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人との関係性を創るための新教材『キャラクターと学ぶリアル日本語会話』発売!

学習者の話しているのは文法的に「正しい」日本語。でも、その意図が相手に伝わらないばかりか、場合によっては相手を怒らせてしまうようなことがあれば大問題。そんな実際にあった学習者の悩みと、それを解決するための日本語教師の工夫から生まれたのが、『キャラクターと学ぶリアル日本語会話――ようこそ前田ハウスへ』です。東京・新大久保のカイ日本語スクールの3人の先生によって、長年、学内だけで使われていた人気教材が市販されることになりました。著者の山本弘子代表、松尾恵美先生、増田アヤ子先生にお話を伺いました。

キャラクターになりきることで自然な日本語を身につけられる

――本書は長らく、カイ日本語スクールの中で学内版として使われていた教材ですね。

はい。実に15年間をかけて学内で使っていたものを、外向けに改訂し、このたび市販することになりました。

――本書は一言で言うと、どんな特徴があるのですか。

本書はこれまでの日本語教材になかった、日本語の非言語について学ぶことができるユニークな教材です。従来、非言語の習得は学習者個人の資質に任せられるところが大きかったのですが、本書はそこを正面から捉えたチャレンジングな教材になります。

――非言語を学ぶ際には、どういったところが難しいのでしょうか。

教材の中で新出文型や表現を「(こういう点に注意して)言ってみましょう」などとすることは可能ですが、それでは学習者が本当に自分の気持ちを日本語で表現できるようにはなりません。そこで私たちは「交流分析」という心理学の精神分析の手法をベースに、教材の中に登場する7人のキャラクターそれぞれに明確な性格づけを行い、学習者がそのキャラクターになりきることで自然な表現ができるようにする工夫をしました。

――「交流分析」とは、どのような理論なのでしょうか。

交流分析はアメリカの心理学者エリック・バーン博士が始めた理論体系で、コミュニケーションや人間関係の改善と自己成長を目的にしています。この理論では、人は誰でも5つの自我状態を心の中に持っていると考えます。そして、それらの自我状態が、場面や状況により出たり入ったりして、反応すると考えます。

――5つの自我状態とは?

CP(批判的親)、NP(養育的親)、A(成人)、FC(自由な子ども)、AC(適応した子ども)です。一人の人の中にこれら要素が全てあり、例えば、仕事の時は冷静で客観的な反応(A)をするけど、友達同士では楽しい冗談を言い合い(FC)、子どもと話す時は優しくなる(NP)など、相手や場面によっていろいろな反応をします。交流分析では、そうした5つの状態の組み合わせの違いがキャラクターに反映すると考えます。

――自分の中にいろいろな性格が同居していて、相手によって異なる自分が強めに出る、というのは分かるような気がします。それで、性格づけをしたキャラクターになりきって、非言語を含めていろいろな反応ができるようにしたのですね。

学習者は「〇〇に共感する」「×はこんな言い方はしないと思う」などと、キャラクターの気持ちに寄り添いながら学習を進めていきます。そうするうちに、自分の母国でコミュニケーションするときと同じように、日本語でも自然なコミュニケーションや自己表出ができるようになるというわけです。学習者は自分の気持ちを表すのは大好きなので楽しく授業に参加しますし、教師も学習者に乗せられて授業が盛り上がるということが多いようです。また、学習者は自分の気持ちを表出するだけではなく、相手の気持ちを受け止め、考えて、理解しようという態度に変化し始めます。そして、言葉の裏にある本当の気持ちに目を向けて、反応できるような下地作りにつながります。

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音声や教師用マニュアルも完備した使いやすい教材

――それでは本書の背景や特徴が分かったところで、次に本書のボリューム、構成や使い方を紹介してください。

本書は80課のユニットがあり、全ての課が見開き2ページで構成されています。本書には無料でダウンロードできる音声と教師用マニュアルがありますので、まずそれらをダウンロードしてください。

音声には、各課のマンガ(スクリプト)、キャラクターの気持ち(独り言)、練習問題の音声が入っていますので、授業で適宜使用してください。非言語に焦点を当てた教材ですので、音声は大変重要です。字面で理解しようとせず、できるだけ音声から感情を読み取るようにしてください。そのためにも、声優さんにはリアルな表現をお願いし、楽しく聞いていただける仕上がりになっています。

教師用マニュアルには、課ごとの授業の進め方の注意点や活動例などが詳しく掲載されていますので、まずはマニュアルを読んで授業の流れを確認するようにしてください。

―――音声やマニュアルが完備しているのは、経験の少ない日本語教師にとってはありがたいですね。全ての課が見開き2ページとのことですが、各課はどのような構成になっているのでしょうか。

