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特定技能制度の日本語教育を支える国際交流基金日本語国際センターの教師研修

2019年4月に新設された在留資格「特定技能」は、人手不足が激しい業種に絞って外国人を受け入れるものです。日本政府は5年間で最大35万人という高い受け入れ数値を試算しており、今後この分野での日本語教育が重要になってきます。送り出し国で行われる日本語教育の主な担い手になる現地日本語教師を招いての集中研修が11月からスタートしました。

送り出し国の現地日本語教師を研修

埼玉県・北浦和にある国際交流基金日本語国際センターは、海外における日本語教育の支援を主要事業の一つとしている、独立行政法人国際交流基金の附属機関です。その支援の柱に現地日本語教師に対する研修事業があります。各国から選抜された研修者はセンターに宿泊、滞在して、日本語教授法の習得、日本語能力の向上、日本文化・社会への理解の促進に努めます。

今回は特に、特定技能制度の開始に伴う日本語教育の拡充について、日本語国際センター副所長の中村裕二さんからお話を伺いました。

「国際交流基金全体としては、特定技能制度開始に伴う日本語教育を拡充しています。具体的には、①現地日本語教育活動の強化支援、②国際交流基金日本語基礎テストの開発・普及、③日本語教育カリキュラム・教材の開発、④現地日本語教師の育成などになります」

③日本語教育カリキュラム・教材の開発としては、特定技能の在留資格で入国する外国人材が日本での生活場面で必要となる日本語の言語活動を、「~できる」という目標課題の形で具体的に示するため、CEFR*1のA1およびA2レベルに準じたCan-doを「JF生活日本語Can-do」として作成しました。また、これに基づいた課題遂行型の教材を2020年3月末までに開発・公開予定とのことでした。

④現地日本語教師の育成の一環としては、訪日研修事業を行っています。特定技能制度の対象9カ国(ベトナム、フィリピン、カンボジア、中国、インドネシア、タイ、ミャンマー、ネパール、モンゴル)から、日本での就労希望者に日本語教育を行っている機関に所属する日本語教師を招聘し、日本で生活するために必要な日本語を課題遂行型(Can-do)の考え方をもとに教える方法についての研修を実施しています。2019年度は8カ国から約80名を3回に分けて招聘を予定しているそうです。

この1回目の研修が2019年11月19日~12月18日に行われましたので、その授業の様子を取材しました。

授業の様子、学生のインタビュー

「どんな話でしょう? 予測しながら聞いてみてください」。今回見学させてもらったのは、簗島史恵・専任講師主任による、日本語教授法の「聞く」授業でした。

簗島講師は26人の研修参加者に、ところどころ吹き出しの文字が抜けたマンガを配布したり、動画の音を消して見せたりしながら、日常生活での聴解活動の特色(対面聴解が多い、他の技能と一緒に使うことが多い、知らない言葉や聞き取れない言葉がある)を確認した上で、聴解のストラテジーを説明しました。中でも、聞きながら想像したり先を予測したりすることの重要性や、知らない言葉や聞き取れない部分を推測する方法について、研修参加者は熱心にノートを取っていました。

教室の壁には、研修内容についての参加者からのフィードバックコメント(分かったこと/質問をしたいこと)が記入できる模造紙が貼ってありました。丁寧な文字で書かれたコメントからは研修参加者の日本語力の高さが伺われました。このように成果や疑問をオープンにして共有することで、参加者同士がお互いに切磋琢磨していける工夫かと思いました。

研修の総時間数は4週間・86時間。その約半分は、課題遂行を目的とした授業の方法やJF日本語教育スタンダードの考え方について学ぶ「日本語教授法関連科目」です。模擬授業も組み込まれた実践的なカリキュラムになっており、国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)についても理解します。

残りの約半分は、生活と文化(地域の日本人ボランティアと一緒に行うプロジェクトワーク、日本の防災、やさしい日本語、書道ワークショップなど)と就労とコミュニケーション(実際に日本で働いている外国人を訪問して就労環境やコミュニケーション上の課題についてインタビューして、課題解決の方法について考える)で構成されている「日本の社会と文化関連科目」になります。

実際の研修参加者に話を聞いてみました。

お昼の休憩時間をいただいて、研修参加者の中から、グエン・ティ・タン・タオさん(ベトナム・ホーチミン市人文社会科学大学日本学部)とタン・パイ・ソーさん(ミャンマー・エーシーシー株式会社)から、お話を聞きました。

Q:皆さんが現地で日本語を教えていていちばん苦労することは何ですか?

