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コロナ禍は世界を相手にしたニッチな日本語教育で飛躍するチャンス

コロナ禍でいろいろな物事の先行きが見えにくい時代になっています。しかし、そんな中だからこそ、積極的な情報発信や日本語教師のネットワークがますます大切になっています。今回は「むらログ 日本語教師の仕事術」「#Zoomでハナキン」「日本語教師チャット」「#日本語教師ブッククラブ」など、SNSを駆使してさまざまな情報発信をしている村上吉文さんにお話をうかがいました。急速に進むオンライン教育の現在や将来の課題、その解決にもつながるヒントとして、ご自身が提唱している「冒険家メソッド」やVRの可能性について語っていただきました。

日本語教師には自律的な学習者を育ててほしい

――村上さんが提唱されている「冒険家メソッド」の「冒険家」とは何でしょうか?

冒険家の九里徳泰(くのり・のりやす)さんは著書の『冒険家になるには』(ぺりかん社)で、冒険を「世界の誰もやっていないことを、自分が主体的に計画を立てて、命がけで行う」と定義しています。これは教育にも当てはまると思います。つまり、「世界のどこにもないカリキュラムで、自分で主体的に学習計画を立てて、失敗するリスクも取りながら学習する」ことが学習者には求められると思います。

――これまではむしろ同じような授業で、教育の一定の質を維持することが求められていたように思いますが。

これまでは画一的で独自性のないカリキュラムで、先生がすべて指示を出し、学習者はただ先生の話を聞いていればよかったのかもしれませんが、学校教育などにもその弊害は出ていると思います。

――冒険者とは学習者のことを指すのですね。

はい。そして先生方にはそのような、自律的な学習者を育てていってほしいのです。

――コロナ禍で授業が対面式からオンライン形式に変わりましたが、これと「冒険家メソッド」はどのように関係しますか。

対面式、つまり同じ時間に一つの教室に全員が集まらなければならない場合は、その授業に参加できるのはその場所に住んでいる人たちだけです。でも、オンラインであれば世界中の人を相手にすることになります。違う県に住んでいようが、(時差はあるかもしれませんが)海外に住んでいようが、授業に参加することができるようになります。そうなると、特定の指向や目的の人だけを対象としたニッチなコースも成立する可能性が出てきます。

――特色を生かしたコースということかと思いますが、そうなるとそれこそ画一的な教育は淘汰されていってしまうような可能性はないでしょうか。

十分にあると思います。今は、無料アプリやYouTube動画などもたくさんありますので、画一的なものや誰がやっても同じ内容なら、そういうものに遅かれ早かれ取って代わられるでしょうし、たとえ取って代わられなくても特色がないものは市場価値が低くなってしまう可能性はあると思います。

日本にいながらインドの日本語教師研修をする時代

――村上さんは公私にわたっていろいろな活動をされていらっしゃいますが、現在は主にどのような教育実践をされているのですか。

仕事としては南インドの日本語の先生方のサポートをしています。今はZoomのブレイクアウトルームの機能を使って、「多読」や「ビジネス日本語」などさまざまなトピックの部屋の中から、自分に興味のある部屋にインド人の先生方に自由に入ってもらい、情報・意見交換するような場を設けています。

――そういったオンライン教育の中では、村上さんはどのような役割をされるのですか。

私はまずそのような環境・場をつくるということが大事な役割です。それで実際にその時間になったら、各部屋を巡回したり、技術的なトラブルが発生した時に対応したりしたりと、裏方的なことも含めて何でもやります。

――ブレイクアウトルームというのは、対面授業におけるグループ活動のようなものですか。

はい。オンライン上のグループ活動です。オンラインのいいところは、それが実際に同じ時間に物理的に1カ所に集まらなくてもできるということですね。南インドといっても日本以上に広いし、実際に集まるのは無理なんです。そもそも、それを運営している私も日本から参加しているわけですから。実は私は南インドへ行ったことはまだないんですよ(笑)。

――ほかにオンライン教育において日本語教師に求められるのはどんな役割でしょうか。

私はスマート面談と呼んでいますが、オンライン個人面談ですね。これもLMSを使っているので個々人の学習状況も一目で分かるし、面談の予約の管理も楽です。もちろん私が南インドまで出かけていかなくても面談できます(笑)。面談の中では、何かを教えるというよりも、相手を励ましてモチベーションを上げることが大切ですね。

――こうして話をうかがっていると、「教えること」よりも「教える以外のこと」のほうが多いですね。

今は教える中身は本でもネットでも調べればいくらでもあります。それは一斉授業で伝えるものではないと思います。事前に動画などを準備して見てもらった上で、反転授業として行うのであれば有効ですが。

