2020東京オリンピックを1カ月後に控えた2021年6月末現在、日本政府はすべての国・地域からの新規入国の一時停止の措置を継続しています。2020年10月に一時的に新規入国が許可されたことはありましたが、1年以上に渡って断続的に続く入国制限により、日本語学校の学生数が大幅に減少し、そのことが日本語学校およびそこで教える日本語教師に大きな影響を与えています。そして何よりも大きな影響を被っているのが、日本留学を希望しながら、それが叶えられずにいる留学生の皆さんです。
緊急事態宣言と海外からの入国制限
日本政府は新型コロナウイルス対策として、これまで3回にわたって特別措置法に基づく緊急事態宣言を出してきました。
第1回:2020年4月7日~5月25日
第2回:2021年1月8日~3月21日
第3回:2021年4月25日~6月20日(東京など7都道府県はまん延防止重点措置に移行、沖縄は7月11日まで緊急事態宣言継続)
第1回の緊急事態宣言が明けた後、比較的新規感染者数が落ち着きを見せていた2020年10月、日本政府は「国際的な人の往来再開に向けた段階的措置について」を発表し、ビジネス上必要な人材等に加え、順次、留学、家族滞在等のその他の在留資格も対象とし、原則として全ての国・地域からの新規入国を許可することを決定しました。
しかしそれも束の間、2020年末から2021年始にかけての人の移動などにより、東京での新規感染者数が1,000名を超えると、日本政府は止む無く第2回の緊急事態宣言を発出します。この緊急事態宣言の際の水際対策として、海外からの新規入国は停止されました。そして、緊急事態宣言が解除された後も、新規入国は停止されたままです。
日本語学校から日本政府への要望書
2020年以降、新型コロナウイルスの影響で留学生が入国できず、苦境に立たされた日本語学校は、2021年4月に日本語教育機関関係6団体*1の名前で、「コロナ禍における日本語教育機関の窮状と支援のお願い」という要望書を日本語教育推進議員連盟宛に提出しました。また5月には、「日本語教育機関への支援と留学生の入国制限早期緩和について」の要望書を、日本語教育機関関係6団体から加藤勝信・内閣官房長官に提出しました。
要望書では次のような現状と課題が述べられています。
・2020年から続く断続的な入国制限により新規入学者が来日できず、日本語学校の在籍者数が大幅に減少している。
・日本語学校の運営は学生の授業料で賄われているため、留学生の減少は日本語教師の雇用、日本語学校のインフラ(日本語教育の中核)としての役割に大きな影響を与えている。
・また、そのことは留学生の進学先である大学・専門学校への影響、留学生の就職先である企業に影響を与えている。とりわけ、人材不足の著しい介護業界やコンビニ業界への影響が懸念される。
その上で、
・日本語教育機関への財政支援として、在留資格認定証明書交付人数(キャンセル含む)に応じた日本語教育機関事業継続緊急給付金等
・日本語教育機関の教職員(非正規雇用含む)に対する支援策として、雇用調整助成金の特例措置の延長等
を要望として挙げています。
そして最後に、日本に留学する留学生の公益性・非代替性・緊急性に鑑みて、留学生の入国制限の早期緩和を強く訴えています。
スポーツイベントより大切な日本留学
そんな中、「Japan's Entry Ban~日本の入国制限について 日本留学を希望する学生たちの窮状と日本への思い」というWEBサイトが大きな反響を呼んでいます。
https://educationisnottourism.com/ja/homepage-2/
このWEBサイトは「コロナ禍の日本留学の扉を開く会」によって運営されており、留学エージェント会社「ゴーゴーワールド」を経営するダビデ・ロッシさんが会の代表を務め、カイ日本語スクールの山本弘子校長が副代表を務めています。また日本語学校の経営者がコアメンバーに、有志がサポーターになっています。
WEBサイトには、日本の大学院での日本文学の博士号取得を目指して2020年に留学を予定していたイタリア人女性、日本の特撮技術を学ぶために日本留学予定だったアメリカ人女性、機械工学が専門のエンジニアで2021年留学を予定していたインド人男性など、日本留学を目指しながら、未だ母国にいて日本留学を果たせずにいる多くの留学生の生の声を紹介しています。WEBサイトを通じて、世界中の若者が日本政府に入国制限の早期緩和を求めています。
URLの「Education is not tourism.(教育はツーリズムではない)」に、この会の思いは凝縮されているように思われます。以下、ミッションの記述を引用します。
日本語を学ぶ人は世界に300万人以上いると言われています。その中で、日本留学を目指す人は年間で約4万人、1%に過ぎません。その貴重な人たちが、コロナ禍の入国制限に阻まれ、来日できずにいます。彼らの多くは、何年もかけて日本留学を目指して準備してきた若者たちです。観光やスポーツイベントのために来日する人たちとは質的に大いに異なり、これから日本の一員あるいはパートナーとなる人たちです。
コロナ禍にあっても、海外では留学生受け入れが着々と進められています。このような現状を鑑み、日本留学を目指しながら裏切られた思いで過ごしている多くの若者の声を届け、日本が冷静な受け入れ議論へと進むことを心より願い、本サイトを立ち上げました。
新規入国の留学生によるクラスターは発生していないこと、非常にコントロールされた受け入れ体制が整備されていることをご理解いただき、留学生の入国にご協力いただけることを目指します。
来日して日本や日本語を学びたいと切実に考えている留学生の声を、皆さんにもお聞きいただきたいと思います。
*1:(一財)日本語教育振興協会、(一社)全国日本語学校連合会、(一社)日本語学校ネットワーク、全国専門学校日本語教育協会、(一社)全国各種学校日本語教育協会、(一社)全日本学校法人日本語教育協議会