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日本語教室の可能性を切り拓く「福岡モデル」とは

福岡県が2020年度から行っている日本語教育環境整備事業(以下、福岡県事業)の成果報告セミナーが2023年1月19日に開催されました。前回のコラムでは、各自治体の取り組み内容をまとめました。今回のコラムでは、福岡県事業のどのようなところが日本語教室の可能性を切り拓くのかお伝えします。(執筆:深江新太郎/福岡県・地域日本語教育コーディネータ―)

地方公共団体にとっての4つの壁

2019年6月に「日本語教育の推進に関する法律」が施行された後、地域日本語教育は地方公共団体を軸に再構成されようとしています。ただ、地方公共団体が地域日本語教育に携わる中で、大きく4つの壁が生じています。

①住民主体の教室づくり

②教室開催日数

③企業連携

④日本語教師の活用

まず①についてです。日本語教室の開設を地方公共団体が中心になって行うと、主体しての行政、それに参加する地域住民という構図が生まれやすくなります。つまり、地域住民の主体的な関わりが生まれにくくなります。ただ行政の主たる役割は制度設計であり、日本語教室を動かしていく原動力は地域住民の方々です。地方公共団体は地域住民が主体的に関われる日本語教室を設計していく必要があります。

次に②についてです。地方公共団体が教室開設を行うと、予算等の関係で開催日数が限定的になることが多いです。具体的には、月1回または月2回の開催です。ただ週1回もしくは週1回以上行うことが可能なら、日本語教室はより力を発揮できます。

そして③についてです。現在、全国的に日本語教室の主たる対象は技能実習生です。技能実習生は企業に雇用されているので、技能実習生を対象にした教室をつくるとき、企業との連携が必要となります。この企業との連携にはさまざまな形がありますが、企業出資による教室運営は最も困難なことと言えます。なぜなら企業が費用を負担してもよいと思える事業スキームをつくることが難しいからです。

最後に④についてです。地方公共団体が日本語教室を開設する中で、コーディネータ―または授業を進める役割として日本語教師の必要性が指摘されています。ただ、地域の現場で日本語教師がどのような役割を担えるかは、まだ手探りの状況です。

このような4つの壁を、1つでも突破することで、日本語教室は可能性を拓くことができます。そして福岡県事業に取り組んだ古賀市、直方市、苅田町は、この4つの壁を突破した教室づくりを行っています(3市町村の取り組みコチラから)。では、この3市町村は、どのようなプロセスで教室開設を行ったのでしょうか。

教室開設のための福岡モデル

古賀市、直方市、苅田町における日本語教室開設の取り組み整理し、その共通項を抽出すると、福岡県事業における日本語教室開設のプロセスは5段階に整理できました。この5段階のプロセスを、以下では福岡モデルと呼びます。

福岡モデル

では、この福岡モデルについて順に説明をしていきます。

1.各自治体の課題意識を明確にする

日本語教室開講のスタートとなるのは、各自治体が「なぜ日本語教室を開講したいのか」「何のために日本語教室を開講するのか」を明確にしていくことです。例えば古賀市は多文化共生のまちづくりを推進していくため、直方市は企業の事業支援のため、と立ち位置が異なります。この課題意識により、取り組む内容に違いが出るため、まずは各自治体がなぜ、何のために日本語教室をつくるのか明確にする必要があります。

2.関係者にニーズ・意向を聞く

課題意識を明確にした後は、関係者に日本語教室についてニーズ、意向を聞きます。在住外国人の状況全般を知る実態調査ではなく、教室開設のために必要な情報を得るための調査です。例えば古賀市なら多文化共生のまちづくりという観点から外国人住民を対象に日ごろから地域の人と交流があるかなどを聞きました。また直方市、苅田町は事業者に対し、日本語教室ができたら雇用している技能実習生を日本語教室に通わせたいか、教室の費用負担が可能か、いくらなら費用負担できるかなどを聞きました。

3.教室をデザインする

2で得た情報を基に、①教室の役割、②運営主体、③協力連携機関、④想定学習者数、⑤費用負担、⑥人的体制、⑦曜日・時間帯・頻度・場所、⑧周知方法、⑨カリキュラム・教材を決めます。これらを決めることで教室が形になっていきます。

4.協議会を設置する

教室が形になった後、その教室について関係者から意見をもらいます。関係者は、各自治体の課題意識により異なります。古賀市は、多文化共生のまちづくりの点から、自治会関係者や学校関係者、公募の市民、企業など多様な方が協議会に参加しています。直方市、苅田町は事業支援の点から、企業中心の協議会となり、費用負担について合意形成を行いました。

5.人材を発掘、育成する

最後に地域住民の方々を対象にしたボランティア養成講座の実施です。福岡モデルでは全2回の講座です。第1回は外国籍住民の声をどのように聞くかがテーマで、第2回は外国籍住民の不十分な日本語に対しどのようにフィードバックするかがテーマです。

外国籍住民を社会の一員とする日本語教室

現在、古賀市は外国人登録者が99名、スタッフの登録者が44名で、週2回の教室を開講しています。直方市は、企業出資の教室を開講し、日本語教師が授業を行っています。直方市はボランティア教室も開講し、日本語教師がコーディネータ―として携わっています。苅田町は、ボランティア教室を開講し、2023年度に日本語教師がオンラインで授業を行う企業出資を含めた教室を開講予定です。このように日本語教室がその可能性を拓いていくことは、地域社会の創生につながっていきます。人口減少と少子高齢化が進む地域社会を考えたとき、外国籍住民を社会の一員として受け入れていくことは地域創生の鍵です。そして日本語教室は、外国籍住民を社会の一員として受け入れていく最前線であると言えます。

執筆/深江 新太郎(ふかえ・しんたろう)

「在住外国人が自分らしく生活できるような小さな支援を行う」をミッションとしたNPO多文化共生プロジェクト代表。ほかに福岡県と福岡市が取り組む「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」のアドバイザー、コーディネータ―。文化庁委嘱・地域日本語教育アドバイザーなど。著書に『生活者としての外国人向け 私らしく暮らすための日本語ワークブック』(アルク)がある。