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日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

日本語教育能力検定試験 狙われやすい4つのテーマを直前チェック

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令和2年度の日本語教育能力検定試験がいよいよ直前に迫ってきました。試験準備は順調に進んでいますか? 今の時期は、特に重要なポイントを集中的に見直しておくことが重要です。ここでは、最近の出題傾向から狙われやすい4つのテーマに絞ってポイントをおさらいしておきます。抜け漏れがないか、ご確認ください。(新城宏治)

今の日本語教育を映し出す重要テーマ

恐らく多くの受験生の方は、主催団体である公益財団法人日本国際教育支援協会が発表している出題範囲の中の、特に基礎項目を中心に対策を進めておられると思います。これは、言語としての日本語、外国語教育法や異文化理解など、まさに日本語教師になるための必須項目であり、毎年の検定試験で変わらずに問われるところです。

その一方で、特に最近の日本語教育の動きを反映した、問われやすいテーマというものもあります。今の日本で大きな社会的課題となっていること、その課題解決のために日本語教育が取り組んでいること、その背景や原因、具体的取り組みや成果などが問われます。

ここでは、そのような4つの狙われやすいテーマについて、重要事項(赤字)を中心にまとめておきます。受験生の皆さんは、ぜひ確認してみてください。

JFスタンダード

・JFとはJapan Foundation=国際交流基金の略。スタンダードとは「日本語教育の枠組み」。つまり、JFスタンダードとは国際交流基金が作った、日本語を教える・学ぶときの枠組み。

CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)をもとにしている。

・日本語を通じた相互理解を目標とし、課題遂行能力異文化理解能力を育成する。

・課題遂行能力は、コミュニケーション言語能力言語構造的能力社会言語能力語用能力)とコミュニケーション言語活動受容産出やりとり)から成る。

・レベルはCan-do(~ができる)という形で6レベル(下からA1~C2、Aは基礎、Bは自立、Cは熟達した言語使用者)に分かれる。

・Can-doは、活動Can-doテクストCan-do方略Can-do能力Can-doの4つに分かれる。

・学習成果はポートフォリオにまとめる。ポートフォリオは、評価言語的・文化的体験の記録学習の成果の3つから成る。

・教材として『まるごと 日本のことばと文化』がある。

専門用語が多くて大変ですが、もっと詳しく知りたい方は以下をご確認ください。

https://jfstandard.jp/top/ja/render.do

やさしい日本語

阪神淡路大震災の時に必要な情報が外国人に伝わらなかったことへの反省がきっかけ

・行政文書の多言語化も並行して進んでいる。

・やさしい日本語の特徴は、一文を短くする、外来語を使わない、難しい語彙は簡単な語彙に言い換える、複雑な表現(二重否定・受身・使役など)を使わない、漢字を使いすぎずに振り仮名を振るなど。

・メディアでの使用、インバウンドへの活用など用途が広がっている。

 

もっと詳しく知りたい方は以下をご確認ください。

http://www.moj.go.jp/content/001327230.pdf

外国人の受け入れ

・背景は日本社会の少子高齢化

・在留外国人は現在、約300万人。日本の人口の2%が外国人

特に人手不足が深刻な看護・介護分野では、先行してEPA(経済連携協定)により、インドネシア・フィリピン・ベトナムから候補者を受け入れ。

・中小企業では技能実習制度を活用した技能実習生の受け入れが盛んだが、批判も多い。

・2019年に在留資格「特定技能」が新設された。また、「日本語教育推進」が成立した。

子どもの日本語教育

・日本は「子どもの権利条約」を批准し、外国人児童生徒の学習権を保障している。

・日本語支援が必要な児童生徒数は年々増加して現在、約5万人(外国籍4万人、日本国籍1万人)。母語別ではポルトガル語(外国籍)、フィリピノ語(日本国籍)が最多。都道府県では愛知県が最多。

・文部科学省の施策:日本語指導は「特別の教育課程」として位置づけられ、小中学校の学習指導要領によらずに柔軟にカリキュラムを作ることができる。指導方針を検討するために「外国人児童生徒のためのJSL対話型アセスメントDLA」がある。また、小学生と中学生向けのJSLカリキュラム(トピック型・教科志向型)を開発し、子どもたちの日本語学習と教科学習の統合を目指している。外国人児童生徒向けの情報検索サイト「かすたねっと」を運営している。

バイリンガルについてさまざまな理論を提唱したカミンズは子どもの言語能力を2つに分けた。一つはBICS(生活言語能力)、もう一つはCALP(学習言語能力)。CALPの習得にはBICS以上に時間がかかる

 

「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」について、もっと詳しく知りたい方は以下をご確認ください。

https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/09/1421569.htm

重要テーマは相互に関連している

試験対策として機械的に用語を覚えるよりも、各内容や用語のつながりを理解することで今の日本語教育を取り巻く全体像が見えてきます。

現在の日本社会の最大の課題は少子高齢化です。既に日本の経済や社会は日本人だけでは回らなくなっています。特に人手が不足している分野では、これまでEPAで看護・介護人材を受け入れてきました。また、技能実習制度を整えたり、在留資格「特定技能」を新設したりして、多くの外国人を受け入れようとしています。外国人は日本のさまざまな地域に定住します。中には家族を伴ってくる人や日本で新しく家庭を持つ人もいるでしょう。その子どもたちは就学年齢になれば学校に通うようになります。定住地域の公共サービスは日本語で行われることが多いので、外国人にも分かりやすい「やさしい日本語」が必要になります。多くの人たちが国境を越えて行き来するようになりますが、必要な日本語は来日前に学習する人、帰国後も学習を継続する人とさまざまです。そのために、母国でも日本でもあるいは別の国に行ったとしても、同じ基準で自分の日本語能力を示すことができるスタンダード(枠組み)が必要になります。そのスタンダードは漢字数や語彙数ではなく、具体的に「何ができるか」で測られます。皆が共通の指標を持てば、日本語学習はスムーズに進み、日本語を使った相互理解が進むでしょう。

日本語教育を取り巻く社会的な大きな動きは、日本語教師にとって極めて重要です。そのため日本語教師になるための試験である日本語教育能力検定試験にも出題される可能性が高いと思われます。ぜひ本番前には4つの重要テーマを再度チェックしておいてください。皆さんのご健闘をお祈りします!

執筆/新城宏治

株式会社エンガワ代表取締役。日本語教育に関する情報発信、日本語教材やコンテンツの開発・編集制作などを通して、日本語を含めた日本の良さを世界に伝えたいと思っている。