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日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

申し込みから熾烈な特定技能試験―ミャンマーの日本語教室から

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2019年から始まった特定技能制度。アジア各地で技能試験と日本語基礎テストが行われていますが、ミャンマーでもいよいよ3月に介護分野と外食分野の技能試験と日本語基礎テストが行われることになりました(「介護の特定技能試験が始まる! ミャンマーの日本語教室から」記事参照)。2月10日が試験申込日でしたが、少ない受験枠をめぐって壮絶な「戦い」がありました。前回に引き続き、アミクスグローバルミャンマー・ランゲージセンター日本語主任の渡辺幸子先生から日記風に様子を伝えてもらいました。(NJ編集部)

2020年2月のミャンマー便り

2月4日(火)

来週からいよいよ特定技能試験の申し込みが始まります。申し込みの前に試験実施機関であるプロメトリック社のIDを取得しておかなければならないことから、今日から順次、学生にID登録をさせていきました。入力項目は、氏名、住所、生年月日などごく普通の内容なのですが、いざ入力を始めると、「住所の英語表記がわかりません」「家の番地がありません」など、ミャンマーならではのちょっとしたゴタゴタもありました。何より一番不安になったのは、パソコンを使ったことがない、更には触ったこともない学生が何人もいたことです。特定技能試験はCBT(コンピューター・ベースド・テスト)方式のため、パソコンの使い方にある程度慣れていなければ、答えを選択することもできません。これからはパソコンの使い方も練習していかなければなりません。頑張りましょう。

2月7日(金)

Japan Foundation(国際交流基金)と日本大使館の共催で、送り出し機関や日本語教師向けの特定技能試験についての説明セミナーがありました。先着180人となっていましたが、ふたをあけたら300人以上の事前申し込みがあったとのこと。急遽、会場の机を取り払ってイスだけを並べて300人が入れるようにしたそうで、注目度の高さを感じます。

制度の概要もさることながら、説明セミナーは具体的な試験内容、サンプル問題なども見ることができ、とても参考になりました。質疑応答ではパソコンについて聞いてみたのですが、やはりタッチパネル方式ではなく、普通にパソコンを使ってマウスで答えを選ぶ形だそうです。ここ数日パソコンの練習をさせていますが、マウスを触ってもすぐにポインタを見失ったり、クリックとダブルクリックの違いが分かっていなかったりして、ヘルプを求めてくる学生がたくさんいる状況なので、もっともっと慣れさせないといけません。

2月10日(月)

今日はいよいよ特定技能試験申し込みの日! 今日の授業は全部取りやめ、申し込みに集中することにしました。日本語の試験であるJFT-Basicは先着1300人、介護の技能試験は先着400人、外食の技能試験は先着150人までバウチャーが発行されます。せっかく勉強しても、この先着の中に入れなければ試験を受けることができません。JFT-Basicの申し込み開始は午前9時です。

8:50にはみんな学校に来て、スマホを片手に準備していました。そしていよいよ午前9時! 事前に伝えたURLに一斉にアクセス!! しかし……あれ、申込画面が出てこない……。どうなってるんだろう? ミャンマーだからきっちり9時には始まらない? URLが間違ってる? いやいや先週のセミナーで聞いたばかりだし、学校でも何度も確認したし、もう少し様子を見てみる? でもでもミャンマー全土で1300人なんて意外とあっと言う間に埋まってしまうかもしれない……。ドキドキしながらしばらく様子を見ていましたが、やはり申込画面にならない。やっぱり何かがおかしい。

そんなとき、スマホを見ていた学生の一人から「友達からもう申し込めたと連絡がありました。URLが違うみたいです」とまさかの一言!! え―――!! URLが違う?? もう申し込んだ人がいる?? 時間は既に9:15……あぁ、終わったかもしれない……と少し絶望を感じましたが、落ち着いて、その正しいと思われるURLにアクセス。すると見たこともない、セミナーでも何の説明もなかったページがPC画面に……でも「JFT-Basic Voucher」と書いてある……確かにここで間違いなさそうだ。とりあえず、名前と事前に取ったIDを入力して……Submit。あ、できた。こんなに簡単に……。と、直前の混乱からは考えられないほど簡単に入力は終わり、学生たちもアッという間に申し込みを終わらせました。

