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人生100年。定年のない日本語教師という仕事

人生100年時代。人間の寿命はますます長くなり、先進国では2007年生まれの2人に1人が100歳まで生きるともいわれています。これから人生設計を考えた時に、いつまでもやりがいを持って、生き生きと働きたいと思う人は多いでしょう。ここでは、70歳を過ぎた今も東京・千駄ヶ谷日本語教育研究所で現役で日本語を教える3人の日本語教師をご紹介します。多くの日本語教師のロールモデルになるのではないかと思います。(地球人K)

写真は左から、

池田朝子先生(77歳) 趣味は茶道。授業中に学生と共に声を出して笑うのが何よりの健康法

池田秀子先生(74歳)ミャンマーにいた時に覚えた「気づきの瞑想法」で健康を維持

楠 芙佐子先生(78歳) 趣味はピアノで、今も毎日2時間のレッスンを欠かさない

※朝子先生と秀子先生はご姉妹

日本語教師になった頃のことを教えてください。

楠:日本語教師になる前は貿易商社に勤めていました。友人の義理のお母さんが東京日本語学校(長沼スクール)*1で日本語を教えていたご縁で日本語教師という職業を知り、33年前に千駄ヶ谷の日本語教師養成講座に通い、転職しました。

朝:私は1980年代後半に中国に留学していたのですが、よく周りの中国人から日本語を教えてくれと頼まれ、自己流で日本の新聞などを使って教えていました。天安門事件*2があって帰国を余儀なくされましたが、その後、妹(秀子さん)と一緒に千駄ヶ谷の日本語教師養成講座を修了し、日本語教師をしながら51歳の時に大学の日本語学科へ社会人入学し、その後、台湾・東呉大学の大学院で日本語教育を研究し、台中の大学で日本語を教え始めました。

秀:姉(朝子さん)と一緒に養成講座を修了した後は、私は海外で日本語教育の経験を積みました。韓国、ベトナム、ミャンマー、、、ミャンマーでは軍事政権の時代から実に17年間も日本語を教え、2年前に帰国したばかりです。

――皆さんすごいご経歴ですね。生きた日本語教育史を伺っている気分です。

今、改めて振り返ってみて、日本語教師の面白さとは何でしょうか?

楠:会社では組織の一部として、基本的に上司の命令に従っていた毎日でした。でも日本語教師は違います。授業時間は全て自分一人で責任を負い、授業を創り上げなければならないという緊張感があります。その相手が成人であるというのも、私にとっては心地よかった。日本語教師をしていなかったら、例えばサウジアラビアの人とおしゃべりしたり笑いあったりという経験をすることは一生なかったでしょう。日本にいながら海外とつながっていられることが魅力的でした。

朝:最初の授業では「あいうえお」も言えなかった学生が、中級、上級と進み、授業で習った文法や語彙を上手に使いこなしているのを見た時には、何よりの達成感があります。それから、さまざまな文化の違いを学べるところが魅力的ですね。例えば、長く教えていたミャンマーでは、雨が降ることがいいことなんですね。日本では晴れるのがいいこと、雨が降ると外の行事は中止になってしまいますが、ミャンマーでは中止になりません。雨の中でも喜んでサッカーの試合をしているんです。

秀:海外で日本語を教えていると、日本のことについてあれこれ聞かれるので、日本にいる時より日本語や日本文化についていろいろと考えることが多くなります。日本にいながら海外を感じられる、また逆に海外にいながら日本を感じられることが魅力ですね。

――日本語教師は両方の文化にまたがり、日本と海外をつなぐ架け橋のような仕事なんですね。

忘れられない学習者との思い出を教えてください。

朝:海外で日本語を教えていると、身近になかなか日本のものがないということがよくあります。大学の文化祭で、日本の生け花を紹介しようとして、剣山*3がなくて困ったことがありました。「小さい板状の上に釘がたくさん出ていて、その上に花を生けるもの」と口で説明したら、次の日、優秀な学習者の一人が何と剣山を作ってきてくれたのです。その学生は、今、日本の外国語大学の博士号を取り、ミャンマー語の先生になっています。本当に日本留学のプッシュしがいのある学生でした。

楠:よくできるデンマークの学生がいたのですが、漢字圏ではないのでどうしても漢字が苦手でした。そのため、日本語能力試験のために毎回、毎回、漢字の特訓をしました。合格発表の日にその学生が、真っ先に「1級(現N1)に合格しました。先生に漢字を特訓してもらったお陰です」と言ってくれたのは、うれしかったですね。

