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日本語教師のためのよくわかる著作権 第3回 授業に役立てる!著作権

著作権の専門家として日々実務に携わり、日本語教師向けの著作権セミナーも積極的に行っている我妻潤子さんのコラムシリーズ。最終回である今回は「授業に役立てる!著作権」と題して、教材作成時や授業を行うときのための、より実践的な著作権の考え方について解説していただきました。

日本語教師のためのよくわかる著作権 第1回 著作権ってなぁに?

日本語教師のためのよくわかる著作権 第2回 気を付けよう、著作権

引用を理解して、授業に使う!

第2回のコラムの最後に引用の要件について書きました。皆さん、覚えていますか。今回から読む方、既に読んではいるが覚えていない方、もう一度第2回コラムを読んでみてください。

これまで筆者は「引用」についてあまり良いイメージを持っていませんでした。というのも、引用にするための要件が多く、わかりづらい。その割には、巷では「出所表示をしておけば大丈夫」という、誰が言い始めたのかわからない言説が広まっている。なので、引用についてセミナーで触れることさえ避けていた時期がありました。

しかし、教育著作権(著作権法第35条)の改正が行われた際、日本語学校の半分はその対象外のままとされました。教育著作権対象外とされ、通常の予備校と同じように著作権処理をしなければならない日本語学校の教師の方々から「権利処理は面倒だし、なんとかならないのか?」という声を多く聞きます。権利処理はリスクヘッジですので「面倒」と思わず、権利者へ許諾を取っていただきたいのです。そうは言っても、多忙な日本語教師の皆さんが権利処理をしなくてもいい方法はないのか、と考えると「引用」について理解を深めてもらうしかないと思うようになりました。というのも、この「引用」というのは万能と思えるツールだからです。下記のように要件をクリアさえすれば、多くの行為に「引用」が適用できるのです。

例えば図1のように、天気予報の動画がYouTubeなどの動画投稿サイトにあり、その動画の中に「~そうです/ようです」の学習にちょうどいい表現が使われていたとします。授業でその表現の場面だけを見せる場合、下記の通り6つの要件をクリアできれば、複製ではなく「公衆送信」の引用となり得るのです。

  1. 公表された著作物であること ⇒ 公衆に見せるためにアップされた天気予報の動画は公表された著作物と言えるでしょう。
  2. 引用を行う「必然性」があること ⇒ 「~そうです/ようです」が実際に使われている、生の表現を学生に伝える必要があり、必然性はクリアできるでしょう。
  3. 「明瞭区分」すること ⇒ 授業中に動画を見せるということは、自分の著作物(授業)の中で第三者の著作物(動画)を使っているということが明らかです。
  4. 「主従関係」 ⇒ 「~そうです/ようです」の文型を学生に教授することが「主」であり、天気予報の動画は授業の補足資料になり、「従」となります。
  5. 改変しないこと ⇒ 動画の該当箇所だけそのまま学生に見せれば、途中から見せても改変にはなりません。
  6. 「出所の明示」が必要 ⇒ 動画等を見せる場合、配布資料等にURL等を記載しておけば万全です。

無論、ネットにあがっている動画だけでなく、DVDなどになっている映像作品などもこれらの6つの要件をクリアすれば、上映することができるのです。

利用規約を読む!

万能な「引用」について書いてきましたが、その引用を阻むことがあります。それが利用規約です。第2回のコラムで「無断引用不可」等の表記は無効だということは既に記述しました。したがって直接的に引用に係ることではありません。

例えば、尊敬語を学ぶのにちょうどいい場面のある映画があったとします。その映画は有料の動画配信サービスにて視聴することが可能です。万能な「引用」を知っているあなたは「引用」を利用してスクリーンに写し出して学生に見せようと考えるかもしれません。そのときに少し気を付けていただきたいのが利用規約です。あなたが利用しようとした有料の動画配信サービスの利用規約には「個人的かつ非営利目的でのみ本動画コンテンツを視聴することができます」とか「本動画コンテンツをコピー、ダウンロード、配信、アップロード、公開、変更、翻訳、販売、送信または再送信することは禁止します」と記載されています。この場合、授業での利用は少なくとも個人的利用ではないので、利用規約に反します。そして、送信または再送信(動画配信サービスは著作権法上「公衆送信)に該当します)は禁止されているので後者の規約にも反することになります。つまり、「無断引用不可」とは書いていないけれども、先に取り上げたような行為を禁止することで「引用」が禁止されてしまうのです。

