文化審議会国語分科会のローマ字小委員会は、令和6年度の審議をとりまとめました。その中でローマ字のつづり方に関しては、1954年に内閣告示が出されて以降、訓令式が基本とされてきましたが、実態に即してヘボン式を採用するとの方向性を示しました。審議内容を踏まえ、改めてローマ字のつづり方について整理しておきます。
現状はヘボン式が優勢
「ローマ字のつづり方に関する今期の審議のまとめ」を見てみます。
まず、「ローマ字使用の現状」では、ローマ字は固有名詞を中心に使用され、日本語を母語としない人々のために役立っており、また、パソコンなどの文字入力にも活用されているとしています。国語施策としては、1954年の内閣告示において「第1表(訓令式)」が「一般に国語を書き表すもの」とされているが、社会には定着せず、実際にはヘボン式に掲げられたつづり方が、パスポートや道路標識、各種案内表示などで使用されているとしています。また、実際に使用されているローマ字表記には、さらにさまざまな慣用があり、その慣用が普及している語も少なくないとしています。
その上で、「検討課題の整理」および「基本的な考え方」として、以下の三つを挙げています。
① 将来に向けてローマ字つづりを安定させ、同じ音に対して幾つかのローマ字つづりが使用されている実態に対して、できるだけ統一的な考え方を示すこととし、具体的にはヘボン式を採用する。
② 例えば長音の有無によって語が判別される日本語を表記する上で、十分な機能を果たせるローマ字つづりとすること。具体的には、長音については母音字に長音符号(マクロン)を付ける、符号を用いない場合は母音字を並べて書き表す。
③ 例えば「judo(柔道)」「matcha(抹茶)」など、各分野で定着してきたローマ字表記の慣用を整理すること。統一的な考え方を示すことを重視する一方、それによって混乱がないよう、長年使用されていきたつづり方は尊重する。
撥音、促音、長音のローマ字のつづり方
改定後のローマ字のつづり方は、ローマ字の使用に際して、強制的、制限的なものではなく、ローマ字を用いる際に参照される性格のものであるとした上で、撥音、促音、長音のローマ字のつづり方を、具体的に以下のように示しています。
撥音は、統一的に「n」を用いるとしています。「anman(あんまん)」「kanpai(かんぱい)」などです。
促音は、統一的に子音字を重ねて示すとしています。「teppan(鉄板)」「nicchoku(日直)」などです。
なお、ヘボン式の一部では、撥音において「b,m,p」の前の撥音を「m」としたり、「ch」の前の促音を「t」とすることがあるが、できるだけ複雑にならない考え方を採用したとしています。
長音は、基本的に母音字に長音符号(マクロン)を付け、「kāsan(母さん)」「jūgoya(十五夜)」「nēsan(姉さん)」「hōzuki(ほおずき)」などとするとしています。また。母音字を並べて書く場合は、「kaasan」「juugoya」「neesan」「hoozuki」も導入し、現代仮名遣いと同様のつづり方を用いることとしています。
イ列長音は、例えば「兄さん」「しいたけ」は、「にいさん」「しいたけ」のように母音字を並べる書き方が定着しているので、一般的には「niisan(兄さん)」「shiitake(しいたけ)」を用い、長音符号を付ける書き方も必要に応じて用いるとしています。
エ列長音は、例えば「時計」「平成」は「トケー」「ヘーセー」のように長音として発音されることが多いが、「とけい」「へいせい」のようにエ列の仮名に「い」を添えて書く書き方が定着しているので、「tokei(時計)」「heisei(平成)」を用いるとしています。但し、現代仮名遣いに合わせて、「姉さん(ねえさん)」は「nēsan」「neesan」とするとしています。
また、各分野で定着してきた表記については、特に個人の姓名や団体名などを書き表す場合は、実態としてさまざまな表記が行われているが、当事者の意思を尊重するように配慮するとしています。
今回の審議のとりまとめを踏まえて、来期以降引き続き答申案について議論を進めることになります。
長音符号(マクロン)の入力方法
ところで、ここまでのところで、長音符号はどうすればパソコンのキーボードで入力できるのかと疑問に思われた人もいるかもしれません。
キーボードでは、長音符号は以下の方法で簡単に入力できます。いずれも変換候補としては最後の方に出てくると思いますので、ご確認ください。
「Ā」「ā」→「えい」と入力して変換
「Ī」「ī」→「あい」と入力して変換
「Ū」「ū」→「ゆう」と入力して変換
「Ē」「ē」→「いー」と入力して変換
「Ō」「ō」→「おう」と入力して変換
第89回国語分科会
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/kokugo/kokugo_89/index.html
執筆:新城宏治
株式会社エンガワ代表取締役。NPO法人国際教育振興協会 日本語教師ネットワーク機構代表理事。高崎健康福祉大学非常勤講師。日本語教育に関する情報発信、日本語教材やコンテンツの開発・編集制作などを通して、日本語を含めた日本の魅力を世界に伝えたいと思っている。