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日本人主導の交流を壊し、対等な関係性をめざした多文化えんげきワークショップとは(北海道江別市)

2024年3月1日に、地域にほんごどっとねっと主催のトークサロン「学習者が来なくなった日本語教室、どう立て直す?」がオンラインで開催され、約 100名の参加がありました。北海道で活動するSHAKE★HOKKAIDO主宰者の平田未季さんが話題提供を行った本トークサロンのエッセンスをご紹介します。前編はこちらから(深江新太郎)

3時間の活動のうち2時間は関係性構築

―それではまず、前編の内容も踏まえながら、SHAKE★HOKKAIDOで企画した、外国人住民と日本人が参加する「多文化えんげきワークショップ」について教えてください。

前編にもあるように、日本語教室がうまくいかないというところから全て始まっているんです。私が活動する北海道江別市には、1990年代に市民有志が立ち上げた江別国際センターという国際交流団体があって、2018年ごろから日本語教室を始めました。ただ参加者が一人か二人という状態で、どうやったら人が来るんだろうね、そもそも日本語を勉強したいというというニーズがあるのかな、という話を江別国際センターのスタッフとしてきました。スタッフは、日本人住民と外国人住民が交流できる場をつくりたいと思っていたため、日本語教室はちょっと違うんじゃないかという気持ちがあったみたいです。ただ、国際センターがそれまでやってきた国際交流のイベントもちょっと古いように感じていました。

そこで、日本人住民と外国人住民が対等に出会えて、教える、教えられるという関係でなく、しかも初級の日本語能力の人でも日本語で、街で暮らす当事者としての意見が言える活動を考えました。参加した日本人住民が外国人住民に対し見方が変わるようなワークをめざしました。

それから、活動する中で感じたのは、10代、20代の外国人住民は、日本人と交流できる・日本語が勉強できるだけでは集まらないということです。そこで、ワークショップは、いわゆる市の施設だけでなく、江別蔦屋書店やレストランなど「映える」場所で行いました。SHAKE★HOKKAIDOメンバーにはプロのデザイナー、写真家もおり、チラシやSNSでの広報にも力を入れています。

――ワークショップはどのような流れで進んでいくのでしょうか。

準備段階で外国人住民の方に聞き取り調査をして、話し合いのトピックを決めます。そのトピックを基に、劇団の方にシナリオをつくってもらいます。そこからワークショップ全体を組み立てていきます。ワークショップ当日は、演劇なので、体を使った関係性構築を行います。話し合いのための準備のワークです。実はこれが3時間中の2時間ぐらいなんですけど(笑)。

――ええ?

話し合いができるための関係性構築がほとんどで(笑)。劇団の人が演じる劇を見て、参加者が自分達でやってみることもあります。これは、話し合いのためのトピック導入です。話し合いは、日本人住民と外国人住民が必ず同数で行います。

――話し合いのトピックは、どのようなものがありましたか。

今まで4回、行ったんですが、1回目は共生か共存かです。もちろんこのトピックをそのまま参加者に伝えているわけではないのですが、この回はちょっと失敗だったんです。共生がいいという人も共存がいいという人もいて、みんな違ってみんないいというようになってしまい、意見のすり合わせが行われませんでした。2回目は、生活の中のディスコミュニケーションをどのように解決するかです。この2回目は、「思いやりの気持ちを持つ」「積極的に話しかける」という抽象的な結論になっちゃいました。3回目はより具体的にしたかったので、「公共の場でいらいらすること」にしました。最後4回目は、パキスタンコミュニティの人を主な対象にしていたので、「生活の中で問題が起きたときに誰に頼るか? お金を払ってサービスを購入する? コミュニティメンバーに頼る?」としました。

なぜ2時間、体を使ったワークをするのか

――なるほど。この話し合いに入るために、2時間ぐらい体を使った演劇のワークショップをするんですよね。

大前提として、無条件参加という原則があるんです。江別市で実際に増えているのは、たとえば技能実習生のような日本語能力が初級の人達です。ですので、無条件参加にすると、参加する外国人住民はほとんどが日本語能力が初級だろう、と。もっと言えば、初級前半やゼロの人もかなりいるだろうと思います。そうすると、いきなり話し合いというのはとても無理なので、どうやったらその人達に話し合いの趣旨をしっかりと理解してもらえるのかと考えました。同時に、日本人住民も大学の中の実践ではないので、話し合いの中で意見を言うことに慣れてなかったり、やさしい日本語で話すことも知らなかったりします。

