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日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

勘違いしやすい日本語

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日頃から日本語を教えていて、日本語については人一倍敏感な日本語教師の皆さんでも、意外と勘違いしている日本語というものはあるものです。ここでは世間一般に勘違いしやすいとされている日本語をチェックしてみましょう。

意味を勘違いしやすい日本語

文化庁が毎年行っている調査に「国語に関する世論調査(以下、調査)」があります。これは、日本人の国語に関する意識や理解の現状について調査し、また、国民の国語に関する興味・関心を喚起するものとして、平成7年度から毎年実施しているものです。この中で、毎回、慣用句の意味を問う質問があります。この中で、本来の意味とは違う意味で捉えている人が多かったものをご紹介します。〇が本来の意味です。

流れに棹さす

傾向に乗って勢いを増す
 傾向に逆らって勢いを失わせる

平成18年度の調査で、本来の意味とは反対の意味に理解している人が多かったものです。そもそも、竹棹を使って船を進める船頭さんの姿などが思い浮かぶ人は本来の意味を想像しやすいと思いますが、そのような姿は今や観光地などでしか見ることができなくなりました。意味を取りにくいのも止むを得ないのかもしれません。

不足

〇役目が軽すぎること
 役目が重すぎること

これも平成18年度の調査で、本来の意味とは反対の意味に理解している人が多かったものです。「力不足」と「役不足」を取り違えてしまうことがあるかもしれませんが、「力不足」=「(自分の)力が足りない」、「役不足=(与えられた)役目が足りない」と整理すると、勘違いを防げます。

世間ずれ

〇世間を渡ってきてずる賢くなっている
 世間の感覚からズレている

平成16年度の調査では、世代によって意味の理解が異なっている結果が出ました。年配者は本来の意味で理解している人が多く、若い世代では違う意味で理解している人が多かったものです。世間ずれの「ずれ」は「ズレている」「外れている」ではなく、「擦(す)れている」の意味です。

潮時(しおどき)

〇ちょうどいい時期
 物事の終わり

平成24年度の調査で、調査対象となった言葉です。「そろそろ潮時」のように、「引退」「別れ」などの場面で使われることが多い言葉であるせいか、ネガティブな意味で捉えている人が多いようです。しかし、本来は「ちょうどいいタイミング」という積極的な意味合いがあります。

気が置けない

〇気遣いの必要がない、遠慮が要らない
 気が許せない、油断できない

平成18年度の調査で、本来の意味とは反対の意味に理解している人が多かったものです。「気が置ける」が「相手に遠慮する」「気が許せない」の意味ですので、その反対の「気が置けない」は、「気遣いの必要がない」「遠慮が要らない」という意味になります。

少し前ですが文化庁が作った「ことば食堂」という動画サイトがあります。こういった間違えやすい日本語の慣用句やその背景を動画で分かりやすく、楽しく紹介しています。

「ことば食堂」

https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kokugo_shisaku/kotoba_shokudo/index.html

形を勘違いしやすい日本語

似た形の言葉に引っ張られて、形を間違えやすい日本語があります。こちらも文化庁の調査などからご紹介します。

〇足をすくわれる
 足下(足元)をすくわれる

平成19年の調査では、「足下をすくわれる」を選んだ人が、本来の形である「足をすくわれる」を選んだ人よりも圧倒的に多数でした。「すくう」は「払う」の意味ですから、払うのは「足」であって「足下」ではありません。

 

〇熱に浮かされる
 熱にうなされる

平成18年度の調査では、「夢中になって見境がなくなること」として「熱にうなされる」を選んだ人が「熱に浮かされる」を選んだ人より多数でした。そもそも「熱に浮かされる」には「夢中になって見境がなくなること」「高熱が出てうなされること」の2つの意味がありますので、非常に紛らわしいと思います。

 

〇声をあららげる
 声をあらげる

平成22年度の調査では、「声をあらげる」を選んだ人が、本来の形である「声をあららげる」を選んだ人より圧倒的に多数でした。漢字で書くと「荒(あら)らげる」「荒(あら)げる」ですので、これも非常に紛らわしいと思います。

 

〇押しも押されもせぬ
 押しも押されぬ

平成24年度調査では、「押しも押されぬ」を選んだ人が、本来の形である「押しも押されもせぬ」を選んだ人をわずかに上回りました。「押しも押されぬ」は「押すに押されぬ」の形に引っ張られているように思われます。

 

〇しかつめらしい
 しかめつらしい

こちらは文化庁の調査ではまだ聞かれていないようですが、「しかめっつら」に引っ張られて間違った形で覚えてしまっている人も多いようです。「しかつめらしい」とは、「まじめで堅苦しい」の意味になり、「しかめっつら」とは関係がありません。

読み方を勘違いしやすい日本語

読み方を間違えやすい漢字の中には、本来の読み方より新しい読み方が市民権を得ているものもたくさんあります。こちらも似た形や意味の言葉に引っ張られることがよくあります。

代替書類

〇だいたい書類
 だいがえ書類

取引先や役所へ提出する書類などでよく使われる言葉ですが、業界によってはむしろ「だいがえ」のほうが一般的な場合も多いようです。

年俸

〇ねんぽう
 ねんぼう

最近は月給制から年俸制に変わってきている会社も少しずつ増えていますが、「俸」と「棒」の形が似ているので、「ぽ」ではなく「ぼ」と読んでしまうことがあります。 

漸く

〇ようやく
 しばらく

「しばらく」は「暫く」、「暫時(ざんじ)」とも言います。「ようやく」は「漸く」、「漸次(ぜんじ)」とも言います。非常に紛らわしいので注意が必要です。

汎用

〇はんよう
 ぼんよう

「凡」の字に引っ張られて「ぼん」と読んでしまう人がいますが、「汎」は「はん」と読みます。ちなみに、「凡」にも「凡例(はんれい)」のように「はん」という読み方があります。

強ち

〇あながち
「強(あなが)ち~ない」の形で「必ずしも~ではない」の意味になります。よく使われる言葉ですが、漢字になると戸惑いますね。

いかがでしたでしょうか。日頃はあまり意識していない言葉でも、改めて見てみるといろいろな発見があります。なぜ勘違いされやすいのか、その社会的背景や、形や意味の似た言葉なども含めて考えてみるのも面白いものです。