日本の国内産業の人手不足を背景に2019年から始まった特定技能制度。海外ではこれまでにフィリピン、インドネシア、カンボジア、ネパールなどで技能試験と日本語基礎テストが行われてきましたが、いよいよミャンマーでも2020年3月から介護分野の技能試験と日本語基礎テストが行われることが1月31日に発表されました。アルクは2019年からミャンマーで日本語介護人材を養成しており、3月の試験でいよいよその成果が試されることになりました。(NJ編集部)
人材不足の中で高い日本語力が求められる介護分野
これまでも「介護・看護の日本語教育の現状と課題」などの記事で触れてきましたが、少子高齢化が急激に進む日本において介護人材が不足しています。日本はこれまでもEPA(経済連携協定)などの制度を活用して外国人介護人材を受入れてきましたが、今後ますます介護士は不足することが予想されます。また、介護士は被介護者やその家族、施設で一緒に働く日本人とのコミュニケーションの機会が多く、他の特定技能の業種と比較してもとりわけ高い日本語コミュニケーション能力が求められます。
このような社会的要請に応えるために、アルクは2019年8月よりミャンマー最大の都市・ヤンゴンの目抜き通りにある日本語学校、アミクスグローバルミャンマー・ランゲージセンターの日本語カリキュラムを作成し、日本人日本語教師を送り込むとともにミャンマー人の日本語教師を養成し、初級・初中級の日本語クラスを運営してきました。「ミャンマーからミンガラーバ(こんにちは)!」記事参照。
現在、この学校では4クラス(平日2クラス/週末2クラス)で、10代~30代前半までの合計約50名のミャンマー人が、特定技能試験に合格して日本で働くべく、日夜日本語の勉強に励んでいます。今回は日本語主任の渡辺幸子先生にミャンマーの様子を日記風に伝えてもらいました。
2020年1月のミャンマー便り
1月6日(月)
約10日間の年末年始休暇が終わり、今日から学校が再開しました。12月までに初級コースを終えた学生は今日から初中級コースに進級しましたが、ミャンマー人が皆苦労するのが漢字の学習です。今日も初級コースで習った漢字の総復習をしましたが、ほぼ全員がきれいさっぱり忘れていた模様(泣)。授業中に短い読み物を読ませているうちに、少しずつ漢字の読み方を思い出してきたものの、きちんと書けた学生はクラスの中でごくわずか。学生が書く漢字は、棒が1本多かったり少なかったり。これにはさすがに担当したミャンマー人の先生にも焦りの色が見えました。
1月11日(土)
今日から新しい週末クラスがオープンしました。希望者が多くクラスの学生数は教室の定員いっぱいです。狭いスペースに身を寄せ合って座る学生たちに申し訳なく、明日からはせめてエアコンのある教室に移動して授業をすることにしました。ちなみにミャンマーは2月でも日中は30度を超えます。
学生は手渡された新しい教科書に自分の名前を書くと、先生の話を一言も聞き漏らすまいと授業に集中しています。クラスは日本語を勉強しよう!という雰囲気に満ちあふれています。週末コースの生徒は、みんな平日はフルタイムで仕事をしており、週末だけ学校に通ってきます。そして授業時間も週末は9:00~18:30とフルタイム。しかも土日両日。学生たちにとっては実質休みがなく、平日も仕事が終わってからも日本語の勉強をしなければ翌週の授業についてくることはできません。でも、授業中に居眠りをしているような学生は一人もいません。とても大変なことですが、日本へ行くまで私たち教師も一緒に頑張りたいと思います!
1月22日(水)
ミャンマーのお札のデザインが新しくなりましたが、今日初めて本物を見ました(1000チャット札=約76円)。現在多く使われている紙幣のデザインは動物が描かれているのですが、新しいお札のデザインは全ての紙幣がビルマ(現ミャンマー)建国の父、アウンサン将軍(アウンサン・スー・チーさんの父)になりました。新紙幣はまだ1000チャットしか一般に出回っておらず、その数はとても少ないレアなものですが、たまたまミャンマー人の校長先生が知り合いから何枚か交換してもらえたそうで、私も1枚交換してもらいました。ラッキーです。使わずにとっておこうと思います。
1月24日(金)
2019年12月に行われたJLPT(日本語能力試験)の結果が出ました。N5、N4に合格した学生の皆さん、おめでとう! 残念ながら不合格だった学生の皆さんは、弱点を補強して次に頑張りましょう。中には合否照会画面にアクセスするパスワードを忘れてしまった学生もいましたが……。いろいろとありましたが、この学校での目標はN4レベルに到達することはもちろんですが、その日本語を実際に使って日本で円滑なコミュニケーションができるようになることです。合格した人も日本へ行って困らないように、今ここで一緒に、しっかり練習しましょう!
1月26日(日)
学生の中に右腕にタトゥーがある人がいました。ミャンマー人の先生によると、ミャンマーではファッション感覚でタトゥーを入れる若者が多いとのこと。しかしこれでは日本で働くことはできないことを伝えると、「取ります」と。実はその学生は昨年12月中旬に除去処置をしてきたのですが、その方法がレーザー照射ではなく、皮をはぐという、なんとも恐ろしい方法で。。。除去当日、学校の昼休みの時間に病院へ行き、その後学校へ戻ってきて残りの授業を受けたのですが、帰り際、腕を見ようとすると、もうすでにシャツが血で染まっていました。私が「痛いんじゃないですか」と言うと「少しだけ……」と言って笑っていましたが、あれは相当痛かったはずです……。文字通り「身を削って」日本へ行く準備をしていますが、日本語の力ももう少しつけて、必ず日本へ行けるようにしましょう。
1月30日(木)
いつも路上駐車の車が並んで止まっていて、さらに車と人の往来が激しい学校の前の通りですが、お昼前から車が一掃され通行禁止になりました。さらに電飾のついた舞台のようなものが設置され、道路にゴザのようなものを敷いて何やら準備しています。そういえば昨日から通りにカラフルな旗が立っています。ミャンマー人スタッフに何があるのか聞くと、偉いお坊さんが来て説法するとのこと。「夜になると、通りが電飾で明るくなりますよ」と言うので、どんな感じか教室に残って始まるのを待ちました。18:30頃にお坊さんが到着。残っていた仕事を片付け、教室を閉めて様子を見にいくと、豪華な特設ステージで説法するお坊さんの姿が。前方には聴衆も集まり聞き入っていましたが、後方の聴衆のためにモニターも設置されていました。今日から4日間、毎日違うお坊さんが来て説法するとのことですが、今日来ていたお坊さんはミャンマーでかなりの偉いお坊さんとのこと。直接お顔を拝めて、ちょっとラッキーな気分になりました(笑)。
1月31日(金)
「ミャンマーで介護の試験がいよいよ始まるみたいよ!」と、ミャンマー人の校長先生がスマホのニュースを見ながら第一声を上げました。早速、新聞を買いに行き、情報を確認しました。日本の関係者にも共有し、皆で喜びを分かち合いました。ミャンマーで介護の特定技能の試験がいつ始まるのか、学生も先生も関係者も、皆ずっと気にしながらこの数カ月を過ごしてきました。学生にそのことを伝えると、意外なことに、喜ぶというよりも学生の顔がこわばっていくのが分かりました。まだ試験に合格できるまでの日本語力には到達していないかもしれないという不安、いよいよその日が来たのだという緊張。そして改めて日本に行くために勉強に力を入れることを誓った学生たちは、試験までの残りの2カ月、日本行きの最終コーナーに差し掛かったのでした。(来月に続く)