。退職後、本格的に養成講座に通い始めたのですが、子供が軽い熱で保育園に行けない時に一緒に連れて行ったこともありましたね。

養成講座で習ったのは直接法だったので、英語を使った間接法も学びたいと思い、さらに通信講座を受け、子供たちのいない昼間に勉強をつづけました。ただ、講座では初級者向けの教え方しか学べませんでしたので、中級、上級者向けの文法は実際にレッスンをしながら自分で学んでいきました。今でも、日々学ぶことはあります。

説明することが難しい日本語文法にはどんなものがありますか?

助詞の「は」と「が」は色々な使い方があるので難しいです。一つの使い方を教えたあとに、不用意に違う使い方の「は」や「が」を私自身が使ってしまって、生徒を混乱させることもあります。

生徒が不思議そうな顔で私を見るので、私自身が今どうして「が」を使ったんだろうと一々考えないといけません。その理由がわかったところで、あまりにも複雑なので、初中級者に説明するのは難しいですね。

生徒さんの出身国によって教え方に違いはありますか? やる気にさせる方法や考慮すべきことなどがあれば教えてください。

出身国別では特に違いはありませんが、以前ボランティアでアフリカから来た難民の方に教えたときには、話題に気をつけましたね。家族の話や仕事の話をさけて、なるべく楽しい話題やすぐに役に立つ話題を選ぶようにしました。

でも実際問題として仕事でも日本語は必要ですし、祖国に帰ることもできないため、とても意欲的に日本語を学習されていました。すでに日本に住んでいるので、生活の中でよく耳にする表現について質問されましたね。例えば、「なんですけど」「やってみて」などです。

私の場合、生徒の層が4歳から65歳くらいと幅広く、職業もさまざま(主婦、スポーツ選手、IT関連、ミュージシャンなど)です。そのため、それぞれにあわせた話題や教え方を選ぶことで学習意欲が上がるように努力しています。

生徒さんたちの理解力がアップした教え方はありますか?

テキストをはじめから順番に教えるのではなく、生徒の状況に応じて教える順番を変えます。また、ある程度進んだ段階で日本語文法の全体像が見えるように、どのように動詞が活用するのかを簡単に説明すると、「霧が晴れたようにわかった!」という生徒が何人かいました。生徒自身が、自分が今どの辺を勉強していて、これからどうなるのかということがわかると理解が深まると思います。

使用しているテキストはどのようなものですか

教材については、最初は養成講座で使っていた「みんなの日本語」を使っていたのですが、Cartusで教え始めた時に、生徒と相談しながら複数のテキストを選ぶように言われました。Cartusの生徒は仕事では英語を使うので、レストランやお店などですぐに使える日本語が必要でした。そのため、それにあわせて色々使っていました。

そのうちに自分なりのテキストを作成するようになり、「Practical Japanese」という本を出版するにいたりました。今は主にそれと、他の教材の練習問題やフラッシュカード、実際のメニューなどを使ってレッスンをしています。

中、上級になると、サイトから生徒が好みそうな記事やマンガを見つけて一緒に読んで話し合います。

また、プライベートレッスンでは生徒のほうから、資料や使いたいテキストをリクエストしてくることも多いんです。どんな本でも基本的な教え方は同じなので、大丈夫なのですが、時々古い表現があるので気をつけないといけません。

日本語を教えるにあたり心がけていることは何ですか?

どの言語も同じだと思いますが、生徒にたくさん話させることは大切ですね。

教師が文法の説明をして、テキストの練習問題をさせるというような、昔の中学、高校の英語の授業のようにならないようにしています。1対1のレッスンならあまりその心配はありませんが、グループレッスンでは生徒が受け身になりがちなので、場面設定をしたロールプレイなどをします。

他の人がするときには皆さんたいていにこにこして余裕がありそうな顔をしていますが、いざ自分の番になると、うまく言えなかったりします。習って理解したつもりでも、いざ自分が使おうとしたらうまく使えなかった。ということはよくあります。何度も使って、直してもらいながら理解していくことは本当に重要です。

それから、状況に応じて柔軟に対応できるように心がけています。教案を用意しておいても、生徒の様子や進み具合によって臨機応変に変えるようにしています。

文化の違いが日本語を理解するスピードに関係ありますか?