全ての課は「発話意図」「キャラクター理解」「他者理解」の3つのパターンに分かれており、それが冒頭にアイコンで示されています。このアイコンで各課の目的を確認します。

左ページには4コママンガが2つ(一部2コママンガが4つ)掲載されています。音声を使って、キャラクターになりきって話す練習やクラスメートと会話練習をしましょう。マンガの下には新出語を英語、中国語、ベトナム語の3カ国語訳付きで載せていますので、学習者の理解の助けになるでしょう。

――マンガなので場面や状況が分かりやすいですね。キャラクターの表情も豊かで、学習者が感情移入できそうです。

右ページの「キャラクターの気持ち」では、より深くキャラクターの気持ちを理解します。ここは音声を聞きながらシャドーイングするのがお勧めです。そして、「Brush Up」で会話練習をしたり、「Discussion」でクラスメートと意見交換をすることで自分とは異なるさまざまな意見に触れることができます。

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非言語要素を学べる日本語教材は珍しい

――ところで本書は3章構成になっていて、それぞれ「出会い」「衝突」「理解」と章のタイトルがついています。特に「衝突」の場面では、(ネタばれになるかもしれませんが)登場人物がけんかをしたり、泣いたり、愚痴を言ったりする場面が出てきて驚きました。日本語の教科書で、こういった負の場面設定は珍しいのではないでしょうか。

はい、あまりないと思います。一般的な日本語教材では登場人物に強烈なキャラクターを設定することはありませんし、その分、生き生きとした登場人物にはならないことも多いのではないでしょうか。

――そうですね。日本語の教材の登場人物と言っても、あまり記憶に残っていないですね。

人間ですから、意見や価値観が異なれば、時には衝突することもあります。それを避けていては、本当のコミュニケーションは生まれません。しかし、日本語教材の中にそういう場面がなかったら、そんなときに学習者は自分の気持ちをどんなふうに表現したらいいか分かりません。大事なのは衝突を避けることではなく、衝突した後でどう相手を理解して関係を修復するかです。もちろん関係修復のために必要な日本語も本教材では取り入れています。

――登場するキャラクターはいずれも個性豊かですし、教材の中ではそのキャラクターたちはシェアハウスに住んでいますので、衝突が起こるのは当たり前のように思えてきました。それこそが日常生活の自然な風景だと思いますし、そういう中でコミュニケーションしていくための自然な日本語を学ぶ教材なんですね。

もちろん教材の中で紹介している日本語もあくまで一例であって、学習者がコミュニケーションする相手や状況によってもいろいろと変わってくるでしょう。この教材を通して、学習者自身がやりとりに必要な観点をたくさん見つけて、その中から適切な方法が使えるようになればと思っています。

――一般に日本社会はハイコンテクストな文化で、そこで使われる日本語は文脈依存度が高く、「察し」が求められると言われます。そうした中では、このような非言語の役割は非常に大きいように思いますが、これまでの日本語教材ではあまり注目されてこなかったようにも思います。

日本語教育に広く取り入れられているCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)でも、そのような非言語を含めた、いわゆる社会言語能力や言語運用能力に当たる部分が重視されてきています。中級、あるいは上級の学習者の中で、一通り日本語の文法を学習したという人の中にも、言葉の裏に隠されたメッセージを読み取れずに苦労する場合が少なくありません。社会的存在として日本語の社会で生きるためには、日本語教育現場でも、いわゆる〈行間〉が読める工夫をする必要があると思います。本教材が、日本語社会で生きる人たちのための一助になればという思いで開発しました。

――対象レベルはどのぐらいから使えるのでしょうか。

N4レベルから使用することができるようにしています。項目既習のものが多く、一見易しそうだと感じるかもしれません。しかし、あえて自然でこなれた表現も多く組み込んでいるので、実際授業で使ってみると、戸惑われることもあると思います。とにかく、従来の教材とは切り口が違うことから、学習者にも教師にもいろいろな新しい発見がある教材という点では、N1などの上級レベルの方にも使っていただけます。実際、私たちの現場でも企業内定者の研修で、いわゆる〈行間を読み取る〉練習にも使うことがあります。上級者の場合は、気になったところを中心に、気持ちを深堀したり、お互いの体験をシェアするなど、練習から離れて自由に使うといいでしょう。

授業での使い方に迷うところがあったら、「教師用マニュアル」をぜひ開いてみてください。日本語学校だけではなく、地域のボランティア教室や企業研修などで使うのもお勧めです。多くの方から、使ってみての感想やフィードバックなどをいただけるとありがたいです。

――本日はどうもありがとうございました。