4/30まで10%OFF「 NAFL 日本語教員試験対策セット」 【4/30終了】対象商品10%OFF「 春の資格取得キャンペーン」

検索関連結果

全ての検索結果 (0)
地域日本語教育を開拓する日本語教師ー鹿児島県霧島市

地域の日本語教育に携わる日本語教師が求められている現在。各地域で、日本語教師が未開拓の領域を切り拓き始めています。今回、鹿児島県霧島市で「きりしまにほんごきょうしつ」を立ち上げ、活動している日本語教師の本田佐也佳さんに、インタビューを行いました。(深江新太郎)

「きりしまにほんごきょうしつ」を立ち上げるまで

―― 今回、宮崎県の地域日本語教育整備事業の総括コーディネーターである髙柳香代さんから、鹿児島県霧島市に、ゼロから地域の日本語教育を切り拓いている日本語教師がいる、と熱いメールを受け取り実現したインタビューですね。まず、本田さんが日本語教師になろうと思ったきっかけを教えてください。

私は鹿児島市で生まれて育ったのですが、ニュージーランドに留学とワーキングホリデーで行っていたときに漢字が大好きな人たちに会って、「あぁ、私、日本語を教えるの好きだな」と感じました。もともと語学は好きだったのですが、日本語教師の道には進んでなくて、ニュージーランドではじめて日本語を教えるという経験をしました。そして、帰国して日本語教育能力検定試験の勉強を独学で始め、合格しました。ただ検定試験の勉強をしている間、鹿児島県の国際交流協会で行われている日本語教室に参加し、ボランティアも行っていました。

―― 積極的に日本語教室にも参加していたのですね。さてその後、地域の日本語教育に本格的に携わろうと思ったのはどうしてですか。

私が今、生活しているのは鹿児島県の霧島市です。結婚して霧島市に引っ越すまでは、鹿児島市で日本語教師をしていました。鹿児島市には、国際交流協会や大学などがあり、国際交流をしたいと思ったら、普通に関わることができました。でも霧島市は鹿児島県で2番目に大きい街で、人口は12万人ぐらい、外国人の人口も1000人を超えたぐらいなのですが、国際交流協会はあっても日本語教室はありませんでした。国際交流のイベントはしているけれど、定期的に集まる場がなかったり、国際交流協会と企業や自治会がつながっていないので情報が集約されていなかったりしました。それで、地域の外国人が定期的に、誰でも気軽に参加できる場をつくれないかと思いました。

―― 定期的に誰でも気軽に参加できる場、というところがポイントですね。具体的にどんなことから霧島市の日本語教育に関わり始めたのですか。

2021年に霧島市で鹿児島県主催の日本語サポーター養成講座が開催されました。私は、引っ越してきて霧島市とつながりが薄かったので、まずは霧島市とつながりをつくるために、このサポーター養成講座を受講しました。受講生は私を含めて8名でした。ただ、先ほどもお話しした通り、養成講座を受講してもその後の活動につながる場がないということが課題でしたので、受講生の方たちに「私は修了後に教室を立ち上げたいと思っているので、一緒に活動しませんか。」と声がけをしましたところ、5名の方が賛同してくれました。そして、日本語教室の名前を「きりしまにほんごきょうしつ」と決め、2022年5月28日に、私も含め8名で「きりしまにほんごきょうしつ」の初ミーティングを行いました。

企業内での日本語講座がスタート

―― では、「きりしまにほんごきょうしつ」を立ち上げてからこれまでどんな活動をしてきましたか。

最初の活動は、2022年6月~11月に霧島市国際交流協会主催で開催された「外国人のための生活・文化等理解講座」に日本語サポーターとして参加したことです。ただ、その講座の内容が「日本人向け出前講座」の内容を転用したもので、内容が難しく、資料にはふりがなもありませんでした。だから、外国人である受講生にとっては何を言っているか分からない、資料を見ても分からない、という状況でした。講師である市職員も、外国人の反応がなく、困っていました。手伝いに来た私たちサポーターも役割が明確になっていないため、いる意味があるのか、という状態でした。

