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日本語学校における留学生の進路指導を考える② 留学生が「やりたいこと」を見つけるために

留学生の進路選択・進路指導の難しさについて、 第1回では以下の3つの観点から整理を行いました。①在留資格についての理解の問題、②進路先と希望の仕事のアンマッチの問題、③進路選択に対する姿勢の問題です。完結編となる今回の記事ではこのような問題の解決に向けての㈱RENでの取り組みをご紹介します。(執筆/㈱REN樋口広布)

進路指導に充てられる時間は少ない

まずは改めて留学生が進路について考えることができる時間、そして進路指導に充てられる時間の整理を行いたいと思います。

留学生の日本語学校での学習期間は2年、1年9カ月、1年6カ月、1年3カ月の4つに大別されます。これはそれぞれ4月、7月、10月、1月スタートのコースを意味しており、皆さんもご存じの通り日本の学校暦は3月に終わり4月にスタートしますので、それに合わせて日本語学校のコースも設置されています。学習期間は最長で2年間ではあるのですが、入学試験の要件となっている各種日本語や英語関連の試験対策、そして実際に入学試験がスタートするのが早いところで卒業年度の10月以降であることを考慮に入れると、進路について考える時間は実質的にはもっともっと短くなるわけです。

このように、進路について考えることができる期間は長くないうえに日本語学校のほとんどは学校法人ではなく、いわゆる学習塾のような位置づけで運営されているため、1日の授業が午前か午後の半日制、約3時間と限られています。最近ではカリキュラムの中に進路について考える授業を組み込んでいる日本語学校も増えては来ていますが、授業の合間を縫ったり、放課後の時間を利用したりして進路指導をしているケースがほとんどで、学校としてのサポートにも限界があるのが現状です。

高校生の進路イベントを参考に

私は新卒で入社した教育関係の広告代理店では留学生に加えて高校生向けの進路ガイダンスの企画、運営も担当していました。留学生向けと高校生向けの進路指導では、制度的には異なることも多いのですが、大学や専門学校は募集定員に対して留学生のためだけの枠を設けて募集を行っているわけではないため(留学生特別入試などを除く)、高校生の進学状況や進路指導に関しての知識や理解は留学生の進路指導を考える上でとても大切な要素となります。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、ここでは日本の高校における進路イベントのスケジュールについてお話しします。高校生は、1年次に職業理解(体験型)ガイダンス、2年次に専門学校の分野・大学の学問系統の学習内容への理解ガイダンス、そして3年次に学校比較をして進学先を絞り込むための個別の学校の入試や学費などの詳細を聞くガイダンスに参加するというのが通常のパターンです。最近では入学試験の実施時期が早まっては来ているので3年次のガイダンスは、3年生に上がる前の1月から3月頃の、春のオープンキャンパス前に実施するケースも多いのですが……。

一方で、留学生向けの進路イベントのスケジュールはどうでしょうか。一般的な留学生向けの進学相談会では、留学生が何を勉強したいのかある程度目的意識を持った上で参加しているという前提で説明が進み、例えば学校がどこにあって、何が勉強できて、学費がいくらなのかに焦点が当たることが多いです。しかし、実際には第1回で述べたような在留資格、そして制度的な違いを正しく理解できていなかったり、場合によってはまだ目的意識を明確に持てていなかったりする学生も少なくないため、その前段階として、日本での仕事のこと、在留資格のこと、そして大学や専門学校を卒業後の進路についての理解も深めるような説明会が必要ではないかと考えました。

少し話が逸れてしまいますが、そもそも、目的意識を明確に持てていない状態で留学してくることへの批判的な意見もあるのではないかと思います。そういった現状には私も問題意識を持っています。㈱RENでは来日前の学生のサポートを事業の1つとして行っており、現地エージェントや日本語教育機関とも連携を取りながら、日本で得た最新の正確な情報発信を行うなどの取り組みを行っていますが、今回の記事では来日後の進路指導に焦点を当てます。

