日本語教師の最大規模の集まりの一つに公益社団法人日本語教育学会があります。「学会」というとちょっと敷居が高く感じられますが、多くの日本語教師が会員になっています。春と秋に行われる大会に参加すると、そのアットホーム雰囲気に驚かされます。今回はそんな温かい雰囲気を裏方で支える事務局の皆さんからお話を聞きました。(地球人K)
まずは日本語教育学会クイズを解いてみよう
Q1 日本語教育学会の会員数はおおよそ何人でしょう?
Q2 日本語教育学会の使命は「人をつなぎ、( )をつくる」です。( )に入る言葉は何でしょう?
Q3 大会ではやけに派手な色のハッピを着たスタッフを見かけますが、何色のハッピを着ているでしょう?
Q4 今年の秋季大会はどこで行われるでしょう?
皆さんの答えはいかがでしたでしょうか。正解は以下の通りです。
A1 4000人
言語系では日本最大規模の会員数を誇ります。個人会員数はここ数年横ばいですが、賛助会員(企業や学校等)は3年前の倍以上の51団体になりました。
A2 社会
「公益社団法人」であることから、社会的研究課題に挑戦し、社会的課題の解決のために行動することを事業の柱の一つにしています。
A3 黄色
遠くからでもすぐに目につく黄色いハッピを着ています。
A4 島根県松江市の「くにびきメッセ」で11月23日(土)、24日(日)に行われます。
http://www.nkg.or.jp/wp/wp-content/uploads/2019/09/19autumnprogram.pdf
全理事・委員会参加の合同検討会議から始まった5カ年事業計画
日本語教育学会は現在、2015年~2019年の5カ年事業計画の最終年度を迎えています。2013年に日本語教育学会が公益社団法人になって以来、学会の理念体系を構築し、目標や事業方針を定め、さまざまな新しい事業に意欲的に取り組んできました。
「事業を進めていく上での課題を解決するために、当時の理事が取り組んだのは事業の再編、事業間の連携や役割分担の明確化でした」と、大塚徹・事務局長は4年前を振り返ります。日本語教育学会が「外国人のための日本語教育学会」として創立されたのが今から57年前。長い歴史の中で日本語教育の規模は飛躍的に拡大し、学会組織も大きくなっていきました。公益社団法人になり、社会的に求められる役割も大きくなっていくタイミングで、改めて学会の理念を打ち立てるという大仕事でした。
組織方針としては、それまではどちらかというと事業ごとに独立して運営していたものを、複数の委員会が担当する重要事業項目を討議するために合同会議という形を取り、互いに連携することでパワーアップを図りました。これにより社会的研究課題に挑戦するための学術研究が促進され、また社会的課題の解決のために行動するという啓発活動が活発になりました。
5カ年事業計画では、支部活動事業、チャレンジ支援事業、社会啓発事業、表彰事業などが新設されました。この中のチャレンジ支援事業について紹介します。
黄色いハッピで初めてでも参加しやすい雰囲気づくり
チャレンジ支援事業とは、「チャレンジする人」を「支援する」事業のことです。この対象は年齢が若い人ということではなく、年齢に関係なく日本語教育に関わり始めたばかりの人、日本語教育経験は長いけれど研究を始めたばかりの人や、初めて学会発表する人など、何にでも新しくチャレンジしようとしている人のことを指します。年齢というよりは心が若い人、と言ったほうがいいかもしれません。
チャレンジ支援事業では、初めて大会に参加した人(学会では「わかばさん」と呼ぶ)が不安にならないようにあれこれサポートしてくれます。黄色いお揃いのハッピを着た学会員(著名な先生方であることが多い!)がコンシェルジュブースを設置して、「わかばさん」からの質問に何でも答えたり、オリエンテーションを開いたり、先輩と交流する場を準備したりします。オリエンテーションに来た人には黄色いリボンをプレゼント。他の参加者は、黄色いリボンを付けている人には大会中あれこれ話しかけてあげる(世話を焼いてあげる!)という不文律があります。
また、会員になる前に大会の雰囲気を知りたいという人のために、1日目に行われる交流ひろば(出展者の教育実践や研究の紹介・共有、そして参加者との情報・意見交換とネットワーク拡大の場)や、2日目の日曜日の昼に行われる地域発信企画(現地の日本語教育や学習支援の関係者が中心となって情報発信する企画)など、秋季大会には会員でなくても無料で参加できる企画もあります。
デジタル化を推進して国内外の情報格差を解消
学会員の中には海外在住の人もたくさんいます。世界各地で日本語を教えている日本語教師の皆さんです。そのような海外在住の学会員の利便性を高めるために、デジタル化への対応も急ピッチで進みました。2017年度からは学会誌への投稿や査読をオンラインで行い、また発行後2年経過した掲載論文はJ-STAGEにて無料公開を始めました。このようなデジタル化は業務の効率化やコスト削減にもつながり、学会の収支バランスの健全化にも役立っています。
また2017年度からはウェブサイトから会費・大会参加費を納入したり、予稿集を事前にダウンロードしたりできるようになりました(大会前に予稿集をじっくり読み込めるようになったのは非常にありがたい!)。
「日本語の先生は世界中の至る所にいらっしゃるので、これまでは海外だと場所によっては学会誌がお手元に届くのが1カ月後になるようなこともありました。でも、デジタル化を進めることで今は国内と海外でそのような格差はなくなりました」と、大塚さんはデジタル化のメリットを強調します。ただその一方で、「残念ながらデジタル化によって学会を退会された先生方もいらっしゃいましたが……」と残念そうに語ります。「残念ながら退会された方には、大会などをきっかけにもう一度学会に足を運んでいただけたら、と願っています」
島根から地方都市の外国人受入れの課題と解決法を考える
今年の秋季大会は11月23日(土)、24日(日)に島根県松江市の「くにびきメッセ」で行われます。実は島根県は2019年1月時点での外国人増加率が15%超となり、全国1位になりました。出雲市の電子部品工場では多くの日系人が働くなどして、特にブラジル出身者が急増しています。
大会の1日目のシンポジウムは「地域を支える多文化人材のキャリア(一般公開プログラム・無料でご参加いただけます)」と題して、島根県における企業・自治体の外国人受入れ、生活・日本語学習支援の経緯と取り組みの事例をもとに、地方都市における外国人材の受入れに伴う課題とその解決方法について検討します。地域づくりという視点から、多様な立場の外国人住民が地域の経済的・文化的活動に参画する仕組みをいかに作るかを議論します。
秋季大会は今回の松江市もそうですが、多くの場合、地方都市のコンベンションセンターを会場にして行われます。大会の運営には多くの場合、地元のボランティアの方々、特にシルバーボランティアの方々が多数関わっていただくことがあります。会場ではネイティブやノンネイティブの日本語教師、研究者、ボランティアが、世代を超えて日本語教育をベースにコミュニケーションをする、まさにダイバーシティを地で行くような風景が繰り広げられます。また、2日目の昼食時には、地域で活躍する方々がその活動を紹介する地域発信企画も開催されます。
今年の秋は、島根で日本語教育の魅力にどっぷりと浸かってみませんか?
日本語教育学会秋季大会の詳細はこちらから
http://www.nkg.or.jp/wp/wp-content/uploads/2019/09/19autumnprogram.pdf