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アルク新刊『アクセス日本語』シリーズ発売!

今月22日にアルクから発売される『アクセス日本語』は、日本で働き、生活する人のための初級日本語テキストです。コミュニケーションを重視したこのテキストの教材開発経緯と特徴、そして、同時に発売される教師と学習者のための関連教材2冊をご紹介します。

はじまりはベトナムプロジェクトから

『アクセス日本語』は日本で働き、生活する人のための初級日本語テキストです。このテキストは元々2019年にスタートした特定技能の在留資格で来日し、日本で働くことを目指す海外の学習者向けに開発されたものでした。日本人と接することの少ない地域に住みながら、日本で快適に暮らすための日本語の基礎を、短期間でいかに身に付けることができるか、監修者である山田智久先生をリーダーに、著者藤田百子先生を中心としたプロジェクトメンバーで検討を重ね、オリジナル版が完成しました。

ベトナムを中心に考えられたプロジェクトだったので、テキストのメインキャラクターはベトナム人の「グエンさん」です。独特なヘアスタイルとくっきりした眉毛に愛嬌のあるグエンさんは将来日本で働きたいと考えている大学生。東京の会社でインターンをしている大学生鈴木さんとオンラインで知り合い、お互いの文化や生活について話したり、日本に旅行して実際に鈴木さんに会ったりするという、現在海外で日本語を学習している人にも臨場感のある場面設定になっています。ストーリーが進むにつれてグエンさんと鈴木さんのちょっとした成長も見られます。

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しかし、残念ながら2020年の新型コロナウイルスの感染症(COVID-19)拡大により「日本で働きたくても、日本へ行けない」という状況になり、日本を目指す人の第一歩をサポートするはずだったオリジナル版は大きな方向転換を迫られることになりました。

日本に来ても会話は難しい

現在、国境を越えた人の移動は著しく制限されていますが、大きな流れで見れば技能実習、特定技能など働くために来日し、地域社会で生活する外国人は増え続けています。来日するためにはJLPTやJFT-Basicなどに合格し、一定の日本語能力があることを証明しなければなりません。しかし、必ずしも全員が日本で問題なく暮らすために必要な日本語を身に付けているとは言えないようです。

「試験に合格して来日したはずなのに、日本語が十分に使えない」

という雇用者からの声も頻繁に耳に入ってきます。また、来日後すぐに働き始める状況であれば、日本語の勉強を続けたいと思ってもなかなか十分な時間を確保できないのが現状です。働きたい一心で日本に来たものの、いざ来てみると周りの人とのコミュニケーションがうまくいかず途方に暮れている、という人もたくさんいるのかもしれません。

そうした状況を考えれば、「短期間で、日本で快適に暮らすための日本語の基礎を身に付けることができる」テキストは、日本へ行くことを目指す人ばかりでなく、すでに日本国内にいて「周りの日本人と日本語で話したい」「もう一度日本語を勉強したい」と感じている人々にも必要とされるのではないか。それが『アクセス日本語』が国内出版に至るきっかけとなりました。

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3つの「アクセス」

「アクセス日本語」というタイトルは、ベトナムプロジェクトチームでつけたものです。そこには日本を目指す、「日本/日本語へのアクセス、入口」という意味が込められていました。今回出版される『アクセス日本語』を手に取るのはすでに来日し、日本での生活を始めている学習者です。その中には「周りの日本人とのコミュニケーションがうまくいかない」と感じている人も多くいます。日本で生活しているけれど、本当の意味で日本へのアクセスに成功したとは言えないのかもしれません。

『アクセス日本語』はコミュニケーションに役立つ自然なフレーズを身に付け、無理なく文法の基礎が学べるテキストです。そこにはコミュニケーション能力をアップさせる3つの「アクセス」ポイントがあります。

「なんとなく」から意識的な日本語学習へ

毎日の生活の中で自然に耳にする日本語。日本に住む学習者は確かに生の日本語に触れる機会に恵まれています。しかし、それがそのまま日本語学習につながっているでしょうか。「体系的に学習する言語」として意識することなく、聞き流してしまっていることが多いのではないでしょうか。『アクセス日本語』では特に前半、リスニングの例文の一部を書き取ったり、書き取った文をペアで読み上げたりする練習問題を多く取り入れています。一見単調と感じられるドリル問題ですが、それを繰り返すことによって、今まで毎日の生活で聞き流していた日本語を意識的に聞き、日本語の基本的な構造も少しずつ理解できるようになることが狙いです。