秀:今でも思い出すと心が痛むのですが、ミャンマー・ヤンゴンの大通りで「先生!」となつかしそうに駆け寄ってきたかつての教え子がいました。でも一言も日本語が出て来ず、気まずそうに「さよなら!」と走り去って行きました。その2年後、日本企業で働いているとペラペラ報告する彼に再会しました。私の学校でもっと日本語を使わせなければいけなかったと痛感しました。

――長い教師経験の中で、たくさんの日本語学習者との素敵な出会いがあったのですね。その思い出が皆さんの宝物のようですね。また、これだけ長いキャリアを重ねながら、反省の言葉が出てくるのは、さすがだと思いました。

日本語教師として、年を重ねることのメリットは何でしょうか。

秀:これまでさまざまなことを経験してきているので、何かあっても大概のことでは驚かないことですね。気さくに学生とはコミュニケーションできるし、あまり若い先生だと学生も気が散って、日本語の勉強に身が入らなくなることもあるかもしれませんが、私ぐらいの年になるとそんな心配もありませんし(笑)。アジアでは学生の父兄も、自分の子供の教師は年配者のほうが安心されるようですよ。

朝:ちょっと言いにくいようなことでも、学生に遠慮なく、何でもサバサバ言えることですね。だから授業の導入もやりやすい。そういう雰囲気だと、実は学生の心の問題にも対処しやすいんですよ。日本人もそうだけど、今の若い留学生は打たれ弱い人が多いように思います。そういう人たちの微妙な変化には、我々のような年齢になると気づきやすいのではないでしょうか。

楠:年配の先生の方が学生も信頼感を持ち、落ち着くということは確かにあると思います。世の中のいろいろな仕事の中には、年をとることで働き手としての市場価値が下がってしまうようなものもあるかもしれませんが、日本語教師の場合は決してそのようなことだけではありません。

――若い先生ではできない役割が年配の先生にはあり、年を重ねることでむしろ市場価値が上がる面もあるように思いました。

最後に、これから日本語教師を目指す人へのメッセージをお願いします。

楠:若い日本語の先生が陥りやすい落とし穴の一つに、学生と「お友達」になってしまうということがあります。もちろん仲良くなることは決して悪いことではありませんが、教師と学生の立場の違いを常に意識しておかないと、緊張感がなくなり、しっかりとした授業はできません。節度をもったコミュニケーションを心掛けるようにするといいと思います。また、特に初級の授業では、何をどう教えるかと同時に、何を教えないかということが大切です。

秀:これから日本語教師になる人は我々の時代より大変だと思います。自動翻訳機もあるしAIもあるし。そういったものに負けない、自分なりの何かを身につけていかないと難しいでしょうね。日本語教師としてますます自分を磨いていくことが大切だと思います。

朝:私は若い人たちに感心することはあっても、何かアドバイスすることとかはないんですよ。むしろパワーポイントの使い方など、若い人にアドバイスしてもらいたい(笑)。強いて言えば、「教え過ぎない」ことでしょうか。学びたいと思ったら、学習者は大人ですから自分で学びます。過重に与え過ぎるのではなく、むしろどう学びたいと思わせるかのほうが大事だと思います。

――非常に重みのあるメッセージだと思います。ありがとうございました。

インタビューを終えて

笑いの絶えないインタビューは、あっという間に時間が過ぎてしまいました。きっと3人の先生の授業も、こんなふうに楽しい時間なんだろうなと、学生のことがちょっぴりうらやましく思えたほどです。いろいろな世代の人から日本語を教えてもらえることで、学生は知らず知らずのうちに多様な日本語を学び、教師の人間性に触れます。まだ若い学生にとっては、とりわけ貴重な機会ではないでしょうか。

どのような世代の人にも出番のある、日本語教師という職業の魅力を再発見させていただいたインタビューでした。

*1:1948年に長沼直兄が開いた日本で最も歴史のある日本語学校。

*2:1989年に中国・北京の天安門広場に民主化を求めて集結していたデモ隊に対し、軍隊が武力行使し、多数の死傷者を出した事件。

*3:生け花で花や枝の根元を固元を固定する道具。生け花で花や枝の根元を固元を固定する道具。

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