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令和4年度 国語に関する世論調査――「涼しい顔」はどんな顔? 「忸怩たる思い」はどんな思い?

文化庁から、令和4年度「国語に関する世論調査」の結果が発表になりました。日本語やコミュニケーション、ローマ字表記に関する意識、気になる言葉や日本語の変化など、今の日本人の日本語に対する意識を数値で見て見ましょう。

「国語に関する世論調査」とは?

「国語に関する世論調査」とは、文化庁が日本人の国語に関する意識や理解の現状について調査し、国語施策の立案に役立てるとともに、国民の国語に関する興味・関心を喚起するものとして、平成7年度から毎年実施しているものです。毎秋に発表される調査結果は、年々変化する日本語や言葉・コミュニケーションに対する日本人の考え方が反映されており、大変興味深いものがあります。今回の調査は全国の16歳以上の男女3,579人から回答を得ました。

今回は、「国語とコミュニケーションに関する意識」「ローマ字表記に関する意識」「言葉遣いに対する印象や慣用句等の理解」の3章に分けて調査結果が出ています。

言葉の使い方に8割以上が気を使っている

最初の質問項目は、「あなたは、ふだん、あなた自身の言葉の使い方について、どの程度気を使っていますか」でした。

「非常に気を使っている」「ある程度気を使っている」を合わせて、「気を使っている」と答えた人は80.4%に上りました。8割以上の人が、ふだんから言葉の使い方に気を使っていると答えています。

それでは、気を使っている人は、どのように気を使っているのでしょうか。

多かった答え(複数回答可)は、「改まった場で、ふさわしい言葉遣いをする(82.9%)」「敬語を適切に使う(69.8%)」など、場や相手に応じた言葉の使い方に関するものでした。こういった回答は、ここ数年、変わらない傾向です。

また、「差別や嫌がらせ(ハラスメント)と受け取られかねない発言をしない(62.7%)」「自分と違う意見や考え方を見聞きしても、感情的に反応しない(53.9%)」「インターネットで、感情的な発言・反応をしない(37.1%)」など、社会問題にもなっているSNS上などでの言葉遣いについての回答も目立ちました。

「日本語を母語としない人と適切に意思疎通を図る」といったフォリナートークに関するもの、「年齢が離れた人に意味が通じるようにする」といった世代間格差に関するもの、「漢字で書くべきか仮名で書くべきか、適切に判断する」といった表記法に関するものなど、多様な意見も見られました。

「言葉の意味や使い方などが分からないとき、調べたり確かめたりするか」という質問に対しては、「よくする」「時々する」を合わせて、「調べたり確かめたりする」という回答が83%の上りました。そして、その方法で最も多かったもの(複数回答可)は「インターネットの検索サイトで検索する(63.2%)」や「パソコンやスマートフォンなどの辞書ソフト・辞書アプリを利用する(39.8%)」で、「紙の辞書を引く(26.7%)」を大きく上回りました。辞書の利用も紙からデジタルに移行していることが調査から伺えます。

ローマ字表記はパソコンのローマ字入力の影響

「ふだん見聞きする言葉の中で、外国語の頭文字などを使ったいわゆるアルファベットの略語(例:AED、SNS、DX等)が用いられている状況は好ましいか」という質問に対しては、世代によって回答が大きく分かれました。

全体としては、「好ましいと感じる(45.1%)」と「好ましくないと感じる(47.8%)」が拮抗していましたが、16-19歳では好ましいが76.1%、70歳以上では好ましくないが71.5%と、全く逆の傾向を示しています。好ましい理由で最も多かったのは「短く省略した方が使いやすいから(77.9%)」、好ましくない理由で最も多かったのは「意味が分かりにくいから(94.2%)でした。

学びやすいローマ字の書き表し方が多かったものをまとめると、以下のようになりました。

訓令式が優勢だったもの:サシスセソ(sa、si、su、se、so)、シュシュショ(sya、syu、syo)、ザジスゼゾ(za、zi、zu、ze、zo)、ハヒフヘホ(ha、hi、hu、he、ho)

ヘボン式が優勢だったもの:チャチュチョ(cha、chu、cho)

例えば、パソコンなどで「シ」を入力する時だけヘボン式の「shi」と「h」を入れたり、フを入力する時だけ「h」ではなくヘボン式の「f」を使ったりするのは、やや不便に感じます。また、ローマ字を知っていることの利点として多かったのは「パソコンなどで日本語をローマ字入力するのに役立つ(71.1%)」でした。ローマ字表記には、訓令式、ヘボン式、日本式がありますが、学びやすいと思われる書き表し方は、このパソコンなどでのローマ字入力と大きく関係しているようです。

本来の意味より、新しい意味が優勢な慣用句

慣用句の意味については、ほぼ毎回のように調査項目に挙がっています。今回の調査では、以下の5つの慣用句が取り上げられていました。

(1)涼しい顔をする

(2)忸怩(じくじ)たる思い

(3)情けは人のためならず

(4)雨模様

(5)号泣する

実は、5つとも本来の意味ではない意味を選択した人が多かった慣用句です。それぞれ本来の意味と回答の多かった意味を並べますので、確認してみてください。

(1)涼しい顔をする

本来の意味:関係があるのに知らんぷりする

回答の多かった意味:大変な状況でも平気そうにする

(2)忸怩(じくじ)たる思い

本来の意味:恥じ入るような思い

回答の多かった意味:残念で、もどかしい思い

(3)情けは人のためならず

本来の意味:人に情けを掛けておくと、巡り巡って結局は自分のためになる

回答の多かった意味:人に情けを掛けて助けることは、結局はその人のためにならない

(4)雨模様

本来の意味:雨が降りそうな様子

回答の多かった意味:小雨が降ったりやんだりしている様子

(5)号泣する

本来の意味:大声を上げて泣く

回答の多かった意味:激しく泣く

令和4年度「国語に関する世論調査」の結果について

https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/kokugo_yoronchosa/pdf/93945901_01.pdf

執筆:新城宏治

株式会社エンガワ代表取締役。日本語教育に関する情報発信、日本語教材やコンテンツの開発・編集制作などを通して、日本語を含めた日本の魅力を世界に伝えたいと思っている。

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