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とりあえずJFT-Basicは全員申し込めたみたいです。次は11:00から外食技能試験の申し込みです。先ほどの反省を生かし、申込URLはばっちり確認しました。ただ外食技能試験のバウチャーは先着150人! さっきみたいに手間取ってしまったら弾かれてしまう……。外食受験を希望している学生にも告知して、10:59:50秒からカウントダウンして11:00を迎えました。11:00ちょうどに申し込み画面がオープン。学生たちは先ほどと同じ要領で名前とIDを入力して、submitを押しました。すると、ほとんどの学生のスマホ画面に「Thanks!」という文字。しかし……入力に手間取った学生3人の画面には「This Form is Closed」の表示……。時間は11:01。なんと申込開始1分でいっぱいになってしまったようです……。3人は最初何が起こったのかわからない様子でしたが、申し込めなかったという事態を把握すると、地団駄を踏んで悔しがりました。150人は狭き門だなと思っていた私たちも、まさか1分……こんなに早くいっぱいになってしまうなんてことは想像しておらず、受験枠に入ること自体が壮絶な争奪戦なんだと思い知らされました。申し込めた学生は安堵の表情でしたが、3人は落ち込み、しばらく茫然としていました。

次は12:00から介護技能試験の申し込みです。介護は少し枠が大きく先着400人です。しかし外食を申し込めなかったクラスメートを目の前にし、自分たちもそうなるかもしれないという不安も感じたようで、自分たちなりに対策を立て、申し込みに挑みました。先ほどと同じように、11:59:50からカウントダウン! 緊張のあまりスマホを持つ手が震える学生もおり、見かねたクラスメートが操作を代わる場面もありました。今度も12時ちょうどに申し込み画面がオープンし、あっという間に入力完了。今度は希望者全員が申し込めたようです。全員が申し込めたとわかると、喜びのあまりちょっとしたお祭り騒ぎになりました(笑)とにかく良かった……!! ミャンマーでの特定技能の注目度の高さと、合否の前に受験すること自体が大変なんだということがわかった一日。いい経験になりました。今日ちゃんと申し込めていたら、3日後に受験料の支払いに関する案内メールが届きます。ちゃんと全員に届きますように。

2月13日(木)

特定技能試験の先着に入った学生に、受験料支払いに関する案内メールが届きました。JFT-Basicと介護の試験については、申込者全員が受験枠に入れたようです。が、外食の技能試験に申し込んで、10日の時点では「Thanks!」の文字が出ていた学生7人のうち3人に、先着に漏れたという内容のメールが届きました。申し込み時点でダメだとわかった人と、申し込み時点では大丈夫だったけど今日ダメだとわかった人。どうして? 何の差があって? 全くわからず謎ですが、とにかく先着に漏れた3人はJFT-Basicの受験に専念することになりました。本人たちも残念がっていましたが、私たちも本当に残念です。

そして今日は、開校時から慣れ親しんだ教室での最後の授業です。記念に各教室で記念撮影をしました。教室が手狭になったので、午後からは同じ建物内の別の階へ引っ越しました。午後の引っ越し作業では、今回受験しない初級クラスの学生が何人も残ってくれて、荷物を運び出してくれました。みんな、ありがとう~!

2月17日(月)

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週末クラスは15日から、平日クラスは今日から、新しい教室で初めての授業です。広く奇麗になった教室に学生も皆、わくわくしている様子。朝登校してきた学生が、学校中を見て回るプチ見学会のような雰囲気でした。そして今週から午後の時間を使って、本格的に特定技能試験対策の授業を行うことになりました。試験自体はJLPT(日本語能力試験)のN4レベルですが、受験する学生のほとんどはまだそのレベルに達していません。しかしやる気とポテンシャルはとても高い学生達です。試験までの時間はあまりありませんが、できる限りの準備をして臨みましょう。

2月28日(金)

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いつも金曜日は学校がお休みなのですが、試験が近いので授業をしました。今日は専門試験の内容を勉強しました。特に介護は、知識だけではなく、ボディメカニクス*1を理解して、実践できることが大切です。テキストは日本から送ってもらっていたのですが、これまで机上で勉強するだけで、実際に練習する機会がありませんでした。今日はいよいよ実践です。寝ている状態から上体を起こして立たせたり、車いすへの移乗の練習をしたりしました。最初は慣れておらず、友達と接近する照れもあり、笑いが起こっていましたが、徐々に真剣モードになっていき、全員で、「もっとこうしたほうがいいんじゃないか」とか、「ここを持って支えたほうがいい」などと教え合っていました。試験は全員3月19日に受験することになりました。全員合格を目指して頑張りましょう!

*1:介護者が最小限の労力で要介護者を支えたり、動かしたりできる介護技術