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日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

日本語教師のための著作権①-教材のコピー使用について

日本語教師の皆さん、授業の準備や授業中、宿題やテストを作成するときなどに「これって著作権的に大丈夫なのかな」と不安やモヤモヤを抱えることはありませんか。アルクではそんな日本語教師の方々にアンケートを取り、具体的にどんなことに疑問を持ったり知りたいと思ったりしているのかお聞きしました。この連載では、著作権についてのモヤモヤが少しずつ晴れることを目指して、アンケートに出た疑問に著作権の専門家がお答えしていきます。(執筆/我妻潤子)

本日のポイント

1)前提の話 
ー所有と著作権は別もの
ー「権利者の利益」

2)教育著作権(著作権法第35条)について
ー学校である日本語学校と学校でない日本語学校

3)著作権は親告罪

ある日の日本語学校での一コマ

田中さんは日本語教員です。田中さんは学校法人ではない日本語学校の専任教師として働いています。ある日、田中さんは職員室で佐藤先生と潮田先生が話しているのを耳にします。

佐藤先生「この問題集、JLPTやEJUなどの模擬試験が収録されているのよ」

潮田先生「そうなんですか! それなら、そのまま全ての問題をコピーして、学期末試験で配布しましょうよ!」

佐藤先生「でも著作権が気になるから、問題、解答用紙を回収して廃棄しないとね。」

潮田先生「そうですよね。問題集は学校のだし。あっ、試験で成績の悪い学生には夏休みの宿題として、この問題集から抜粋して作成したワークシートを解いてきてもらいましょう!」

(田中さん心の声)

「⁉⁉⁉⁉ 問題集の問題って学期末試験のためにまるまるコピーしていいの? 学校が問題集を持っていればいいのかな? どのくらいの分量だったら、コピーしてもいいのかしら? というか、これって著作権侵害じゃないの? 学校として行っているなら、どこかに報告して、注意してもらおうかしら。」

前提のお話(不思議な都市伝説① 所有と著作権は別もの)

書籍を所有していれば、その内容も自由に利用できると考える方が多いようですが、これはほぼ都市伝説に近い誤解です。書籍の「所有」はあくまで紙という「モノ」自体に対するものであり、そこに書かれている「内容」は「情報」に該当するため、所有の対象にはなりません。

ときおり、「問題集(書籍)はクラス全員が持っているので、コピーして使っても大丈夫ですよね?」という質問を受けることがあります。しかし、「クラス全員が所有している」ことは、著作権上の正当な言い訳にはなりません。

おそらくこの質問の背景には、(1)「自分たちはその書籍を所有していること」と、(2)「権利者に不利益を与えていない」という二つの考えがあるのだと思われます。

(1)の「所有」については前述の通り、モノ(紙)自体に対する権利であり、問題用紙を回収廃棄することはその所有権の行使には該当するかもしれませんが、書かれている「情報」を利用する際に、権利処理をしないことの理由にはなりません。つまり、著作権的に対応したということにはならないのです。

(2)の「権利者の利益」という観点から見ると、「クラス全員が持っているからコピーして使う」という状況を権利者がどう捉えるか、という問題になります。例えば、皆さんが自作の教材を他人が使うとしたら、「どうぞご自由に」と思う権利者もいれば、「一言かけてほしい」と感じる権利者、「必ず許可を取ってほしい」と考える権利者もいるでしょう。このように、感じ方は人それぞれであり、権利者がどういう考えを持っているか第三者が一概には言うことはできません。

こうした説明をすると「じゃあ使えないってことか!」と思われるかもしれません。しかし「使えない」のではなく「許可を得てから使う」という認識をまず持っていただきたいのです。よく「著作権は白黒がはっきりせず、グレーな部分が多い」と言われますが、基本的な前提として、第三者の著作物を利用する際には、許諾を得て、その許諾条件範囲内で利用する必要があります。

利用者が確認することで、著作権者は、自らの著作物について「どのように利用されたいか」を明確に意思表示することができます。その確認さえ取れれば、著作権における「白黒」は明確になるのです。

さて、ここまでの前提を踏まえて、著作権としての考え方を解説していきましょう。著作権は、権利者から「許諾」を取得して著作物を利用するということが根本的な考え方です。しかし、「例外規定(権利制限)」と呼ばれる条件を満たせば「許諾」を取らずとも第三者の著作物を利用することができます。例外規定の対象となる行為は複数ありますが、学校での利用もその中の一つです。少し難しいですが、条文を見ていきましょう。