――そこで、演劇なのですね。

演劇はコミュニティのコミュニケーションを支えてきた歴史があります。そして、劇団が演じる劇を見れば、今、街で何が問題とされているのか分かります。

――なるほど。第3回だと、「公共の場面でいらいらすること」だと、まず演劇があって、それから話し合いが始まるのですね。

「公共の場でいらいらすること」のときは、いらいらが生じる場面の演劇が4つありました。このときは、劇団の人が慣れてきて、若い劇団員がいろいろミスをします。遅刻してきたり、ずっと携帯を触っていたりして、それを見た主催の人が怒って出ていくんです(笑)。その後で、実は「演技でした」と戻ってきたところで、その4つの場面のイラストを示して、参加者がどれを体験したことがあるか指さすところから始まります。またそのとき、いらいらする側だったのか、いらいらされる側だったのかも指さします。なので、話し合いの最初は、演劇とかなり具体的にリンクしています。

――当事者性を高めていく仕掛けですね。そのトピックについて、他人事(ひとごと)としないで考えていくためのプロセスですね。

はい、まさにその通りです。理想論や抽象論にしたくなかったので、ほんとに具体によりそってほしい、地べたから、つまり自分の経験から離れないでほしいというのがすごくあります。

――だからこそ、体を使った演劇が必要なのですね。体を使って関係性構築のワークを行った後に、ことばを制限したワークを行うということですが、それについて紹介してもらえますか。

はい、これはA4の紙を使って、どのグループが一番高いペーパータワーを作れるか、というワークを行います。その際、まず1分~2分、紙をさわらないで、作戦会議をします。このときに、ことばを制限します。例えば、「これ」「なに」「どれ」の3つだけでコミュニケーションをとってください、などです。これは、だれかが意見を言いやすいような環境をつくらず、みなが公平にコミュニケーションに参加するための仕掛けです。そこで「あ、これくらいだったら伝わるんだ」と日本人参加者に理解してもらい、その経験を次の話し合いにつなげていきます。

参加者から寄せられた声

――参加者からどんな感想がありましたか。

自己開示できたとか、普段言えないような日本に対するネガティブなことも言えた、などがあります。普通の交流イベントだと、日本人側が中心となったコミュニケーションなので、日本に対するネガティブなことは言えないかな、と思います。

――確かに普通の交流型教室だと、日本人が日本のことを聞くという関係で進められていくことが多いですよね。

はい、日本人側の質問攻めみたいな。

――これを壊し、公平な関係をつくるための演劇ワークショップなんですね。

はい。実は、3時間のうち2時間が関係性構築のワークと いうのは私が考えたものではないんです。私はやっぱり話し合いをしたいから、話し合いの時間を1時間よりも長くとりたかったです。でも、劇団の人は最初、演劇ワークショップのために3日くれだったんです(笑)3日は絶対無理だと言うと、最低2時間はくれないと絶対できないと言いました。そこに時間をかけないと私の言っていることは実現できないということでした。その結果、現在の時間配分になりましたが、もし私だけでやっていたら、ほんとに参加者間の交流で終わっていたと思います。

――今後の課題はどんなところでしょうか。

活動の課題は費用です。現在は助成金をもとに活動をしていますが、今後も多様なアクターと協働する活動を続けていくには安定した資金源が必要だと感じています。

むすび

トークサロンの中で、「私も、ボランティア日本語教室という名前が教える・教えられるの関係を生んでいると感じています。今日のお話は、我が意を得たりでした。いろいろなところで多文化フラダンス教室とかにしてみたら? とつぶやいたりしています」というコメントをもらいました。地域社会における共生は、外国人住民が日本語を習得することで実現するものではなく、外国人住民と日本人住民が対等な関係性でコミュニケーションが行えることと言えます。そのために、演劇やフラダンスという身体性を軸にしたアートを通した関係性の構築は、私たちの次の一歩を考えるヒントになるのではないでしょうか。

プロフィール

平田 未季(ひらた みき):北海道大学 高等教育推進機構 准教授。協力隊でシリア・イエメンで日本語教育にかかわったのち、秋田大学を経て現職。大学で日本語教育を行うかたわら、SHAKE★HOKKAIDOを主宰し、北海道で日本語学習支援および共生支援に関わる人たちをゆるやかにつなぐ活動を行うとともに、演劇の手法を用いた共生のまちづくりワークショップに取り組む。

執筆

深江 新太郎(ふかえ しんたろう):「在住外国人が自分らしく生活できるような小さな支援を行う」をミッションとしたNPO多文化共生プロジェクト代表。ほかに福岡県と福岡市が取り組む「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」のアドバイザー、コーディネータ―。文化庁委嘱・地域日本語教育アドバイザーなど。著書に『生活者としての外国人向け 私らしく暮らすための日本語ワークブック』(アルク)がある。

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