グエン:現地での教授法が未だに文法・文型中心で伝統的な教え方が中心であることです。

ソー:学習者が日本語を勉強することよりも、日本に行って働きたいという気持ちが強くて、それが必ずしも日本語学習のモチベーションにつながっていないところです。

Q:日本に来たい人はどのような人が多いのですか?

ソー:ミャンマーでは地方に住んでいる人が多いです。都会に住んでいる人は仕事があるので、それほど強く日本に働きに行きたいとは思わないです。

グエン:ベトナムも地方出身者が多いですね。日本に来て働いてベトナムに帰った後は、日本とやりとりのある送り出し機関などで働く人が多いようです。ただ残念ですが、中には全く別の仕事に転職してしまう人もいます。

Q:現地での日本人教師の役割や期待は何ですか?

グエン:日本人の先生には主に会話の授業、日本事情などを担当していただきます。学習者のニーズを十分に理解して授業を進めていただくことが大切なので、日本人の方にはぜひ現地の先生とよく相談・協力していただけるといいと思います。

ソー:同じ内容でも日本人の先生から伝えると、学生に対しては効果が大きいんです。また、現地の先生の間だけではなかなか決められないことも、日本人の先生が「こうしましょう」というとその通りになったりします(笑)。言動の影響力の大きさは自覚していただいたほうがいいでしょう。

Q:今回のカリキュラムに「関係者訪問」がありますが、どんなことを聞いてみたいですか?

グエン:ベトナムで勉強したことが、日本の職場でどのぐらい使えているのかは聞きたいですね。それから、日本に来るならこんなことも勉強しておいたほうがいいとかいったことも聞いてみたいですね。

ソー:私もミャンマーで勉強した日本語がどのぐらい役立ったかは聞きたいですね。それから何に困ったか、それをどう乗り越えたか、これから来日する人へのアドバイスなどを聞いてみたいですね。

皆さんが現地で教えた日本語が実際どのぐらい役に立っているのかは気になるところのようですね。ありがとうございました。

今後に向けて

授業終了後、研修リーダーの菊岡由夏・専任講師からお話を聞きました。

「研修参加者が教える対象は、特定技能資格などで日本で働くという明確な目的がありますので、それに応じて『就労とコミュニケーション』といったプログラムを入れています。また、実際に日本で生活することになるため、あまりこれまでの研修にはなかった『日本の防災』といった授業も取り入れています」

「就労とコミュニケーション」では、研修参加者が実際に日本で働いている自国の修了生や知人に自らアポイントメントを取り、就労の状況や就労現場での日本語使用についてインタビューするなどの実践的な活動も組み込まれています。今回はこれまで国際交流基金とのつながりがなかった機関からの参加者が多いということで、どんな人が研修に参加するのかイメージが沸きにくかったところもあったそうですが、学ぶ意欲も日本語力も高い優秀な教師が多く集まったとのことです。

「自分たちが日本語を教えた学習者が日本に来て実際に働いていますので、来日後に日本語が必要とされているという実感は非常に強くあります」と、菊岡講師は教師の学ぶ意欲が高い背景を説明してくれました。日本語を単に「知っている」だけでなく「使える」「できる」ようにならなければならないことについての問題意識が、研修参加者には共通してあるようです。

「今回が第1回でこれから第2回、第3回と研修は予定されています。研修参加者からの声などもよく聞きながら、よりよい研修にしていきたいと思います」と、菊岡講師は今後の抱負を語りました。第2回は2020年1月7日~2月6日、第3回は2月18日~3月19日に予定されています。

*1:CEFR:欧州評議会による「外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠」

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