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日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

外国人のことばを「繰り返す」ことで生まれるコミュニケーション

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日本語がほとんど話せない外国人と日本語でやりとりをするとき、相手のことばを繰り返すことで、その人が言おうとしていることを引き出すことができます。前回引き続き、寄り添う聞き手としての振る舞いを福岡市で行った行政関係者対象の研修を基に考えます。NPO多文化共生プロジェクト代表の深江先生によるコラムです。

本コラムに登場する資料は、スリランカからの留学生リヤジさんと、日本語教師の田中先生のやりとりを記述したものです。

ことばを「繰り返す」行為

「いちばんたいせつなことは、目に見えない」
忘れないでいるために、王子さまはくり返した。
(『星の王子さま』新潮文庫より)

キツネのことばを小さな王子さまが繰り返す有名なこの場面。王子さまは、忘れないでいるためにキツネのことばを繰り返したことは確かなのですが、もう一つ繰り返す意味があるように読めます。それはキツネのことばをかみしめ、その言おうとすることを理解するためです。つまり反芻(はんすう)です。 

みなさんも何か大切なことばに触れたとき、そのことばをノートに書き写したり、切り抜いたり、写真に撮ったりしたことはありませんか。ノートに書き写すことも、切り抜くことも、写真に撮ることもそのことばの繰り返しで、それは忘れないようにするときだけでなく、そのことばの意味をより深く理解しようとするときにも起きます。

このように相手が言おうとすることを理解するための繰り返しは、実は日本語がほとんど話せない外国人が日本語で表現するための協力を考える上で必要になります。

外国人のことばを繰り返すことで、言いたいことにたどり着く

田中先生がリヤジさんのことばを繰り返しているやりとりを見てみましょう。資料①はリヤジさんと田中先生のやりとりの一部です。

資料(1)

田中  :スリランカは暑いですか?寒いですか?
リヤジ :スリランカは暑いです。
田中  :暑いですか。
リヤジ :はい。
田中  :ああ。そうですか。
リヤジ :はる。はる。
田中  :はる。はる。
リヤジ :うーん、寒い。
田中  :寒い。
リヤジ :ありません。
田中  :寒いありません。
リヤジ :うーんはい。

さて、ここで田中先生が行っている繰り返しはどのような意味を持つのでしょうか。前回のコラムの中の田中先生のことばを思い出してみましょう。

「リヤジさんが言おうとしていることにはさまざまな可能性があるから、こちらが言ってしまうと言おうとしていることと違うかもしれない。できるだけリヤジさんの言おうとしていることをたどろうとしている」

リヤジさんが「はる。はる。」と言い、田中先生が「はる。はる。」と繰り返すとき、田中先生はリヤジさんが言おうとしているさまざまな可能性に耳を澄ませています。リヤジさんの日本語は断片的で不十分な表現ですが、それは伝えようとしている思いや考えが不十分なのではありません。田中先生はリヤジさんの不十分な日本語を繰り返すことで、リヤジさんの言おうとする思いや考えにたどりつこうとしています。このやりとりの続きが資料②です。( )はリヤジさんの発話内で起きた田中先生の相づちです。

資料(2)

田中  :えっ、ええと、1月2月3月4月5月ずーと
リヤジ :1月ちょっと寒い。
田中  :ああ1月はちょっと寒い。でも他はずっと暑いですか?
リヤジ :ああ暑い、ちょっと暑い。
田中  :ちょっと暑い。
リヤジ :6月まで、(うん)8月から(うん)大きい暑い。

田中先生がリヤジさんのことばを繰り返しながら会話を進めていくと、リヤジさんは最終的に6月までが少し暑く8月からとても暑いことを伝えることができました。

外国人にとって、繰り返しが持つ意味

さてこの田中先生の繰り返しはリヤジさんにとってどのような意味を持つのでしょうか。リヤジさんは田中先生が自分のことばを繰り返してくれることで、自分の言ったことを確認できます。だからリヤジさんはその不十分にしか表現できていないことを補うようにことばを続けています。その補ったことばを田中先生が再び繰り返し、リヤジさんが聞く。リヤジさんは思いや考えを十分に表現しようと更にことばを続ける。結果として、少しずつリヤジさんの伝えようとすることが伝わってきます。

また、田中先生がことばを繰り返している様子をもっと細かく見てみると、田中先生はリヤジさんのことばを十分待ってから繰り返していました。リヤジさんが自分の思いや考えを表現し始めたら一区切りするのを待ち、リヤジさんのことばを繰り返していたのです。

日本語がほとんど話せない外国人は、自分の思いや考えを日本語ですぐに表現することも、十分に表現することも難しいです。だから私たちは急かすことなく彼らのことばを待ち、彼らの思いや考えに寄り添うように彼らのことばを繰り返す協力が求められます。

執筆/深江 新太郎(ふかえ・しんたろう)

「在住外国人が自分らしく生活できるような小さな支援を行う」をミッションとしたNPO多文化共生プロジェクト代表。大学で歴史学と経済学、大学院で感性学を学ぶ。珈琲屋で働きながら独学で日本語教育能力検定試験に合格し日本語教師に。学校法人愛和学園 愛和外語学院 教務長。