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地域日本語教育のこれからを読む

2022年6月7日、「経済財政運営と改革の基本方針2022」(以下、「骨太の方針2022」)が閣議決定されました。その第3章では、「外国人材の受入れ・共生」という項目が立てられ、外国人との共生社会の実現に向けた取り組みとして、地域における日本語教育の体制づくり等があげられています。本コラムでは、「骨太の方針2022」を基に、これからの地域日本語教育を読み解きます。(深江新太郎/NPO多文化共生プロジェクト)

地域日本語教育のこれまでと今

地域日本語教育の歴史を20年単位で区切って大局的に眺めてみると、次のように整理できます。

①1970年代・1980年代 中国からの帰国者、インドシナ難民を中心にした教室

②1990年代・2000年代 定住者として認められた日系ブラジル人を中心にした教室

③2010年代・2020年代 技能実習生を中心にした教室

このように整理することで、地域の日本語教室は国政と社会情勢の影響を大きく受けることが分かります。現在は③で、全国で、技能実習生を主たる対象にした教室がつくられています。この技能実習生を中心にした③の段階が、定住者を中心にした②の段階と大きく異なるのは、定住者の場合は浜松市、豊田市など、中部、東海、関東の製造業の盛んな地域にある程度、限定されるのに対し、技能実習生の場合は産業も多様で、全国の人口規模が小さな市町村にも及ぶことです。

さて、「骨太の方針2022」が言う外国人材は、専門的・技術的分野の在留資格、特定技能、技能実習、を指しています。中でも技能実習は、2010年以降、急激に人数が増えています。グラフ1は、2010年から2020年までの技能実習の人数の推移を示したものです。

グラフ1

技能実習は2010年時点では、11,026人で外国人労働者数の全体(649,982人)に占める割合が1.7%であったのに対し、2020年時点では402,356人となり、外国人労働者数の全体(1,724,328人)に占める割合も23.3%となっています(厚生労働省「外国人雇用状況」の統計資料より)。

ここで一つ補足ですが、地域日本語教育の歴史を大局的に整理しましたが、もちろん日本語教室の対象は各地で特色があります。例えば、私が主に活動を行っている福岡市は、留学生を対象にした日本語教室が中心です。福岡市内は大学が多いためです。1983年に策定された「留学生10万人計画」後、市内に留学生が増加し、日本語教室が多く立ち上がりました。ここからも地域の日本語教室は、国政とつながり合うことが見てとれます。

「骨太の方針2022」

「骨太の方針2022」は、次からご覧いただけます。

・内閣府「骨太の方針2022」

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2022/decision0607.html

では、実際に「骨太の方針2022」を地域日本語教育に焦点を当て、読んでいきましょう。「骨太の方針2022」で地域日本語教育への言及があるのはp.26です。まず、技能実習制度に対し、次のように記されています。

「技能実習生制度について人権への配慮等の運用の適正化を行う。これらを含めて、制度の在り方に関する見直しの検討を行う。」

この言及の背景には、技能実習生が違法な環境で雇用されている実態があります。2021年9月12日のNHK NEWS WEBは、厚生労働省の調査を基に、技能実習生を雇用する事業所の約70%が労働基準法などの違反を行っていることを報じています。

続いて、外国人との共生社会の実現に向けて、次のように記されています。

「外国人が暮らしやすい地域社会づくりのほか、(中略)日本語教育の推進や外国人児童生徒等の就学促進を含め、(中略)外国人との共生社会の実現に向けて取り組む。」

ここで着目したいのが、この引用箇所にふられた注です。注において、外国人が暮らしやすい地域社会づくりの一つとして、地域の日本語教育の体制づくり、が挙げられています。さらに具体的な施策については、次のように記されています。

「外国人との共生社会実現に向けて今後5年間に取り組むべき方策等を示すロードマップを策定する」

このロードマップとは、出入国在留管理庁が公開している「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」(以下、「ロードマップ2022」)です。この「ロードマップ2022」を読み解くことができれば、今後5年間の地域日本語教育を展望することができます。