おそらく、市職員の人たちは、外国人に伝えたいことがあっても、どのように伝えたらいいか分からなかったのだと思います。日本人相手だと分かることでも、外国人を相手にしたことがないので、どんなことに注意して講座を進めていいか分からないのです。結果として、そこに溝が生まれ、つまらない講座になってしまっていました。そこで、私は正式に霧島市の地域日本語教育コーディネーターではないのですが、ぜひやらせてください、と頼んで市職員向けに「やさしい日本語」研修を行いました。同時に講座の改善策も提案させてもらいました。

すると2023年3月にふたたび開かれた講座では、内容に大きな変化がありました。説明するときは、実物や写真を用い、資料にはふりがなもついていました。ゲーム形式の内容も取り入れて、参加した外国人はやる気を持って取り組んでいました。さらに、サポーターの役割を明確にし、各テーブルに配置してくれたので、サポーターもフル活用されました。

さらに、見学に来ていた企業の担当者が、普段はなかなか日本語を話さない外国人従業員がいきいきとサポーターと交流する姿に感動して、「日本語講座を開講したい」と「きりしまにほんごきょうしつ」に声がかかりました。結果として、翌月の4月からその企業内で日本語講座が始まりました。日本語教師である私は有償で授業を行っています。

―― 自ら課題を見つけ提案を行いながら、企業内での日本語講座というハードルの高い取り組みを実現したのですね。しかも声がかかった翌月からのスタートということでスピード感がありますね。

そうですね、こういった企画を立て、教室のカリキュラムを作ることなども楽しんでやっているのがスピードにつながっているのかもしれません。授業をするのも、準備するのも全部、楽しんでやっています。教室作りについては、私はサポーターと作ることを大切にしています。授業の内容や教具は私が決めて準備をし、会話練習やクイズはテーブルごとにサポーターが入って行う形で進めています。

つながりをつくっていくカンバセーションナイト

―― さて、「地域の外国人が定期的に、誰でも気軽に参加できる場づくり」という点での活動は、スタートしていますか。

はい、2022年10月から月1回、平日の午後6時~8時まで、公民館でカンバセーションナイトを開催しています。予約不要で、途中参加も途中退席もOKです。日本語でおしゃべりをすることが基本で、各テーブルには日本語サポーターがファシリテーターとしてついて会話をサポートします。参加者は外国人は20代~30代が中心ですが、日本人は9才以下から70代まで、幅広い世代にわたっています。今までに「これからの国際化に子どものときから慣れてほしい」という家族の参加があったり、海外にルーツを持つ子どもたちが参加したりしています。参加費は1人200円だったのですが、若い世代の参加が多くなったので、未就学児は無料、学生は100円としています。

外国人がカンバセーションナイトに参加した理由を見てみると、「日本語を話したい」が1番多く、次は「日本人の友達がほしい」でした。なので、「日本語を学ぶ」というより「日本語を話す機会を持つ」ことに重点を置いています。また日本人側の理由を見てみると、「おもしろそう」とか「国際交流に関心がある」という気軽なものが多く、「日本語を教えたい」とか「彼らのために何とかしたい」というものではありませんでした。なので、誰でも、気軽に、参加できるようにし、認知度を上げていくことが目標です。

―― 参加する側の動機を意識することはとても大切ですね。カンバーセーションナイトの意義については、どのように考えていますか。

最初は日本人と外国人のつながりができることを考え、それを意義だと考えていたんですけど、外国人と外国人、日本人と日本人のつながりにも意義があることに気がつきました。外国人と外国人だと、国が同じだけれど来日の時期も職場も違うので、カンバーセーションナイトで初めて会うということが起きます。先輩の外国人が日本語が上手だと、それに刺激されている姿を目にすることもあります。霧島市に来てすぐの人にとっては、すでに霧島市で暮らしている人に会えると、ここで生活する姿をイメージできます。日本人と日本人の場合、例えば子どもが親とは異なる大人と交流する場となり、言葉づかいやマナーを学ぶ機会となっています。