「やりたいこと」を見つけられるように

さて、話を本筋に戻します。

これまで進路イベントを通じて、また実際に日本語学校の中から進路指導を行うことで、多くの高校生や留学生と関わってきました。その経験を通じて感じたのは、「やりたいことを見つけられた人は強い」ということです。人は目的意識があれば周りから何も言われなくてもどんどん自発的に動けるようになる、そう感じています。そして、自律性を養うことは留学生の何とかしてもらえるという受け身の姿勢を改善するにも有効でしょうし、自分でやってくれるようになれば物理的な時間不足解決にもつながるのではないかと考えました。

留学生がやりたいことを見つけるためのきっかけ作り、自律性を養う、この2つの目的を達成するための方法の1つとして、㈱RENでは留学生のためのキャリア理解ガイダンスを行っています。

卒業年度に入る前の1月から3月頃に、在留資格のことを考慮した上で、日本で就職可能性がある職業を複数抜粋し、その職業と、その職業を目指せる学校についての講座を、留学生自らの意思で2つ選択して受講してもらう、というものです。このキャリア理解ガイダンスの主な目的は

①これまでは興味がなかった職業や業界の話を聞いてもらい、いわゆる食わず嫌いを無くして視野を広げてもらうこと

②日本でのキャリアと進学について考える際に、どんなことに注意しどんな風に情報を得るのかを理解し方法論を身に着けること

③自分で考え、自分で選択をするという経験を得ること

の3つです。説明会当日に情報を得て終わりというような一過性のものとならないよう、事前、事後の指導も含めて、提携の日本語学校、専門学校、大学と協力して留学生のためのキャリア教育の実践に取り組んでいます。

参加した留学生の方々からは「具体的に目指したい仕事が見つかった」、「興味があった仕事を目指すために具体的に何をすればよいのかわかった」、「今までは興味を持っていなかったが、話を聞いて旅行関係の仕事に就いてみたいと思った」など好意的なご意見をたくさん頂いています。また、参加した日本語学校の教職員の方々からは、「日本語教師目線で考えても、個別の学校情報だけでなく、職業や業界について理解できたし、非常勤講師の方にも参加を頂いて、学生たちの進路決定までの流れを知ってもらうきっかけになって大変よかった」と前向きなコメントを多数頂きました。

一方で、説明会の意図を参加頂く留学生の方々に十分に伝えきることができずに、ただの学校説明として理解されてしまうケースや、実施時期が早いためにキャリア理解ガイダンス参加時の日本語能力によって効果が制限されるなど課題も見つかっています。参加頂いている留学生、日本語学校の教職員の方々、そして受け入れ先となる大学や専門学校の教職員の方々のご意見を企画に反映させて、一人でも多くの留学生がやりたいことを見つけて希望のキャリアを見つけられるようなイベントとして改善、確立できるよう、試行錯誤を続けています。やりたいことが見つかれば、自発的に関連情報を収集できるようになり、日本語の学習にもより集中して取り組めるようになると信じて。

おわりに

今回のコラムでは、前半、後半の2回に分けて日本語学校における留学生の進路指導とキャリア教育について考えてきました。留学生の国籍や層が変化したこと、そして特に2023年度の進学は、入国制限解除に伴う一時的な学生数の増加に伴い激化が予想されます。地域やそれぞれの学校によって特色があり、絶対的な1つの答えがあるものではないと思いますが、このコラムが、それぞれの学校における「現状」にあった進路指導の形を考えるきっかけとなれれば幸いです。

執筆:樋口 広布(株式会社REN代表取締役)

大学・専門学校・日本語学校の学生募集や高校生、留学生の進路指導イベントの企画立案を行う代理店で6年勤務後、日本語学校で学生募集、進路指導の経験を2年積み、2019年6月に株式会社RENを立ち上げる。日本人と外国人が協力してよりよい日本社会を築いていけるよう、外国人の方の日本への留学、進学、就職のトータルサポートを中心とした事業展開を行っている。最近は年末年始にたるんでしまった体を引き締めるべく、必死にランニングとトレーニング中。

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HIROSHI HIGUCHI@株式会社REN(@REN_education)さん / Twitter