日本政府は「国際的な人の往来再開に向けた段階的措置について」を発表し、2020年10月1日から、ビジネス上必要な人材等に加え、順次、留学、家族滞在等のその他の在留資格も対象とし、原則として全ての国・地域からの新規入国を許可することを決定しました。今春から留学生が入国できずに苦境に立たされていた日本語教育機関にとっては、留学生の新規入国再開に向けた第一歩となりました。(編集部)
※「国際的な人の往来再開に向けた段階的措置について」は今後も随時更新される可能性があります。最新情報は、以下の外務省のトップページからご確認ください。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/index.html
新規入国制限緩和までの動き
日本政府は外国人の新規入国の制限緩和を3段階で進めてきています。
第1段階:2国間の合意に基づくビジネス往来
第2段階:中長期の在留資格者の入国(留学生などを含む)
第3段階:観光客などの短期滞在者の入国
第1段階は16カ国・地域との主に駐在員などのビジネス往来の交渉を進め、10月8日現在、既に10カ国・地域(ベトナム、タイ、カンボジア、シンガポール、韓国、ブルネイ、マレーシア、ミャンマー、ラオス、台湾)との往来を開始しています。10月からはこの第1段階の受け入れ数を1日800人から1600人に倍増させます。
さらにシンガポールとは9月、韓国とは10月から、出張などの短期滞在も含めて往来が再開しています。この場合は自国での事前検査および誓約書や滞在中の活動計画書などの提出により、日本入国後の2週間の待機が免除されます。出張に行った先で2週間もホテルで待機していたのでは仕事になりませんので、これは双方のビジネスパーソンにとっては現実的に有効な方法です。筆者のところにも早速、韓国の知り合いから日本出張の連絡がありました。
10月1日から新しく始まったのが、第2段階の中長期の在留資格者の入国再開です。全世界を対象とし、留学、技術・人文知識・国際業務、技能実習、特定技能などを含む、短期滞在を除いた全ての在留資格が対象になります。この受け入れの上限は、空港での検査体制を踏まえ1日1000人程度に絞るとしています。2019年の在留資格者の新規入国者数は59万人ですので、それに比べれば受け入れ数は十分とは言えませんが、留学生が入国できるようになったことに一筋の光明を見た関係者も多いのではないでしょうか。
入国者および受入者に求められるもの
対象者が入国拒否の対象地域から入国する場合とそうでない場合とで求められるものは若干異なります(入国拒否の対象国・地域でない場合はいくつか免除されることがあります)が、いずれにしろ、対象者を受け入れる企業・団体は外務大臣および厚生労働大臣宛の「誓約書」を提出しなければなりません。
そこで誓約する内容は、「対象者に対し、本邦入国後に厚生労働大臣の要請に従った行動をとらせ、そのために必要な管理を行うこと」「対象者に対し、新型コロナウイルス感染症の感染拡大につながるおそれのある対人接触や行動を行わないように指導及び監督すること」「対象者が、上記に反する行動をとった場合、又は指導若しくは監督に従わない場合には厚生労働省検疫所業務管理室に対して、また、新型コロナウイルス感染症の疑いのある症状を有することが確認された場合には、対象者の自宅又は宿泊場所を管轄する保健所に対して、直ちに報告するとともに、日本国政府の関係当局の指示に従うこと」となっています。
また、誓約書では「防疫事項」として具体的には、入国者の入国前14日間の検温、現地出発前72時間以内の新型コロナウイルス検査とその陰性証明書の入国時の提示・提出、民間医療保険への加入、入国後14日間毎日アプリを経由した健康状態の報告、入国後14日間の位置情報の保存・移動手段の限定・自宅又は宿泊場所での待機など、入国者の徹底した管理を受入者に求めています。そして、これらの誓約に違反した場合は「関係当局により企業・団体名が公表され得る」「今後当企業・団体の招へいする者に対し、本件措置に基づく本邦入国が認められないことがある」と締めくくっています。
上記の中でも特に受入者にとって負担が重いのは、入国後14日間の移動手段の限定・自宅又は宿泊場所での待機ではないかと思います。対象者が日本に着いたその日から2週間待機する場所と移動手段を確保しなければなりません。「国際的な人の往来再開に向けた段階的措置について」からリンクされている「よくあるご質問(https://www.meti.go.jp/covid-19/ourai/pdf/qa.pdf)」には、以下のようなQ&Aがあります。
Q:(入国後14日間は)個室管理等が必要とのことですが、一つの個室に複数名滞在しても良いですか。
A:本スキームにおいては、対象者の方が 1 人で入国されたとしてもグループで入国されたとしても、いずれにおいても一つの個室に複数名の滞在はできません。
Q:バス、トイレ、キッチン等が共用の場合、消毒等を徹底しながら当該共用スペースを時間管理により個人に利用させても問題ないですか。
A:本スキームにおいて、バス、トイレは専用のものとし、共用は避けてください。キッチンについて、共用スペースで調理を行うことは感染防止策として不適切であるため利用を控えてください。
Q:14 日間の自宅等待機期間において、食事はどのようにすればいいでしょうか。ホテル内やホテル近くのレストラン又はコンビニエンスストアに行くことは問題ないでしょうか。また、寮の食堂などを利用することは問題ないでしょうか。
A:ホテルの内外を問わずレストランの利用は控えて下さい。原則として、個室管理ができる施設で待機いただき、外出はせず、人との接触を可能な限り控えていただきたいため、受入れ責任者等の方により個室に食事を配る方法のご検討をお願いいたします。
一方では、このような管理の代行をワンストップで行うような民間サービスも出てきています。そのうちの一社のウェブサイトを見てみると、自主隔離中の滞在先の提供、空港からの送迎、多言語対応、専用LINEグループでのリアルタイムサポートと至れり尽くせりの内容でした。
第3段階の緩和はいつか
日本政府がこのような制限緩和を積極的に進めるのは、外国人が入国できないことで日本経済への影響が出ているからです。特に建設業、食品製造業、農業などの現場は外国人技能実習生の力に頼っているところが大きく、企業からの要望が大きいと思われます。また、留学生が入国できないことは日本語学校、これは取りも直さず2021年以降の大学や専門学校に大きな影響を及ぼす可能性があります。
それでは次の第3段階の緩和はいつ行われるのでしょうか。これは、当然のことながら、日本および世界の新型コロナ感染者数の推移と、2021年の東京オリンピック・パラリンピック開催を見据えての動きになります。
ただ、第3段階は第2段階までとは大きく異なります。第2段階までは、本人ではなく受入者に「管理」「指導」「監督」「報告」といったことを誓約させます。それは法的拘束力としては完全ではないかもしれませんが、「関係当局により企業・団体名が公表され得る」「今後当企業・団体の招へいする者に対し、本件措置に基づく本邦入国が認められないことがある」といった文言は十分な抑止力があると思われます。しかし、観光客などの短期滞在者の場合は、その人たちを受け入れて「管理」「監督」する人はいません。結局、対象者本人に誓約させるほかなく、それは結局のところ法的拘束力のない「自粛要請」に留まるでしょう。誓約を遵守する人もいれば、そうでない人が出てくることも想定しておかなければなりません。そのため、第3段階の緩和は第2段階まで以上に慎重な対応が求められるものと思われます。