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「日本語教育の参照枠」の活用のための手引

2022年3月8日に行われた第80回文化審議会国語分科会において、「日本語教育の参照枠」の活用のための手引(以下、手引)が取りまとめられました。2021年10月に公開された「日本語教育の参照枠」の、具体的な教育現場での活用方法のヒントが豊富に盛り込まれており、日本語教師にとって非常に有益なものになっています。ここでは3章に分かれている手引の概要をご紹介します。

第1章:「日本語教育の参照枠」とは

手引は、第80回文化審議会国語分科会の配布資料の資料3-1から見ることができます。「日本語教育の参照枠」とは、学習者の日本語レベルに応じて求められる日本語教育の内容・方法を明らかにし、外国人等が適切な日本語教育を国内外で継続的に受けられるようにするため、日本語教育に関わる全ての人が共通に参照できる日本語学習、教育、評価のための枠組みです。「日本語教育の参照枠」を参照することにより、日本語学習者や日本語教師が、生活、就労、留学といった外国人の活動状況に応じた日本語教育の基準や目標を定めやすくなります。開発に当たってはCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)を参考にしています。

この「日本語教育の参照枠」は、今後の大きな日本語教育の方向性を指し示すものとして日本語教育関係者が注目していますが、その最終報告書は150ページ以上に及ぶ大部で、全体像を把握するのはなかなか大変だという声も聞かれます。

そのため、具体的な事例を盛り込んで教育現場で使いやすい形にまとめられたものが、今回ご紹介する手引です。この第1章では、改めて「日本語教育の参照枠」のポイントについて、12のQ&A形式で分かりやすく端的にまとめられています。Qのみをピックアップしてみましょう。

Q1:なぜ「日本語教育の参照枠」が取りまとめられたのですか?

Q2:どのような人が参照するのですか?目的は何ですか?

Q3:「日本語教育の参照枠」の普及によって期待される効果は何ですか?

Q4:どのような言語教育観に基づいて「日本語教育の参照枠」は取りまとめられたのですか?

Q5:日本語の力をどのように示しているのですか?

Q6:どのようなレベル尺度を用いているのですか?

Q7:Can doとは何ですか?どのような考え方が背景になっていますか?

Q8:Can doには、どのような種類がありますか?

Q9:Can doベースのカリキュラム授業はどのように変わりますか?

Q10:評価の三つの理念とは何ですか?

Q11:日本語能力をどのように評価するのですか?

Q12:Can doを評価にどのように用いるのですか?

「日本語教育の参照枠」について最初から確認したいという方はQ1から一つひとつじっくり読んでいってもいいですし、既に「日本語教育の参照枠」について目を通したという方は、気になるQから読み始めてみてもいいでしょう。

各Qの合間にはコラムが挟み込まれています。コラムでは、「子供に対する日本語教育」「国内の英語教育におけるCEFR-Jの取組」「CEFRを参照している各国の事例(ドイツ・韓国)」など、「日本語教育の参照枠」やCEFRに関わる重要な補足がなされています。

第2章:Can do をベースにしたカリキュラム開発の方法

第2章では言語能力記述文(Can-do)をもとにしたカリキュラム開発(コースデザイン)の手順評価の方法について説明しています。

コースデザインでは、まずコースデザインを行う上で重要になる視点(考え方)として、「日本語学習者が社会の中で取り組まなければならない言語的な課題な何か」「そのために必要な日本語でのコミュニケーションは何か」を挙げています。その視点を踏まえた上で、調査・分析→計画→実施評価の各段階に分けてコースデザインをしていくとしています。

この際の一つの重要な考え方としてバックワード・デザイン(逆向き設計)が紹介されています。バックワード・デザインでは、

①学習目標を設定し、

②学習目標の達成度合いを測るための評価方法を決め、

③その評価方法でよい成果が得られるために、どのような教材を使ってどのような授業を行うか

を考えます。つまり、学習目標の次に評価方法を決めてから、教える内容や方法を考えるという手順になります。評価方法を先に決めて、それを達成するための授業内容や教材を考えるのが特徴です。何もないところからカリキュラムを開発する場合は、このような考え方や進め方で進めていきます。

一方、教育機関によっては一からコースをデザインするのではなく、以前からコース自体は行われており、そこでのシラバスや教える内容がある程度決まっており、そこにCan doを組み込むような場合もあると思われます。そのような場合は、①学習目標を立て(Can doリストから適切なレベル、言語活動などのCan doを選ぶ)、②学習目標とトピックや題材・学習項目とを関係付けて(Can doを達成するための語彙や表現を選ぶ)、③アセスメント(タスクや評価の用意)を考えるとしています。バックワード・デザインの場合は、②と③を入れ替えます。

評価では、テストに加えて、パフォーマンス評価(ルーブリックの作成)、ポートフォリオ評価など、多様な評価法が紹介されています。

第3章:Can do をベースにしたカリキュラムの事例

手引の第3章では、「生活」「留学」「就労」の分野に分けてカリキュラムの事例が掲載されています。紹介されている実例は、以下の通りです。

生活:地域日本語教育における県の事例として、しまね国際センター(SIC)訪問日本語コース

留学:法務省告示日本語教育機関の事例として、コミュニカ学院のカリキュラム

就労:定住外国人に対する就職支援事業実施機関の事例として、一般社団法人日本国債協力センター(JICE)外国人就労・定着支援研修

それぞれ「カリキュラム開発経緯、背景、開発者の思い」「対象、目的、特色」「カリキュラム開発のプロセス」「評価の方法」など、共通の項目によって分かりやすく整理されています。この第3章の事例を参考にしながら、日本語教育の現場ではそれぞれの「現場Can-do(個別の団体・教育機関等が自由に作成する言語能力記述文)」を作成し、目前の学習者の言語的な課題を解決するためのカリキュラムを開発していくことが望まれます。

なお、「日本語教育の参照枠」の内容と関連したシンポジウムとして、以下の動画が既に公開されています。シンポジウムに参加されなかった方や、「日本語教育の参照枠」についてより理解を深められたいという方は、ぜひこちらもご覧ください。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/taikai/r03/93679501.html#

評価について、知ろう、見直そう 『日本語教育 よくわかる評価法』

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