2020年は日本語教育界にとって大変重要な年になります。日本語教師の資格化や日本語教育の推進に関する国の基本方針については、上期中にその方向性がまとまります。年々増加する在日外国人はさらなる増加が見込まれ、夏には東京オリンピック・パラリンピックがあることから、訪日外国人は空前の数字になるでしょう。2020年の日本語教育関連の動きを展望します。(編集長)
3月 日本語教育能力の判定(教師の資格化)について取りまとめ
2019年11月~12月に行われた「日本語教育能力の判定に関する報告(案)」に対する意見募集には、実に1400件近くのパブリックコメントが文化庁に集まり、日本語教育関係者の「本気度」が示されました。
2019年12月末に開かれた日本語教育小委員会では、皆さんから寄せられたコメントも参考にした討議がなされました。今後は2020年1月、2月の日本語教育小委員会を経て、3月に文化審議会国語分科会で報告が取りまとめられます。これにより、現段階ではまだ仮称ですが、公認日本語教師の資格制度がいよいよ具体化することになります。
また、同じ3月の文化審議会国語分科会に「日本語教育の参照枠(標準)」の第一次報告案が提出され、審議される予定です。
6月頃「日本語教育の推進に関する国の基本方針」の閣議決定
2019年6月に成立・施行された日本語教育推進基本法。国や自治体に日本語教育に関する施策を定めて実施する責務を明示し、また外国人就労者を雇用する企業は外国人やその家族に対する日本語学習の支援に努めるものとする画期的な法律です。
この法律の精神に則った基本方針案の作成作業の準備が、2019年から以下の会議で始まっています。
1)日本語教育推進会議
名称が若干紛らわしいのですが、1)が文化庁や外務省など関係行政機関の調整会議で、2)が日本語教育関係者による基本方針策定のための会議です。2)は事前に申し込めば会議の傍聴もできます。
1)は第1回会議が2019年9月に、2)は第1回会議が2019年11月に開催されました。今後、2020年1~3月にかけて2)が複数回開かれた後、4月頃にパブリックコメントの募集が行われ、それを参考にして6月頃に1)の第2回会議で基本方針案が取りまとめられ、閣議決定を経て2021年度の政府予算に組み込まれることになります。
皆さんもパブリックコメントでご自身の意見を送ることができますので、その時期が来たら、ぜひ積極的にコメントをお寄せください。日本語教師の熱意はパブリックコメントの数で測られ、基本方針の内容や予算規模にも影響します。
7、8月 オリンピックで訪日外国人が急増
2020年の社会的な一大イベントは、何といっても、東京オリンピック(7月24日~8月9日)、東京パラリンピック(8月25日~9月6日)でしょう。政府は2020年に訪日外国人を4000万人にするという目標を掲げていますが、特にこの時期は東京・札幌などを中心に訪日外国人が急増するものと思われます。
日本の至る所で訪日外国人と日本人とのさまざまなコミュニケーションが生まれるでしょう。それは英語などで行われることもあるでしょうし、やさしい日本語などで行われることもあるでしょう。海外で日本語を学んでいる学習者は、この機会に日本に来て積極的に日本語を使ってみることにチャレンジするかもしれません。
日本社会に多言語・多文化の雰囲気が自然と醸成され、外国語学習や日本語教育に関心を持つ人も増えるのではないかと思います。パラリンピックでは言語や文化だけではなく、さまざまな多様性や共生社会への意識も高まるものと思われます。
10月 2020年の日本語教育能力検定試験の受験者数は最高記録を更新するか?
令和元年度の日本語教育能力検定試験の受験者数は過去最高となり、日本語教師を目指している人が増えていることが分かりました。この傾向は令和2年度の日本語教育能力検定試験でも続くでしょうか?
【出願期間】 2020年6月22日(月)から8月3日(月)まで(当日消印有効)(予定)
【試験日】2020年10月25日(日)9:00~16:40
【合否結果通知の発送】2020年12月25日(金)(予定)
2020年展望――世界の中の日本、社会の中の日本語教育
海外の日本語教育は、その国の政治状況や日本との関係によって影響されることもあります。2020年は世界各国で重要な選挙などがあり、国際的にも重要な年になりそうです。台湾総統選挙(1月11日)、韓国総選挙(4月15日)、香港立法会選挙(9月)、アメリカ合衆国大統領選挙(11月3日)、、、ほかにもイギリスのEU離脱や中国・習近平国家主席の来日(桜の咲く頃?)、中東情勢などからも目が離せません。
香港と言えば、「日本語教育国際研究大会 香港・マカオ2020」「第13回国際日本語教育及び日本研究シンポジウム」は、香港日本語教育研究会の主催、マカオ大学人文学院と日本語教育グローバル・ネットワークの共催で、10月31日(土)〜11月1日(日)にマカオ大学で行われます。テーマは「つながる多様性、ひろがる可能性」。2本のキーノートスピーチ「『相互理解のための日本語』再考-平和言語学の構築をめざして」「Politics, fear, and the potential of language learning to bridge divides」は、まさに香港の現在の状況を反映したテーマと言えるでしょう。
在留外国人数はここのところ毎年約15~20万人程度増加しており、2020年も増加は続くものと思われます。2019年に新設された在留資格「特定技能」での就労者は現在のところ、当初の想定を大きく下回っていますが、試験の円滑な実施など環境は徐々に整備されつつあり、今後人数が増えてくるものと思われます。加えて、在留資格「技能実習」「技術・人文知識・国際業務」の外国人はさらなる増加が予想されます。
2020年度の政府予算案では、文化庁からは生活者としての外国人に対する日本語教育の充実等に9.6億円、法務省からは外国人材の円滑な受入れのための体制整備に30億円が計上されています。外国人受け入れや在留管理体制の整備、日本語教育の充実についての政府予算は増えており、社会的や期待も大きくなっています。それを法的に位置づけるものが「日本語教育の推進に関する国の基本方針」であり、担い手の日本語教師の社会的ステイタスを強固にする「公認日本語教師」になります。
2020年、日本語教育は世界の動きと密接に関わりながら、急激に変化する日本社会の中で、ますます重要な役割を果たしていくことになります。我々日本語教育関係者は、日本語教育の成果を積極的に社会に発信し、日本語教育に対する理解を促進し、そして国境を越えてネットワークと実践を拡げていくことが大切になると思われます。この「日本語ジャーナル」も、微力ながらその一翼を担っていきたいと思います。