「ロードマップ2022」

「ロードマップ2022」は、次からご覧いただけます。

出入国在留管理庁「ロードマップ2022」

https://www.moj.go.jp/isa/policies/coexistence/04_00033.html

「ロードマップ2022」は、まず外国人との共生社会のビジョンを示しています。そのビジョンは、

(1)外国人も安心、安全に暮らせる社会

(2)外国人も自分の能力を最大限に発揮できる社会

(3)外国人もその人らしく暮らせる社会

とまとめることができます。次にこの社会を実現するための4つの重点事項として、

①地域社会における日本語教育等の取組

②外国人に対する情報発信、相談体制強化

③ライフステージに応じた支援

④①~③を実施するための基盤整備

が挙げられています。

「ロードマップ2022」では、この4つの重点事項に対し、それぞれどんな課題があり、どのような取り組みが行われているか詳しく記載されています。本コラムでは、①地域社会における日本語教育等の取組について、見ていきます。①における中心的な取り組みは、「外国人が生活のために必要な日本語等を習得できる環境の整備」です。環境整備を担っている国の機関が文化庁です。文化庁が環境整備のために行っている大きな柱が「外国人材の受入れ・共生のための地域日本語教育推進事業 地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」です。この事業は都道府県と政令指定都市が、国の補助金を受け、地域日本語教育の体制整備を行うものです。詳細は、次からご覧いただけます。

文化庁「外国人材の受入れ・共生のための地域日本語教育推進事業 地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」

https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/chiikinihongokyoiku/

現在、この事業には34の都道府県と14の政令指定都市が取り組んでいて、私は福岡県と福岡市の事業のアドバイザー、コーディネーターを務めています。

また、地域日本語教育の体制整備という観点からは、「『生活者としての外国人』のための日本語教室空白地域解消推進事業 地域日本語教育スタートアッププログラム」も文化庁は行っています。このプログラムはまだ日本語教室のない地域において地方自治体が日本語教室を立ち上げるために、文化庁から委嘱を受けたアドバイザーが派遣され、日本語教室の立ち上げを支援するものです。私もアドバイザーの一人です。詳細は、次からご覧いただけます。

文化庁「『生活者としての外国人』のための日本語教室空白地域解消推進事業 地域日本語教育スタートアッププログラム」

https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/seikatsusha_startup_program/index.html

現在、このプログラムには20の地方自治体が取り組んでいます。このように、地方自治体が地域日本語教育の体制整備積極的に取り組む方向性が示されています。

地域日本語教育のこれから

地域の日本語教室は、国政、社会情勢と連動して動いています。ただこれまでは、社会課題と言える外国人との共生に対し、政策的なバックアップが十分でない状態で市民活動としての日本語教室が運営されてきました。したがって「骨太の方針2022」「ロードマップ2022」において、外国人との共生社会の実現のために地域の日本語教育の体制づくりが必要であることが言及され、地方自治体の関わりが明確に示されたことは新たな局面を意味します。なぜなら社会課題を解決する施策としての日本語教室を考えられるからです。

したがって、これからの地域日本語教育を考えたとき、地方自治体を中心に、どのような日本語教室をどのように運営していくのかという、日本語教室の制度設計を行うことがまず求められます。その際、総括的な観点から助言、連携が行えるアドバイザーやコーディネータ―、各地域の実情に精通したコーディネータ―の力が必要不可欠となります。多くの市民に参加してもらえる教室にするにはどうすればいいか、企業と連携した教室運営はどうすれば可能か、など、教室活動をスタートさせるまでの制度設計を各地域で丁寧に行うことが、これからの地域日本語教育には必要不可欠と言えます。

執筆/深江新太郎(ふかえ しんたろう)

「在住外国人が自分らしく生活できるような小さな支援を行う」をミッションとしたNPO多文化共生プロジェクト代表。福岡県と福岡市が取り組む「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」のアドバイザー、コーディネータ―。文化庁委嘱日本語教育施策アドバイザーなど。著書に『生活者としての外国人向け 私らしく暮らすための日本語ワークブック』(アルク)がある。