著作権法 第三十五条第1項 

学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

まとめると、学校であれば、教員もしくは学生(児童・生徒を含む)は、授業のためであれば複製(コピー)をしたり、公衆送信(インターネットで配信することなど)ができます。但し、必要と認められる場合の利用に限り、かつ権利者の利益を不当に害するものは対象外です、と言っているのです。

ここで日本語教師の皆さんが注意しなければならないのは「学校」という点です。日本語学校の場合、著作権法上の「学校」に値する日本語学校と「学校」に値しない日本語学校があるのです。簡単にいうと「学校法人か否か」が1つの指標となるでしょう。ボランティア教室などは「学校法人」ではないので、「非営利」だとしても35条の対象から外れることになります。

次の注意点としては「学校法人か否か」で許諾が必要かどうかが変わるということです。「学校法人ではない場合」と「学校法人の場合」に分けて解説していきます。

学校法人ではない日本語学校の場合

学校法人ではない日本語学校の場合、著作権法第35条の適用外となるため、原則は権利処理をしなければなりません。なぜなら権利処理は「リスクヘッジ」となるからです。「前提のお話」でも既述したように、学校法人ではない日本語学校が著作権について白黒つけるのであれば、権利処理をするのが最も明確に白黒をつけることができます。

権利処理時に「試験」についての利用、「教材」としての利用の許諾を取っておけば、許諾申請範囲内であれば、白黒が明確になります。「白」であれば利用可、「黒」であれば「利用NG」なのです。これが、学校法人ではない日本語学校が置かれている著作権法上での現状の立ち位置です。

さて、ここからは佐藤先生、潮田先生の会話から著作権法的な解説をしていきたいと思います。佐藤先生、潮田先生の会話から著作権法的に考えられるポイントは2つ挙げられます。(1)試験での利用。(2)宿題としての利用。(1)から始めたいと思います。

(1)は「試験」での利用がポイントとなります。著作権法では「試験」は「入学試験などの人の学識・技能に関する試験・検定の問題」とされ、会話の中にもある学期末試験も含まれます。「試験」での著作物の利用については、条件を満たせば、権利者からの許諾を取得しなくても良いとされています。ただしこれは、試験問題を最初から自分で制作するという場合に限られるのです。

例えば、佐藤先生や潮田先生が、JLPTやEJUのために、自身で小説や新聞の記事を選び、そのレベルを合わせた問題を作成し、試験を行うといった場合には、試験を受ける学生に問題が予め知られてはいけない(秘匿性が高い)ので、事前に許可を得ることが難しいので、許諾不要となります(著作権法第36条)。しかし、すでに市販されている問題をそのままコピーをして利用する場合、これは学内の試験であっても既に知られている可能性がある(秘匿性が低い)ので、著作権法で認められている許諾不要なケースと異なり、許諾を取得した方が良いと思います。

次に(2)の宿題としての利用についてです。学校法人ではない日本語学校では、佐藤先生や潮田先生が問題集から一部を抜粋して宿題用の問題を作成すると、著作権法第35条の適用がないため、権利処理をしないとリスクになります。

そのため、より安全に対応する方法としては、学生に購入させたワークブックや問題集の特定のページを指定して宿題とすることが望ましいと考えられます。教材の内容自体を改変せず、正規に購入された書籍を指示通りに使わせる場合は、一般的に問題となりにくいためです。

また、同じ問題を繰り返し解いてもらいたい場合は、教員がコピーを配布するのではなく、学生自身が学習目的でコピーを取るように促すことも一つの方法です。この場合、著作権法上の「私的複製」に該当し、許諾を得る必要は基本的にありません。

学校法人の日本語学校の場合

図①

学校法人の資格を持つ学校の場合、著作権法第35条が適用されます。したがって、図①に示した条件をクリアすれば、権利者からの許諾取得は不要になります。上記(1)にあたる「JLPTやEJUの模擬試験の問題をそのまま全てコピーして、学期末試験で配布」するという行為の場合、下記条件のうち、①~③はクリアできます。

① 学校法人資格のある日本語学校(どこで)

② 先生が複製をする(だれが・どんな行為を)

③ 学期末試験ということは授業である(いつ)

④ 必要最低限の利用範囲(どのくらい)

しかし、「問題をそのまま全て」というのは、必要最低限の利用範囲を越え、権利者の利益を不当に害してしまう可能性があり、④をクリアすることは難しいでしょう。「必要最低限の利用」と「権利者の利益」はバランスなので、誰が見ても、バランスが取れているといえる範囲で利用することが必要だと思います。そのことからも「全てコピー」することはバランスが悪いので、学校法人であっても、許諾取得する必要があると言えます。

