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もしもJLPT対策で文法を教えることになったら①

日本語学習者の日本語能力を認定する試験として一番よく知られているのが日本語能力試験(略称JLPT)です。学習者が自分の日本語能力を確認するだけでなく、例えば受験資格N2以上等、大学、専門学校の受験や、企業への就職の際の条件としても利用されます。もし、あまり日本語教授経験がないうちに、このJLPT対策を担当することになったら、どのように準備すればよいのでしょうか。今回はJLPTの試験内容のうち文法に限ってお話ししたいと思います。

まずは、試験で何が求められているのかをよく知ること

プライベートレッスンやボランティアで会話を中心に教えてきたけれども、学習者からJLPTを受験してみたいと言われた。または教え始めた日本語学校で、JLPT対策クラスの文法を担当してくださいと言われ、ポンと試験対策用の問題集を渡された。

そんな時、どうしますか。

すぐに問題集を開き、授業準備を始めますか。そこにはたくさんの文法項目と練習問題が載っていて、これを一つずつやっていくのは相当に大変だと感じるのではないでしょうか。

もし初めてJLPT対策を担当することになったら、私がお勧めするのは試験の主催団体である国際交流基金及び日本国際教育支援協会から出されている『日本語能力試験公式問題集』(凡人社)をじっくり見てみることです。この問題集の後ろのページに試験の目的、特徴などが書かれています。その前に「日本語能力試験 JLPT」の公式ホームページ(https://www.jlpt.jp/)も必ずチェックしてみてください。

そのホームページの「4つの特徴」の中には「課題遂行のための言語コミュニケーション能力を測ります」と明記されています。文法は文字や語彙とともに言語知識と呼ばれるカテゴリーに入るのですが、単に知っているだけでなく、その知識を実際のコミュニケーションでどのくらい使えるかが重要だと考えられていることが分かります。

つまり、文法項目をたくさん知っていて、試験で選べるだけではだめで、コミュニケーションに活かせなければならないということだと思います。であれば、教える側もその意識を持って取り組むことが必要になります。

因みに特に資格として利用されることの多いN3~N1のレベルでは、総合得点180点のうち、「言語知識をコミュニケーションでどれぐらい使えるか」を見る読解と聴解のパートが、合わせて120点と全体の3分の2を占めています。これに対し言語知識は3分の1の60点。それも文字、語彙、文法を合わせての点数です。これを考えると、試験対策としての優先順位も決まってくるのではないでしょうか。

文法中心の教科書じゃないとJLPTには合格できない?

それから、よく聞かれるのが、学習者をJLPTに合格させるには文型文法中心の教科書でなければダメだという話です。タスク型やコミュニケーション中心の教科書を使ってみたいんだけれど、JLPTの合格率が下がったら困るし、と考える日本語学校教師の方もいるようです。

しかし、本当にそうなのでしょうか。先にも言ったようにJLPTで求められているのは、「課題遂行のためのコミュニケーション能力」です。そしてどのタイプの教科書でも課題遂行に必要な文法項目が載っていないということはないのです。つまり、コミュニケーション中心であっても文法も勉強するのです。というより、コミュニケーションのためにも文法が必要なのです。

このような誤解を生みやすいのは、コミュニケーションのための生きた場面で学習した文法項目とJLPTの文法項目が同じものとして結びついていないからではないでしょうか。

そして、また公式問題集の話に戻りますが、文法パートには3種類の大問があります。文の内容に合った文法形式を選ぶ「文の文法1」、統語的に正しく、意味が通る文を組み立てる「文の文法2」、文章の流れに合った文かどうか判断する「文章の文法」です。このうち、よくJLPTの文法として教材やYouTubeなどでも取り上げられるもの、例えば「~あげく」「~そばから」「~をものともせず」等のいわゆる文法的機能語と言われる表現は主に「文の文法1」で、その文に合ったものを選ぶという問題で出されます。