そうですね。外国にない習慣や物の場合は難しいです。

シリアの子供に日本の教科書を使って教えた時は、日本ならではの習慣や文化の言葉が多く、理解させるのに時間がかかりました。

例えば小学校の冬休みの宿題を見てあげていた時に、「お正月らしいものをさがそう」とあって、例「おみくじ」「お年玉」「おせち」などとあったんですけど、何一つわかるものなどあるはずもないので、実物を見せてあげないといけませんでした。それで伊達巻なら甘くて好きかなと思って持っていったのですが、シリア人一家の口には合わなかったようです。

これとは別に、ロシアの生徒が「サザエさん」を見て何一つわからないから教えてと言ってきたことがありました。土用の丑の日の話か何かで、慣用句も多くて1つ1つを簡単な日本語で説明しなければならず、大変でした。その後、その生徒は「サザエさん」はもう見ませんと言っていました(笑)

小川さん

生徒さんたちの日本語を学びたいというモチベーションは何ですか?

私の場合、70%は、日本の伝統文化、アニメ、ゲームが好きと言う人です。次に、旅行のため、仕事、子供の教育のためという方が20%くらい、残りは語学そのものに興味があるという人や親の意向です。

どんな習い事でも同じだと思いますが、親が習わせようと思って始めた場合にはあまりやる気が出ない生徒さんが多いですね。また日本語はわからず日本に来たけれど意外にも大丈夫だったという人達は学習意欲が低いです。

よく日本人でも、外国に住めば英語が上手になると言いますが、そうでもなくて、日本に来たことがなくても、日本のアニメやドラマが大好きで一生懸命セリフを覚えて上手になっている人もいます。

日本語教師をしていて難しいと思うことは何ですか?

いろいろな知識が必要な時に難しさを感じますね。上級者のレッスンではサブカル系のことから、政治や経済、ITビジネスのことまで幅広い話題で話します。その中で、相手の日本語が不十分な時は、何を言いたいのか推測するのが難しいです。でも、私の知識が多ければ生徒さんの話を理解することができます。興味のある話であればたくさん話してくれるので日本語の習得に役立つんです。

そのため私も、興味のなかったビジネスやITのサイトでもなるべく毛嫌いせずに、ざっと目を通すようにしています。また、日本の流行りのもの、特にゲームはあまり知らなかったので、息子たちにわからない言葉を教えてもらっています。

それと、以前は外国映画ばかり見ていましたが、生徒がよく話題にする邦画やドラマ、アニメもチェックするようにしています。さすがに全部は見られないので、ネットであらすじをみたりしています。

日本語教師をしていて一番の喜びは何ですか?

レッスンをする前に気持ちがふさいでいた生徒が、レッスンをした後に明るくなるのを見ると喜びを感じます。

オンラインレッスンだったのですが、引きこもりのような人で暗い部屋であまり人とも話さないような感じの人がいました。レッスンが終わった後、「実は今日は気分が暗かったけど、気持ちが明るくなった。ありがとう」というようなメッセージをもらって、私もうれしかったです。

他にも、「先生に日本語だけでなく他のことも教えてもらいました。新しい窓を開けたようです」と言われた時はとてもうれしかったです。

これは中国の生徒さんでしたが、中国での情報は限られているようで、その生徒さんにとって新しいことをレッスン中に知ることができたようでした。日本語教師は言語を教えるだけではないと強く思ったのと同時に、責任も感じましたね。

海外で日本語を教えることと、日本で日本語を教えることに違いはありますか?レッスン中は日本語のみですか?