――オンライン教育においては日本語教師の役割も変わっていきそうですね。

そういうパラダイムシフトが来ているということに、もう一部の先生方は気づき始めたのではないでしょうか。オンライン対応は教師個人に任せるのではなく、教育機関はそういう動きに乗り遅れないよう、しっかり教師の研修をしていくべきだと思います。

VRの普及で日本語教育の可能性はもっと広がる

――近著の『異世界転送の用意はいいか』(Kindle版)では、近未来の日本語教育の可能性としてVR(Virtual Reality)を紹介されています。

VRは日本ではまだゲームセンターで体験するような限られたものですが、VRのゴーグルはいずれどんどん小さく、安くなっていって、今のスマホのように一般的に普及していくのではないかと思います。VRに限らず、これまですべての技術がそうなってきていますので。もしそうなれば外国語教育での活用の可能性は高いと思います。なお、近未来の日本語教育の可能性ではなくて、すでにMondlyなどのVR内で日本語を学ぶアプリが有料で販売されています。

――VRはZoomなどを使ったオンライン教育とはどのように違うのですか。

もし、まだVRを体験したことがない方であれば、一度ゲームセンターなどで体験されることをお勧めします。実際に体験してみないと、言葉でいくら説明しても実感できないところがあると思いますので。これは、Zoomのように画面を通して相手と何かをするのではなく、自分自身が画面の中の世界に入っていくと言ったほうが、イメージが近いかもしれません。

――具体的にはVRでどのようなことができるようになるのでしょうか。

例えばロールプレイなどをするのでも、実際の言語使用場面の中に自分が入ってやりとりすることができます。例えば、ホテルのフロントでチェックインしたり、クレームをつけたりするようなことが、実際にあたかも自分がその場にいるかのようにしてできます。これは学習効果も高いですし、何よりも学習者が興味を持つと思います。

――日本に来なくても、日本のホテルにいるような環境で日本語の会話練習ができるんですね。他にはどんなことができるのですか。

ゲーム的な使い方としては、何人かでチームを作って冒険をする中でいろいろな日本語を使うことでステージをクリアしていくといったようなことが可能です。そうすると例えば目の前にドラゴンが出てきて、皆でドラゴンを退治するためにはチーム内で日本語でやりとりしなければならないといったような活動ができます。これはゲーム好きの日本語学習者にとってはたまらないでしょうね。

――いろいろな夢が膨らみますね。これまで考えてもみなかったようなことが新しい技術でできるようになっていくんですね。そのような情報を村上さんはSNSなどを使って積極的に発信されていますが、どのような活動をされているか、ご紹介いただけますか。

以下のような活動をしています。興味あるものがあれば、ぜひご参加ください。

・むらログ 日本語教師の仕事術(日本語教師向けブログ):http://mongolia.seesaa.net/

・#Zoomでハナキン!(毎週金曜夜のZoomのブレイクアウトルームでの日本語教師の情報交換会):http://bit.ly/zoomdehanakin

日本語教師チャット(毎月1回のツイッターによる日本語教師の情報交換会:https://sites.google.com/view/jt-chat/

日本語教師ブッククラブ(日本語教師に役立つ本を毎月1冊読む会):https://sites.google.com/view/japanese-teachers-bookclub

――これだけの活動を継続的にされるのはとても大変だと思いますが、この情報発信やネットワークのエネルギーはどこから出ているのですか。

これまで私が長く海外で日本語を教えてきた中で、さまざまな方が発信した情報を頼りにしてきました。ネットワークがあることで救われる日本語教師は海外にも国内にも多いと思います。そのような日本語教育界に少しでも恩返しができたらと思って活動しています。

――本日はありがとうございました。

村上吉文(むらかみ・よしふみ)

1967年生まれ。国際基督教大学卒。冒険家、日本語教育コンサルタント。主な著書に『もう学校も先生もいらない!? SNSで外国語をマスターする《冒険家メソッド》』(ココ出版)、『しごとの日本語 IT業務編』(アルク)。個人ブログ「むらログ 日本語教師の仕事術」管理人。みずからの外国語学習経験と、辺境で学校に通わずに日本語をマスターした通称「冒険家」たちへの多くのインタビューを通して「冒険家メソッド」という学習方法を提唱している。二児の父。現職は2020年6月より南インド担当の日本語教育アドバイザー。

異世界転送の用意はいいか: 語学教師のためのVR入門

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  • 作者:村上 吉文
  • 発売日: 2019/09/08
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もう学校も先生もいらない!?  SNSで外国語をマスターする《冒険家メソッド》

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しごとの日本語 IT業務編

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