また、コミュニケーション重視のテキストでは初級の段階から「自分のことについて話す」ことが求められます。それは、日本で生活していく上で欠かせないスキルではありますが、日々仕事で忙しく学習時間の確保が難しい学習者にとっては負担と感じられることもあるかもしれません。まずは形の決まったドリルで日本語の音や語彙、文になじみ、少しずつ「日本語」を意識させる。それが1つめの「アクセス」です。

通じるだけじゃない、「印象の良い日本語」で日本社会の輪の中へ

2つ目は日本社会への「アクセス」です。ある程度日本語が上手になっても、ぶっきらぼうであったり、その場にふさわしくない言葉遣いをしたりして、相手を誤解させてしまうという話は日本語教育の現場でよく聞かれます。場面や環境に合わせた言葉遣いは上級者にとっても難しいものです。『アクセス日本語』では生活の中で頻繁に使用される「あのう」「そうですか」などといった会話表現や、「よ、ね、か」などの終助詞を会話文や練習問題に取り入れています。また、イントネーションが相手に与える影響も大きいでしょう。そのため、録音された音声も実際のやり取りに近い、自然なイントネーションになっています。これによって、印象の良い日本語話者を育成し、周りの日本人とよい関係を作っていけることを目指します。

将来へつながる自律的な学びへ

3つ目は将来への「アクセス」です。これから日本を目指す学習者と違い、すでに日本で生活している人は、今すぐに使える日本語の学習を必要としています。そうした学習者の切実な思いに応えれば、「知っている語彙や文法で何とか自分の言いたいことを伝える」ことは不可欠であると言えます。『アクセス日本語』にもそうした要素は多く含まれ、学習者に日本語が伝わったという喜びを実感し、モチベーションにつなげてもらうような練習を多用しています。

しかし、それだけにはとどまらず、テキストの後半では自分で調べ、考える練習も少しずつ増えていきます。それによって限られた日本語のクラスの時間だけでは足りない学習を補い、将来日本での可能性を広げるための日本語のステップアップにつなげる。それが『アクセス日本語』の目的であり、願いでもあります。

はじめて教える人でもわかりやすい教師用指導書 『アクセス日本語 教師用指導書』

『アクセス日本語』は主に地域日本語教室で使われることを想定しています。現在、地域の日本語教室ではたくさんのボランティアの先生たちが活躍しています。また、日本語教師養成講座受講中の方で、まずは日本語教室で実際に教えることに携わってみたいと考えていらっしゃる方も多いでしょう。そうしたはじめて教える先生たちをはじめとして、『アクセス日本語』で教える人の強い味方となってくれるのが『アクセス日本語 教師用指導書』です。必要なポイントを課ごとに丁寧にまとめ、「教えるときの注意点」や「練習の手順」を詳しく示しています。また、+αの練習も提案していますので、レベルや状況に合わせて行ってみてください。

ベトナム人学習者のための文法解説書 『アクセス日本語 文法解説書【ベトナム語版】』

アジア系の学習者は学校教育で外国語を学ぶとき、語彙や文法を母語に翻訳して、練習をする学習方法に慣れています。また、大学進学等を目指す留学生と違って、地域の日本語教室に通う学習者は本国での教育背景も実に様々です。中には習ったことをひとつひとつ自分の言葉に翻訳して理解しないと不安になり、会話の流れの中で新しく習う文型の意味をつかんでいくような学習方法が苦手であったり、場合によっては拒否反応を示したりすることもあります。コミュニカティブな学習方法に慣れていくことも大切ですが、まずは学習者が安心して学習を続けられるようなサポートも欠かせません。

『アクセス日本語 文法解説書【ベトナム語版】』はそんな学習者の気持ちに寄り添い、不安を取り除くために作られた文法解説書です。て形、た形の作り方といった文法だけでなく、本冊で登場する語彙や会話表現などもわかりやすく丁寧に、ユーモアも交えて解説されています。

文法解説書は電子書籍版での販売となっていますが、これはスマホを使って持ち歩きやすく、いつでもどこでも気になったことが確認できるという学習者の利便性を考えてのことです。教室では、机の上に本冊を広げて、必要に応じてスマホで自分のわからないことを確認するという使い方もイメージしやすいですね。

これからますます注目される地域の日本語教育。『アクセス日本語』が多くの日本語教室で使われ、教師と学習者のサポートとなってくれることを願っています。

<書籍情報>

『アクセス日本語』 藤田百子 著 山田智久 監修

          発売日 2021年9月22日

『アクセス日本語 教師用指導書』 藤田百子 著 山田智久 監修

                 発売日 2021年9月22日

『アクセス日本語 文法解説書【ベトナム語版】』

 *本書は電子書籍版のみでの発売です。 

山田智久 監修 アルク日本語編集部 編集

発売日 2021年9月22日

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