海外で教えたことはありませんが、オンラインで海外の人に直接教えるときには、趣味の話など、好きな物について話すことが多いです。

日本に住んでいる方の場合は、実践的な会話(レストラン、買い物など)を最優先にします。

初級者のレッスンでは、ほとんどが間接法です。指示語(もう一度、リピートしてください、見てくださいなど)は、学習者に定着するまでは英語と日本語の両方で言います。そうしないと、教えたい文法に進めないからです。日本語教室では色々な母語の人がいるので英語はよくないという意見もありますが、ほとんどの国の人は簡単な英語がわかります。

また、生徒の母語を少し覚えて話すこともあります。生徒はとても緊張しているので、母語を聞くとホッとするのか、私が興味を持ったことがうれしいのか、ぱあっと顔が明るくなります。

中級になるとほとんど日本語で進めますが、ニュアンスの違いなどは英語で説明することがあります。上級はもちろんすべて日本語です。

日本語教師になるために重要なスキルは何だと思いますか?

言語交換(違う言語のネイティブスピーカー同士がそれぞれの言語を学ぶのを助け合うこと。)を経てレッスンを受ける生徒たちは、プロの教師にきちんと説明をしてほしいと言います。言語交換での相手はプロの日本教師ではないため、うまい説明が得られないようです。そう考えると日本語教師になるために必要なのは、外国人の文法の質問に答えられる、ということではないでしょうか。最初は難しいですが、たいていの生徒は同じ質問や間違いをするのでレッスンを重ねるうちに慣れていきます。

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特に印象に残っている生徒さんはいますか?

はい。14歳くらいのアメリカ人の子です。状況を説明してもらえなかったのでよくわかりませんでしたが、おそらく自閉症か何かの障害がありました。オンラインのレッスンでしたが、スカイプのビデオをオフにしていたので実際には音声通話だけでのレッスンでした。時々ビデオをつけても、見えるのはテーブルの上の飲み物とかスマホの画面だけでしたね。機嫌がいい時は少し話すのですが、レッスンのほとんどが沈黙でした。急に歌いだしたり、支離滅裂なことを言うこともありましたが、レッスンがほぼ毎日ありましたので、少しでもその子の手助けになっていたのかなと思います。

思い出すと切ないですが、オンラインレッスンならではの事だと思います。

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これから日本語教師になりたいと思う人にメッセージをお願いします。

最初からうまく教えることはできないので、手探りでもどんどんやってみるといいと思います。また生徒を前にすると緊張してしまうという話をよく聞きますが、生徒はそれ以上に緊張しているので、気楽にレッスンに臨んでほしいです。先生が緊張していると生徒にも伝わってレッスンが暗い感じになってしまいます。

それともう一つ、「流れのいいレッスン」という言葉を耳にしますが、先生にとって流れがよくても、生徒が理解できなかったら意味がありません。流れが悪かったり、失敗したりしても、先生が生徒のためにがんばっているという気持ちが伝われば大丈夫です!

小川清美

小川清美(おがわ・きよみ)

リサイクル店を約4年半経営、育児、元夫の病気などの事情で閉店したのち、幼稚園の英語講師として約4年間勤務。その後フリーランスの日本語教師に転職。

Cartus(ボーイング、トヨタなどの社員が日本に駐在するのを手助けする会社)の講師として日本在住の社員や家族に日本語を指導。2012年、CartusのTop language teacher に選ばれる。

現在は語学学習サイト ITALKI でのオンラインレッスンが中心。

テキストブックPractical Japanese, Easy and Fun Hiragana, Katakana, Kanjiを出版。

2019年4月より、MATCHA - JAPAN TRAVEL WEB MAGAZINEに四コママンガとともに日本語についての記事を連載中。

※ITALKI 利用者の目標と興味にあった先生を10,000人以上の中から選び、1対1でレッスンが受けられるサイト。https://www.italki.com/

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