NJ

日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

オンライン授業の再開を模索するも、まだ実現には至らず──ミャンマーの日本語教室から

282

クーデターから5カ月、今も緊迫した状況が続くミャンマー。現地の語学学校、アミクスグローバルミャンマー・ランゲージセンターでは、一部の学生からオンライン授業の再開を求める声が寄せられ、再開を模索する動きも出始めています。一方で、クーデターで生活が一変し、授業料を払うことが難しくなっている人も少なくないようです。この2カ月間の様子を、アミクスグローバルミャンマー・ランゲージセンター日本語主任の渡辺幸子先生に伝えてもらいました。(NJ編集部)

2021年5・6月のミャンマー便り

5月11日(火)

先週は日本がゴールデンウイークだったため、2週間ぶりのミーティングです。みんな元気そうで何より!

 5月18日(火)

定例ミーティング。それぞれの町の様子を聞くと、一時に比べて落ち着いてきてはいるものの、町の中に軍の人たちがいて、普通の雰囲気ではないとのこと。買い物は一日中できるわけではなく、午前で閉める店が多いため、みんな朝早いうちに必要なものを買い、あとは家でじっとしているそう。日本もコロナの影響で家にこもりがちではあるものの、精神的な窮屈さが全然違うと感じます。

用事があって地方から都市へ移動する際には、途中のチェックポイントで車を止められて携帯電話のチェックがあるそうです。このとき、スマホを持っていてはいけないため、今さらながらガラケーに変えた人がたくさんいるとのこと。

5月25日(火)

定例ミーティング。それぞれの町の様子は先週と変わりなし。相変わらず軍の人たちが町中にいて、店は午前で閉まってしまうそうです。

ミャンマーの学校は6月1日からが新学期のため、例年、今の時期は登録する生徒たちでごった返すのですが、軍政下での教育を拒否する人が多く、学校はガラガラとのことです。にもかかわらず、国軍は「学校に申し込み殺到」と、受付に群がる人の写真付きでニュースを報じたそうです。しかし、その写真をよく見ると撮影日が2年前の2019年5月……何ともお粗末です。Facebook上では、逆に大きく報じられていました。

6月1日(火)

定例ミーティング。国内の状況は良くなったとは言えませんが、ネット環境だけはWi-Fi、モバイル通信ともに改善されてきたとのこと。一部の学生からオンライン授業再開の希望が寄せられたこともあり、7月に「オンライン会話コース」再開を目指して生徒を募集することになりました。会社として、学校としてコースを成立させるには、既存学生と新規学生を合わせて25人の希望者を集めなければなりません。生活状況が変わっている学生もいるので何とも言えませんが、何とか無事に再始動できますように。

6月8日(火)

定例ミーティング。会話コース再始動に向けて、募集状況の確認。新規の問い合わせはあるものの、ミャンマー人は締め切り直前に決める傾向にあり、即断即決はしない様子。もう少し気長に待つしかありません。

ミーティング終了後、ネット環境の不良で参加できなかったミャンマー人の先生から連絡があり、1人の学生が国軍に捕まり、5月中旬から刑務所に収監されているとのこと。このことを知らせてくれたのは、収監された彼と出身地が同じで仲が良く、一緒に当校に入学してきた学生でした。しかし捕まった理由は不明。彼は小学校の先生でもあったので、聖職者だから捕まったのかと思いましたが、結局のところ理由はわかりません。暑いミャンマーの刑務所で、どのような環境にいるのかわかりませんが、とにかく無事で、1日も早く出てきてくれることを願うのみです。

また別の学生は、日本でいう指名手配になっており、警察から逃げている状態とのこと。指名手配の理由は、デモに参加した際、リーダー的なまとめ役の立場にいたからだそう。私が学校で見ていた彼女は、素直で、一生懸命で、たまにはズレたところもある、かわいい学生です。その彼女が「リーダー的なまとめ役の立場」にいたことに、少し驚きを覚えましたが、一生懸命ミャンマーの未来を考えて、必死に戦っていたのだろうと思うと、胸が詰まります。

この2人も含めて、とにかく全員が無事で、元気でいてくれますように。

6月15日(火)

定例ミーティング。会話コースの募集状況の確認。それぞれの町の様子は基本的に変わりがありませんが、あるミャンマー人の先生がいる町では、最近銀行が閉まっていて現金不足に困り始めているとのこと。そういえば、ミャンマーチャット(紙幣)を印刷する資材(紙やインクなど)をドイツから購入していたのが、「クーデターが終わるまで、資材の提供はしない」とドイツ側から通達があったというニュースを思い出しました。この影響も出ているのかもしれません。町のATMには朝5時から人が並び、今は週1回のみ、20万チャットまでしか引き出せないそうです。さらに、ヤンゴン市内は物価が上がってきているそうで、生活の困窮が迫ってきているように思います。

6月22日(火)

定例ミーティング。会話コースの募集状況の確認。当初期待したほど学生は集まっていない様子。クーデター後、ミャンマーを出て国外へ行きたい人が増えていると聞いていましたが、生活状況が一変して授業料を払えない人が多いこと、またJLPTや特定技能試験など、日本語に関する試験が実施されていない状況では、学生がモチベーションを保つのも、学校が学生を集めるのも難しいのかもしれません。

6月28日(月)

定例ミーティング。会話コースの募集は、目標だった25人に届かず、開講しないことが決定しました。たいへん残念です。まだしばらく授業はできませんが、1日も早くみんなと一緒に日本語を勉強できる日が来ることを切に願っています。