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ちょっとした工夫が効く!初級日本語テキストの使い方③ -応用練習で、教室を外の世界に少しだけ近づける

書店の日本語教育コーナーに行けばたくさん並んでいる初級日本語総合テキスト。このシリーズでは日本で働き、生活する人のための初級日本語テキスト『アクセス日本語』(アルク)を例に、毎日の授業で活かせる小さな工夫をまとめています。最終回の今回は「応用練習」です。

第1回:ちょっとした工夫が効く!初級日本語テキストの使い方① -扉イラストと登場人物- - 日本語ジャーナル

第2回:ちょっとした工夫が効く!初級日本語テキストの使い方② -残り数分でもう1回!ドリル練習

初級日本語テキストの応用練習

大型書店に行くとたいてい語学書の奥の方にある「にほんご」コーナー。JLPT対策の本や日本語教師向けの本とともに、たくさんの初級日本語総合テキストを目にすることができます。日本語学校の初級コースではこれらのうちの1冊を主教材として授業を進めていることが多いでしょう。現在国内外の日本語教育機関でよく使われる初級日本語テキストは、それぞれの特色を持ちつつ、基本的な構成は似たものになっています。

応用練習は、基礎練習(ドリル練習)の後にあり、その課の新しい語彙、表現、文型を一通り学習してある程度身に付いているということが前提になっています。しかし、実際にはそれぞれのクラス、学習者によってばらつきがあり、「言葉を覚えていないので練習にならない」「ペアでスクリプトを読み上げるだけの練習になっている」「動詞や形容詞の形を変える操作はできるが、実際の会話には応用できない」「会話練習と言っても結局単純な変換練習になってしまっているので、学生が飽きている」など、様々な問題が起こってきます。

スモールステップをつけよう

応用練習がうまくいかない原因はいくつか考えられます。まずはそもそも「その課の学習項目が身に付いていない」「学生のレベルに対して練習が難しすぎる」という場合です。初級テキストは基礎⇒応用と段階を踏んで学習できるよう考慮して作られていますが、個々の学生のタイプや実際の生活の状況(働いていて勉強する時間がないなど)によって理論通りにはいかないこともよくあります。

そうした場合に「スケジュールに入っているから」とそのまま練習をさせてみても、うまく進まなかったり、学生に「日本語って難しい、やりたくない」という気持ちにさせてしまうということもあり得ます。「この練習はこのクラスの学生にはちょっと難しいかな」と感じたら、学生が無理なく練習に取り組めるように小さいステップをつけるといいかもしれません。

『アクセス日本語』では、課の応用練習として「チャレンジ!」という項目が用意されています。上は第4課の応用練習「チャレンジ!」です。音声を聞いて空欄に言葉を書き取り、その後ペアで練習します。この段階の会話としてはかなり長く、( )には言葉、□には助詞を書き取らなければならないので、いきなり会話を聞かせてもなかなかさっとできるという学生ばかりではありません。

こういう場合、どんなステップが考えられるでしょうか。まずはイラストがありますから、それを見てどんな内容の会話なのか想像させることができます。「薬」という文字やトイレットペーパーからどんな店なのか推測することが可能です。次に、ペアやグループで会話を読んで、聞く前に( )や□にどんな言葉が入るのか予想しておくといいでしょう。何のヒントもなく会話を聞くよりは聞き取れる言葉が増え、「わかった!」という達成感につながるはずです。もちろん、会話文が長すぎる場合にはいくつかのパートに分けて、パートごとに聞くということも大切です。

こうしたスモールステップを踏んで応用練習をするときには、その練習の指示からずれてしまうこともありますが、特に初級の初めの頃にはまずは課題を達成し、日本語の学習に慣れてきてからハードルを上げるといった調節が必要になります。

「読む」「書く」「聞く」「話す」、他の技能を使ってみよう

「形通り練習をこなすだけでは時間が余ってしまう」クラスの場合、4技能に着目してプラスアルファの練習をするのもよいでしょう。といっても、それほど大掛かりなことではなく、テキストにある素材をそのまま他の技能を使って練習するだけでOKです。

上の『アクセス日本語』第11課「チャレンジ!」は、「私の週末」という文を読んで、自分でも同じテーマで作文するというタスクです。「読む」「書く」という技能が必要とされます。作文は苦手な学生も多いですが、モデル文がある場合少し語彙を入れ替えればできるので要領の良い学生はさっと書いてしまうこともあります。もし早く終わったら、「話す」という技能を加えて、ペアでお互いに「朝何時に起きますか」「それから何をしますか」と質問させる練習などができます。作文を書く前に質問させてみてもいいでしょう。作文を書いて終わり、ではもったいないです。書いた作文を使って少し練習を広げてみましょう。

学習者の実際の生活に少しだけスライドしてみよう

日本に住んで日本語学校に通う初級学習者は、教室で学ぶ日本語と教室以外で触れる日本語の2つの種類の日本語に接しています。初級ではまず日本語の体系をしっかりと学ぶ必要があります。最近はYoutubeなどインターネットから自然な日本語に触れる機会も増えていますが、近所やアルバイト先などで触れる教師以外の日本人の日本語は、教室で学ぶ日本語とは初級であればあるほど隔たりがあります。

『アクセス日本語』第10課の「チャレンジ!」です。にぎやかな町の絵があり、テレビのレポーターらしき人が町の紹介をしています。例文があり、それを参考に自分でも絵の中の町を紹介するというタスクです。自分が知っている語彙を駆使して、自分なりに日本語で表現することが必要となる応用練習ですが、そこにある絵は「練習のための絵」であり、学習者にとってはどうしても臨場感が薄いものです。

テキストにある練習の絵や写真は必ずそれをそのまま使わなければならないものではありません。学習者にとってもっと身近な、例えば日本語学校や最寄り駅の前の写真、学習者の出身国の有名な場所の写真、あるいは学習者自身に撮ってきてもらった写真などを使うこともできます。そしてそうした写真であれば、学習者が本当にクラスメイトや知り合いの日本人に伝えたい情報が含まれているはずです。そのために必要な語彙を新たに学習することもできますし、聞いている方にとってもより興味のある話題となり、「教室内での日本語」と「教室外での日本語」を少しでも近づける役に立つのではないでしょうか。

毎回そのようなやり方で練習するのは難しいかもしれませんが、練習問題に出てくる場所や人物の名前を学習者がよく知っているものに変えるだけでもちょっとした刺激になることもあります。

テキストを最大限に活用し、アレンジを加える

「授業の準備は時間をかけるときりがない」とよく耳にします。授業以外にも多くの業務を抱える日本語学校の先生たちにとっては、毎日一つ一つの授業準備に長い時間を使うのは現実的ではありませんし、大きな負担にもなります。この3回のシリーズでは、扉イラストと登場人物、ドリル練習(基礎練習)、応用練習に分けて、初級テキストに載っている素材をアレンジする方法をまとめてきました。その多くは、それぞれの先生方が日々実践しているものだったのではないでしょうか。

テキストの学習項目を教えるために、自分で1から例文や練習を作り、画像や音声を探すのは大変です。テキストを最大限に活用し、足りない部分をプラスしたり、アレンジしたりすることで、クラスの雰囲気も変わってくるかもしれません。

10月はまた新しい留学生が入国する季節、最初の授業に臨む前に、お使いの初級日本語テキストを改めて見直してみてはいかがでしょうか。もしかすると、新たな発見があるかもしれません。