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地域教室でのオンライン活動の普及ー『つながるひろがる にほんごでのくらし』を使って

対面での活動が戻り始めた現在ですが、対面で行えるようになっても、オンラインでの活動に対するニーズがなくなるわけではありません。福岡県福岡市は、地域の日本語教室が対面だけでなくオンラインでの活動も行えるように施策を進めています。(深江新太郎/福岡市・日本語教育施策アドバイザー)

アンケートからわかった、福岡市の地域課題

福岡県福岡市は、外国籍市民数が39,679人(2022年7月末時点)であり、1990年時点と比較すると約4倍に増加しています。国籍別では、多い順に中国、ネパール、ベトナム、韓国または朝鮮、フィリピンです。また在留資格では、多い順に留学、永住者、就労活動、家族滞在、特別永住者です。この福岡県福岡市には約50の日本語教室がありますが、2021年度に実施した外国籍市民向けアンケートから次の課題が浮かび上がりました。

「開催場所が合わない」「開催時間が合わない」という理由で日本語教室に通えない外国籍市民が多い

この課題に対応するため、福岡市は「オンラインで活動できる日本語教室を増やす」という施策進めることにしました。オンラインなら時間と場所の制約が小さくなるからです。2022年度の段階で、福岡市内の中でオンライン対応できる日本語教室は全体の約35%にとどまっています。

支援者のためのオンライン活動案の作成

福岡市と私は、支援者がオンラインで活動できるようになるためには何が必要か、ということを話し合いました。その結果、オンラインの基本的な操作ができるようになった後は、いつどの流れで何を使ってどのような活動を行うかが分かるシナリオが必要ではないかという点で一致しました。そこで支援者の活動目的にそくし、見やすくて分かりやすいオンライン活動案(以下、活動案)を作成することになりました。完成した活動案がこちらです。

福岡市 オンラインによる交流型日本語教室の作り方

https://www.city.fukuoka.lg.jp/soki/kokusai/002_3.html

この活動案を作成するにあたり、地域で活動する日本語教師3名と連携しました。2022年10月から2023年1月まで、3名の日本語教師がそれぞれ学習者4名程度とグループをつくり、全15回(毎週1回、90分)のオンライン活動を行いました。また、各回の活動後には、その3名の日本語教師と次の活動内容について話し合う場を設けました。3名の日本語教師が行った全15回の活動は録画すると同時に各教師の活動に私も参加し活動内容を記述しました。この記録と記述を基に、活動案を作成しました。

支援者の視点を大切にした活動案の作成

オンライン活動案の作成にあたり、まず利用者が日本語教育の専門家ではない、地域の支援者であることを大切にしました。具体的には、支援者が行いたい活動、支援者にとって負担にならない程度のオンライン機器の使用、支援者にとって分かりやすい構成です。その結果、交流を大切にした活動、zoomの基本的機能(画面共有、チャットなど)以外は用いない、学習者との具体的なやりとりが分かる内容、などが活動案に反映されました。また活動案は、文化庁が作成した動画教材『つながるひろがる にほんごでのくらし』(以下、『つなひろ』)を活用しています。

オンラインでの活動が、対面での活動の代替ではなく、オンランだからこそできるものになるためには、オンラインの強みを生かすことが必要です。『つなひろ』はオンラインで日本語学習を行えるように開発されたものであるため、オンラインの強みを生かした活動が考えられます。また『つなひろ』は、日本で生活していく上で必要な場面と生活上の行為で構成されているため、地域の日本語教室で行う活動に適しています。ただ『つなひろ』を用いて教室活動を行うためには、その活用法を工夫する必要があります。

学習者とのやりとりが生まれる活動案に

活動案は、全15回分作成されました。各回は「自分のことを伝えよう」と「『つなひろ』で学ぼう』の2つのパートで構成されています。

「自分のことを伝えよう」では、それぞれの話題、場面にそくし学習者への問いかけが記されています。楽しく交流ができているときは、学習者の立場からは自分のことを伝えられている状態です。学習者が自分のことを伝えられるためには、答えたくなる問いかけが必要です。

また「『つなひろ』で学ぼう」でも、学習者と交流ができることを大切にしました。まず動画の音声をミュートにした状態で、冒頭の30秒ほど見ます。学習者はその場面がどんな場面が推測して答えます。そのあとで、今度は音声を出して見ます。見た後で、学習者はどんなことばが聞こえたか伝えます。最後に、字幕をつけて見て、学習者に内容を確認する質問をします。このように学習者とのやりとりが多く生まれる構成を提案しています。

活動案のサンプル:「食べ物を買いに行こう」の一部

オンラインを活用して教室の可能性を広げる

現在、地域の日本語教室の抱えた大きな課題に、教室に通う学習者数の減少があります。コロナ禍で足が遠のいた学習者が戻って来ないことが一因となっています。一方で、「オンラインは可能ですか?」という問い合わせも増えています。福岡市は、本年度、この活動案を活用しながら、支援者を対象にした研修を開催し、オンライン対応できる地域の教室を増やしていく取り組みを行います。対面の良さを大切にしながら、オンラインだからこそできる可能性に開かれることで、より多くの学習者に出会えるのではないかと思います。

執筆/深江 新太郎(ふかえ・しんたろう)

「在住外国人が自分らしく生活できるような小さな支援を行う」をミッションとしたNPO多文化共生プロジェクト代表。ほかに福岡県と福岡市が取り組む「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」のアドバイザー、コーディネータ―。文化庁委嘱・地域日本語教育アドバイザーなど。著書に『生活者としての外国人向け 私らしく暮らすための日本語ワークブック』(アルク)がある。