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日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

私らしい働き方で「やさしいコミュニケーション」を届けたい

日本語教師の仕事は日本語学校などの教育機関で教えるだけではありません。今回はフリーランスの日本語教師として外国人学習者に日本語を教える傍ら、自ら「やさしいコミュニケーション協会」という一般社団法人を立ち上げ、医療現場における「やさしい日本語」の普及活動などを行っている黒田友子さんにお話を伺いました。

私の好きなことってやっぱり日本語だった。

――これまでの経歴を教えてください。

大学で日本語教育について学び、日本語を教える仕事に憧れがあったのですが、就職したのは医療系のコンピューターを販売する会社でした。今考えてみれば、ここが医療との関わりの第一歩でした。そしてコールセンターの仕事も経験したことで、どう話せばわかりやすいのか、相手にうまく伝わるのかも学んだように思います。
その後、結婚し上京した後も、一般企業に勤めていたのですが、少し体調を崩してしまいました。その時、夫から「好きなことをやれば?」とアドバイスされたんです。会社員だった時もずっと日本語教育への興味は持ち続けていましたし、改めて私の好きなことって日本語だった!と気づきました。それからもう一度、勉強し直して2011年に日本語教育能力検定試験に合格。さあ、憧れの日本語教師になれる!と思い日本語学校の職を探し始めた時に妊娠がわかりました。ここは一旦、日本語教師への夢は置いておいて、子育てに専念することになりました。

私なりのやり方で日本語教師への道を拓こう

子育てをしながらも日本語教育の勉強は続けていましたが、2017年に個人事業主の届け出をし、フリーランスの日本語教師として活動していくことにしました。フリーランスとなったのは子どもが小さいので学校勤務は難しいと考えたからです。フリーランスであれば子どもが急な病気になったとしても自分の責任でなんとかやりくりできるんじゃないかと。ラッキーなことに自宅近くに新規の保育園が開園することがわかりました。今しかチャンスはないと思い、事業者としての実績を作るためにホームページを作ったり、ベビーシッターを雇って仕事に行ったりしました。そうして無事、二人の子どもを保育園に入れることができ、本格的に日本語教師としてスタートすることになりました。

思いがけない出会いから広がった世界

――医療現場への「やさしい日本語」普及活動について教えてください。

数年前に「やさしい日本語」の存在を知りました。外国人とみるとつい英語で話しかけてしまいますが、外国人だからと言ってみんなに英語が通じるわけではない。日本に住んでいたり日本語を学んだことがある外国人には、むしろ日本語で話しかけたほうがよいのだということを実感しました。日本語教師として外国人に日本語を教えるということは多くの日本語教師がしているけれど、日本人にやさしい日本語を伝えている日本語教師はまだ多くないのでここなら私にもできることがあるかもしれないと思いました。私はイラストを描くこともできるので言葉だけでなく見せ方によってもっとわかりやすく伝えられるのではと思い、熱中症への注意の「やさしい日本語版」を作ったりしていました。

ある県で麻疹・風疹が流行っていた時に、読みやすいように工夫して「麻疹・風疹への注意」の「やさしい日本語」版を作ってみました。そしてそれを国立感染研究所に送ったんです。そうしたらホームページ上に私の作った「やさしい日本語」版が採用されていて、「うれしい、使ってくれたんだ」と思っていました。

3か月ほどした頃でしょうか。突然、Twitter経由でメールが来ました。国立国際医療研究センターの堀成美先生からでした。驚きました。堀先生は「一緒に『やさしい日本語』を広めたい」「医療従事者に『やさしい日本語』が使えるようになってほしい」とおっしゃってくださいました。フリーランスを応援するお考えの方だったこともあって、私に声をかけてくださったのです。そこから堀先生のご協力を頂きながら看護師、保健師、薬剤師、医療通訳の方等に対する「やさしい日本語(医療)研修」が始まっていきました。医療に関する専門的な部分を堀先生が行い、日本語に関する部分、「やさしい日本語」への翻訳の仕方を私が担当しました。関東や関西を中心にオンラインも含めて1年で19回行いました。

例えば「ご予約はございますか」という表現を「予約はありますか」に変えるだけで外国人に伝わるようになる。ちょっとしたことだけれども、日本人が気づきにくいことを日本語教師の立場から伝えました。

すべての人に「やさしいコミュニケーション」をめざして

――2019年に一般社団法人「やさしいコミュニケーション協会」という法人を作られていますね。法人にしたのはどうしてですか。

病院や自治体など公的な機関での「やさしい日本語」講座を行うことが増えてきました。やはり個人だと信用が足りないので官公庁からの依頼を受けるのが難しいということが理由の一つです。堀先生にはこの協会の特別顧問になっていただきました。

――法人の名前は「やさしい日本語コミュニケーション協会」ではなく、「やさしいコミュニケーション協会」なのですね。

はい。実は外国人だけでなく高齢者、障害を持つ人などすべての人にとっての「やさしいコミュニケーション」とは何かを考えています。そうすると「やさしい日本語」だけでなく、イラストやデザインによる見せ方だったり、場合によっては「やさしい英語」だったり、それらを使うことで、より広く、いろいろな方に情報提供ができるのではないかと考えました。そういう思いのもとに生まれた協会なので「やさしいコミュニケーション」としました。その活動の一つに「やさしい日本語」医療版があります。

日本語教師が担えることとは

――日本語ジャーナルの読者の方に伝えたいことはありますか。

私は現在、2人の子どもを育てながら仕事をしているので、日本語を教えるのはオンラインで週4コマまでと決めています。日本語を教える時には教科書は使わず、相手の生活や興味や年代に合わせることを心がけています。ありがたいことに数か月先まで予約で埋まっており、他にこの「やさしいコミュニケーション協会」の仕事もあり、忙しい毎日を送っています。

ただ自分のペースでやりたいことができているので、日本語教師って働きやすい職業だなと感じています。私の場合は思いがけない出会いから、現在の「やさしい日本語(医療)研修」などに発展していったわけですが、本当にどこにお仕事が落ちているかわかりません。外国人と共生していく上でも、もっとコミュニケーションをスムーズにすることを日本語教師が担えるような環境ができるといいと思いますし、日本語教師として教える仕事だけでなく、他にもいろんな仕事があるってことを伝えられたらうれしいです。

取材を終えて

新型コロナウィルス感染拡大による緊急事態宣言が出されている中、このインタビューもZOOMを使って行われました。ご自分で「やさしい日本語」のスライドを作り、いろいろな機関に送っていったことが現在の活動と結びついたということですが、その後のご活躍を見ても、柔らかいイメージの黒田さんのどこにそんなエネルギーとパワーがあるのか不思議なくらいです。お話を聞いて私も刺激を受けました。このインタビューの後、「やさしいコミュニケーション協会」http://yasacommu.or.jp/のホームページでは「新型コロナウィルスについて外国語で相談できる窓口をまとめました」や特定定額給付金の「10万円のもらいかたについてまとめました」など更新されているのでチェックしてみてください。

取材・執筆/仲山淳子

日本語教師歴30年のフリーランス日本語教師。非常勤講師として長きにわたり留学生への日本語指導や日本語教師養成講座に携わったのち、フリーランスに転身。現在は企業研修やプライベートでの日本語指導だけでなく、日本語ボランティア教師養成講座の講師、e-ラーニング教材の開発等、多方面で活躍中。