市政として地域の日本語教育に取り組み始めるために

―― 最後に、これからの課題について教えてください。

これまで霧島市に地域の日本語教室をつくりませんか、など声がけをしてきたのですが、「やったことないから」「外国人向けのはこっちじゃないから」など、門前払いの状況でした。この経験からボトムアップは難しいのでトップダウンになるように働きかけないといけないと、私たちの意識を変えました。そこで、今、顔見知りの市議会議員の方と勉強会をしたり、市議会議員の方と直接話せる「議員と語ろう会」に参加して多文化共生の社会づくりについて話したりしています。霧島市が市政として地域の日本語教育に取り組めるようになる基盤づくりを今、行っています。

むすび

本田さんは、「ずっと楽しんでいる」と言っていました。「うまくいかなくてもやることに意義があるから、やってみて改善すればいい」という精神で取り組んでいる本田さんは、未開拓の領域を開拓する中でぶつかる状況の一つ一つを楽しんでいました。そんな本田さんを応援する地元の方々が集まり、「きりしまにほんごきょうしつ」という新たな日本語教室が産声をあげました。

執筆

深江 新太郎(ふかえ しんたろう):「在住外国人が自分らしく生活できるような小さな支援を行う」をミッションとしたNPO多文化共生プロジェクト代表。ほかに福岡県と福岡市が取り組む「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」のアドバイザー、コーディネータ―。文化庁委嘱・地域日本語教育アドバイザーなど。著書に『生活者としての外国人向け 私らしく暮らすための日本語ワークブック』(アルク)がある。

book.alc.co.jp

関連記事


日本語教師プロファイル京谷麻矢さん―言語マイノリティのサポートを目指して

日本語教師プロファイル京谷麻矢さん―言語マイノリティのサポートを目指して
今回の「日本語教師プロファイル」では京都府にお住いの京谷麻矢さんをご紹介します。京谷さんは現在、大学で留学生に日本語を教える傍ら、中途失聴や難聴の方のための要約筆記者の仕事、そして会話パートナーとして失語症者のサポートをされています。日本語教育での歩みとともに、要約筆記をするに至った経緯や、現在の活動、更には今後の展望までお話を伺いました。

登録日本語教員や日本語教員試験に関するご質問にお答えします 第2回:勉強法について

登録日本語教員や日本語教員試験に関するご質問にお答えします 第2回:勉強法について
 先日、編集部から「登録日本語教員や日本語教員試験に関する質問」を募集したところ、皆様から非常にたくさんのご質問が寄せられました。ここで皆様から寄せられたご質問について、これまで公表されている各種資料を基に、個人的な見解を可能な範囲でお答えしたいと思います。文化庁等には確認をしておりませんのでご注意ください。実際にはケースバイケースの可能性もあると思われますので、あくまで参考意見の一つとして聞いていただければと存じます。

教科書について考えてみませんか-第5回 漢字学習も「できること」重視!

教科書について考えてみませんか-第5回 漢字学習も「できること」重視!
2011年4月から『月刊日本語』(アルク)で「教科書について考えてみませんか」という連載を掲載してから10年。2021年10月に「日本語教育の参照枠」が出て以来、現場では、コミュニケーションを重視した実践への関心が高まり、さまざまな現場で使用教科書の見直しが始まっています。「参照枠」を見ると、言語教育観に関して、「学習者を社会的存在として捉える/「できること」に注目する/多様な日本語使用を尊重する」という3つの柱が掲げられています。これは、2011年4月から『月刊日本語』で連載した中で述べていることに重なります。

日本人主導の交流を壊し、対等な関係性をめざした多文化えんげきワークショップとは(北海道江別市)

日本人主導の交流を壊し、対等な関係性をめざした多文化えんげきワークショップとは(北海道江別市)
2024年3月1日に、地域にほんごどっとねっと主催のトークサロン「学習者が来なくなった日本語教室、どう立て直す?」がオンラインで開催され、約 100名の参加がありました。北海道で活動する平田未季さんが話題提供を行った本トークサロンのエッセンスをご紹介します。(深江新太郎)