しかし「文の文法1」の問題をよく見てみると、意味と活用や接続などの形式を覚えているだけで答えられる問題は意外に少なく、残りは例文の場面、状況、人間関係などが理解できていないと答えられないものです。報道文のような硬い文もあれば、家族間のくだけた会話もあります。また文法項目が一つだけでなく複合的に使われているタイプの問題も見受けられます。例えば「~するわけないじゃない」「~させてもらおうかと思って」等。実際の言語使用ではよくあることですね。一つ一つは理解していてもそれらが組み合わさったとき、どのような意味を表すのかが問われます。

ということは、様々な場面で、相手との関係を考慮したコミュニケーションを多く学んでいる方が試験に強いとも言えるのではないでしょうか。逆に言うと試験のために、文法項目を場面に関係なく、例えば、あいうえお順などで勉強していっても、効果は薄く、却って学習者の負担になるのではないかと考えています。

また「文の文法2」、「文章の文法」に関しては、丸暗記で答えることはできません。ですから日ごろから多くの場面や文章に触れておくことが必要なのです。

具体的に試験対策するなら

このように、私自身はコミュニケーション中心の教科書であっても、そこに出てきた文法表現をしっかり理解し、使いこなせていれば、それはJLPTでも活かせると考えています。そしてJLPTというものが何か普段の学習とかけ離れたところにあるものではなく、つながっているのだと意識させることも重要なのではないでしょうか。

しかし、そうは言っても、なかなか教科書の文法と実際のテストが結びつかずに不安を感じる学習者もいるでしょう。その場合は、既に学習した項目を、改めて、使われる場面や機能別にまとめるという作業をしてみてはいかがでしょうか。理想は学習者自身が行うことなのですが、教師がサポートしながらでもよいと思います。

市販されているJLPT対策教材にも、試験によく出てくる文法項目をまとめてくれているものがいくつかありますから、それを使うのもよい方法だと思います。その際、場面に関係なく文法項目をバラバラに導入して、暗記させるというやり方は避けてください。それではたとえ覚えることができて、たまたま試験で正解したとしても、実際のコミュニケーションにつながるとはあまり思えませんし、試験の目的とも合っていないように思います。

テスト前の総仕上げには

JLPTは7月と12月の年2回実施されます。前述のようにメインの教科書を使いながらJLPT対策用のまとめ本を使うなどして準備をします。それで十分!と言いたいところなのですが、やはりどうしても合格したい、会社からの命令で合格しなければならない、資格試験を受けるためにJLPT合格が必要だなど、さまざまなケースも考えられます。受験料を払うからには誰だって合格したいですよね。

ですから最後の仕上げとして模擬試験タイプの問題集を使ってみましょう。時間を測って行い、その時点での実力や苦手分野を確認することもできます。公式問題集はそれぞれのレベルで2冊出ていますから、どちらか一方を学習開始時に試験を知るために使い、もう一方を模擬試験として使ってもよいと思います。苦手分野が分かればそこを集中的にトレーニングすることもできますから。

プライベートレッスンやボランティア教室の場合

日本語学校などの日本語教育機関では、学習のスケジュールが立てられていて、例えば4月~6月の3か月間で中級の教科書が終わり、7月にJLPT受験など計画ができる場合が多いです。しかしプライベートレッスンやボランティア教室の場合は、そうではないことが多いでしょう。週1回の学習で、短期間でJLPTに合格したいと言われたら、どうしますか。まずは学習者とよく話すことが大切ですね。試験の概要と、どの程度の学習が必要か、授業以外の時間も学習ができるかなど話し合いましょう。そして適切な教材や、役に立つサイトなどのアドバイスができるとよいと思います。また思い切って、JLPTの合格をメインにすえながら、コミュニケーション力も養成できるタイプの教科書を使うという方法もあるかもしれません。

いずれにせよ、日本語能力試験JLPTの特徴をよく知り、学習者の希望に合わせて適切に指導することが求められます。次回は、文法を指導する際に気をつける点や対策問題集の使い方についてお話しします。

執筆:仲山淳子

『日本語文法ブラッシュアップトレーニング』(アルク)著者。流通業界で働いた後、日本語教師となって約30年。5年前よりフリーランス教師として活動。

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