利用規約というのは、サイト運営者等とユーザーである皆さんとの契約です。ユーザーは利用規約を読み、同意した上でそのサイトを利用するということになるので、「知らない」「読んでない」ではすまされません。これは動画配信サービスに限ったことではなく、筆者もよく使っている「いらすとや」なども同様です。「いらすとや」も無料で使えるイラストは20点まで(同一画像を除く)とされています。またジブリが公開した静止画の利用についても「常識の範囲でご自由にお使い下さい。」という利用規約があります。また「著作権フリー」とうたっているサイトも必ず利用規約を読みましょう。「フリー」といいながらも完全フリーではないケースもあるので要注意です。

Webサイトのケースで説明をしてきましたが、書籍でも、表紙や奥付などに「本書の全部または一部の無断転載、デジタルデータ化、データ配信などをすることは、著作権法で上認められた場合を除いて禁じます。」と記載されていることがあります。こういった表記も利用規約の一部と言えます。教育のICT化が進む中で、自身の行為にリスクがあるかないかを確認するためにも、利用規約を探し、確認し、見つからなければ、権利者へ確認することをお勧めします。

リンクを張ろう!

インターネットが当たり前に普及してきた現在では、引用の他に「リンクを張る」ということお勧めします。筆者が行うセミナーで「新聞記事を使いたいときは新聞社へ権利処理しましょう」とお伝えすると「当日の記事が使いたいときはどうすればいいのか」とよく聞かれます。そういう時は、新聞記事の見出しの多くは著作物性が低いので、見出しと共にURLを提示されてはどうですかと提案しています。なぜならURLはインターネット上の住所であり、住所は著作物ではありません。観光について新聞の記事を授業で扱いたい場合、「秋の箱根 紅葉はじまる」という見出しと共に、URLを提示し、学生に直接そのサイトを見せれば、新聞記事をわざわざコピペ(複製)しなくても、新聞記事を使った授業をすることは可能でしょう。

ただし、この場合も気を付けてほしいことがあります。映画など有償で公衆に提供されている著作物が動画投稿サイトにアップロードされていることがあります。これらの動画は見るだけでは著作権法上問題にはなりませんが、公式アカウントからのアカウントでない、違法にアップロードされた映像の視聴をするということは、たとえリンクを張って紹介するということでも、教育上、推奨されるべきことではないように思います。公式アカウントかどうかは、アップロードをしている投稿者の名前から判別できます。授業で利用する際は、投稿者の名前を確認するように心がけましょう。また、便利だからという理由でうっかりダウンロードをすると、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはこれらが併科される可能性があります(著作権法第119条1項)。

上記のような注意事項はありますが、著作物そのものをコピー(複製)しない「リンクを張る」という行為は授業を行う者にとって、やはり利便性が高いように思います。

本コラムのまとめ

「授業に役立てる!著作権」と題して、著作権法に触れず、また権利処理という面倒だと思われがちなことをせずに著作物を使う方法について解説してきました。しかし、面倒であっても権利処理をして、権利者の意志を確認することが一番のリスクヘッジであることに変わりはありません。非営利利用のみだから授業では使えないと思って使うことを諦めるより、権利処理をする、つまり権利者へ連絡したら「日本語学校だったら」「日本語を学びたい外国人学生のためだったら」という理由で許諾が出る可能性もあるのです。一方で、「当日、使いたいんだ!」、「権利処理をしていたら、間に合わないんだ!」ということもあるでしょう。そんな時のために、本コラムで解説してきたことを実践してみるのも1つの手段だと思っています。やみくもに権利処理をするのではなく、臨機応変に対応を変えることも必要なのではないでしょうか。

シリーズのさいごに

「日本語教師のためのよくわかる著作権」と題して、3回続いたコラムもこれで終わりです。第1回は概念的なこと、第2回と第3回は実践的なことを皆さんにお伝えしてきました。第2回と第3回は具体的なことだったので、受け入れやすかったのではないかと思います。

しかし、著作権というのは裁判などからの影響も大きいため、ルールだけを覚えても十分ではありません。著作権法というルールを使って、自分の利用が著作権侵害に該当するかどうかを考えてみることが大事なのです。筆者が書いた第2回や第3回は例示にすぎません。第1回をまだ読んでいない方も読んだ方も、もう一度、目を通してください。著作権についての考え方のヒントをちりばめてあります。このコラムを通して、少しでも著作権が身近になればいいと思います。

執筆:我妻潤子

株式会社テイクオーバル コンテンツライツ事業部長、AIPE認定知財アナリスト(コンテンツ・ビジネス)、東京藝術大学非常勤講師。生徒、学生、教員の他、日本語教師を対象とした著作権についてのセミナーや講演の講師を務め、特に利用者、権利者の両面からの解説には定評がある。

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