また、テキストなどに記載されている複製についての記述は、それぞれの権利者が自身の著作物として、そのテキストをどのように使われたいかを記載したものです。「許可なしの複製禁止」と記載されているものは「許諾取得」してほしいという権利者の要望が読み取れます。著作権法第35条があるので、許諾取得をしなかったからといって、即権利侵害につながるとは言えませんが、「許諾取得」の連絡をした方がより安全だと思います。

余談ですが、「許諾取得」の連絡をしたら、著作権法第35条に該当するので連絡不要です、というような返信がある時もゼロではありません。また「無断コピーは著作権法の例外を除き禁止」、「無断での複製は法律で禁止」の場合でも著作権法第35条の条件範囲の中であれば「禁止」されていませんので、許諾取得は不要と考えられます。

本題に戻して、仮に、学期末試験としてコピーするのではなく、反復学習(同じ問題を何回も解かせる)のためコピーをしたい、ということであれば、学生自身にコピーをさせるよう促せば「私的複製」(著作権法第30条第1項)が適用できます。

次に、(2)の宿題としての利用の場合です。「宿題として、この問題集から抜粋して作成したワークシート」について考えてみましょう。

① 学校法人資格のある日本語学校(どこで)

② 教員が複製を行う(だれが・どんな行為を)

③ 宿題は授業の過程に含まれる(いつ)

抜粋して使用する(何を・どのくらい)

この場合、①および②の条件はクリアできます。ポイントとなるのは③と④です。

③については、宿題が教育基本法や学校教育法、学習指導要領などに明確に定められていないため、「授業の過程」に含まれるかどうかは意見が分かれるところです。しかし、筆者の子ども時代には宿題はごく一般的であり、現在でも宿題を課さない学校は一部に限られています。したがって、現状においては宿題も「授業の過程」に含まれると考えて差し支えないでしょう。

に関して重要なのは、「どのくらい」の量だけでなく、「何を」抜粋するかという点です。個々の問題を1問ずつ抜粋する場合、「てにをは」のような助詞を問う問題のように、その問題自体が著作物に該当しないと判断されることもあります。また、著作権法第35条に定められた「必要と認められる限度」内、すなわち教育上の必要性に基づく妥当な範囲であれば、問題はないと考えられます。

しかし、問題集のページをそのままコピーする場合には注意が必要です。問題の並びや構成に独自の創意工夫が認められると、それは「編集著作物」として保護される可能性があり、著作権者の利益を不当に害する恐れが出てきます。そのような場合には、たとえ学校法人であっても、事前に権利処理を行っておくほうが安心して利用できるでしょう。

著作権は親告罪

「親告罪」という言葉は耳慣れないかもしれません。例えば、著作権侵害をされた時に訴える(罪に問える)ことができるのは、著作権侵害をされた権利者だけだということです。たとえば、佐藤先生や潮田先生の行為が著作権侵害だと思っても、田中さんは「侵害」だと断定することはできません。権利者が佐藤先生や潮田先生の行為を知り、それは「侵害になり得るだろう」だと思い、訴訟し、裁判所で「侵害」だと判決が下されて初めて「侵害」になります。ですので、田中さんができることは、佐藤先生や潮田先生に「侵害になる可能性が高い」と注意することぐらいです。「侵害」だと決めつけることはできません。

一方で、「非親告罪」がないわけではありません。日本で販売されている教科書の海賊版が、外国の書店で販売されている、という話を日本語教育業界で時々耳にします。海外で行われている侵害と思われる行為はその外国の著作権法で判断されます。しかし、この海賊版を日本語教員が購入し、国内で再販しようとするとこれは権利者の意図とは関係なく罪に問われます。「非親告罪」については、大概、海賊版に関係することです。なので、問題集を丸ごと1冊コピーして配布したということがない限り、通常の教務活動では注意が必要ということではありませんが、何気ない行為が罪につながる可能性もあるので、気をつけましょう。

まとめ

・著作権の白黒をつけたいなら、権利処理をする

・所有することと著作権は別もの

・教育著作権と呼ばれる著作権法第35条には下記4つのクリアすべき項目がある。

 ① どこで
 ② だれが・どんな行為を(図1では「だれ」と「どんな行為」を分けて表記)
 ③ いつ
 ④ どのくらい

・株式会社立などの学校法人ではない日本語学校は原則、権利処理が必要

・著作権の侵害については、当事者同士の問題

我妻潤子 プロフィール

株式会社テイクオーバル コンテンツライツ事業部長、AIPE認定知財アナリスト(コンテンツ・ビジネス)、東京藝術大学非常勤講師。生徒、学生、教員の他、日本語教師を対象とした著作権についてのセミナーや講演の講師を務め、特に利用者、権利者の両面からの解説には定評がある。