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日本語教師プロファイル吉田有美さん―自分に向いている道を見つけて歩く

今回ご紹介するのはフリーランスの日本語教師であり、コーチングやキャリアコンサルタントの資格もお持ちの吉田有美さんです。コーチングやキャリアコンサルティングを取り入れるようになったきっかけや、現在の働き方等についてお話を伺いました。

大変だったけど、日本語教師として必要なことを経験できた新人時代

――日本語教師になるまでを教えてください。

短大を卒業した後、金融関係の会社に就職しました。その頃は就職氷河期でしたし、キャリアのことはあまり考えていませんでした。仕事は営業事務でしたが、私には全く合っていなくて、4年半で辞めました。その後、結婚し、夫の転勤についていった先で派遣やパートの仕事をしていました。

30歳ぐらいの時に近所に英会話教室ができたので通い始めました。その時は英語力を伸ばして何か仕事に結び付けようという野望(笑い)があったのですが、英語力はそんなに伸びず。でも教室に通うのがとても楽しくて、先生たちがやっていることを自分もできないかなと思ったんです。自分の場合は日本語を教えることですが、英会話の先生たちのように自分も日本語を教えてみたいという気持ちが芽生えました。それで日本語教師養成講座を見つけて通い始めました。

――養成講座修了後に日本語教師に?

実は短大卒だと採用してもらえる日本語学校が少ないということを知らなかったのですが、養成講座を修了したアークアカデミーの日本語学校の求人に応募してみたらありがたいことに採用してもらえました。それで非常勤講師として働き始めました。

――実際に教えてみてどうでしたか。

大変でした。授業そのものはすごく好きだったのですが、担任としての業務、採点、作文の添削、進学相談等、授業以外のことを時間内にスムーズに行う能力が私にはなくて…。この学校ではゼロ初級から中級まで担当しましたが、カリキュラム、教材、小テスト、試験などもすべて自分で作らなければなりませんでした。教務の先生に頼りながらなんとか一人でこなしました。

その当時は本当に辛かったのですが、新人時代にこの経験をさせてもらったことが自分の糧になっているんじゃないかと思います。というか自分では気づかなくて、他の先生にそれだけできるならどこに行っても大丈夫じゃない?と言ってもらったんです。今、考えると本当によかったなと思います。

実はこの学校、教科書もオリジナルの教科書でした。絵や写真がいっぱいで生活に密着した内容です。構造シラバスではなかったので、文法の指導についても自分で考えなければなりませんでした。他の教科書を参考にしたりして自分でも勉強しました。最初に与えられたのが文型積み上げ式ではないテキストだったというのも良い経験だったのかもしれません。

自分の問題を解決するために飛びついたコーチング

――その後、別の学校に移ったのですよね。

はい。私は進学クラスを担当していたのですが、自分が20人を相手にするのは向いていないなと思いました。もともと少人数のグループレッスンをやりたくて、もっと個人的な関わり方でサポートするような仕事がしたいと思っていたんです。それでアークアカデミーを辞めて飯田橋にある日本語スクールに移りました。

ここは留学生ではなく、日本に住んでいるビジネスパーソンなどの外国人を対象に日本語を教えている機関でした。一応教科書は決まっていましたが、進むペースも授業の内容もある程度担当教師に任されていたので、私には合っていたと思います。

ここでグループレッスンやプライベートレッスン等を行いました。出張レッスンもあって企業や大使館などへも教えに行きました。

――コーチングを取り入れようと思ったのはどうしてですか。

実はプライベートレッスンで対応の難しい生徒さんがいて困っていたんです。日本語教師としてはある程度経験を積んで、教えることは一通りできるようになったと思っていたのですが、コミュニケーションや対人関係の問題を解決しないと、この先、苦しいなと思いました。そこで飛びついたのがコーチングだったんです。「ジャパンオンラインスクール」で「日本語教師のためのコーチングセミナー」というのを見つけて、2日間の研修に行ったのがコーチングを始めるきっかけでした。

この研修でコーチングの概要を知り、もっとちゃんと習ってみたいと思いました。それで「日本コーチ連盟」の半年間の講座に通い始めました。その後、資格のための試験にも合格し、プロコーチとなりました。

コーチングを始めるきっかけとなった生徒さんとは学習の目的やレッスンで扱う内容について対話ができるようになり、時間はかかりましたが、本音を知ることで良い関係を築くことができました。

――コーチングをすぐに仕事にするようになったのですか。

いいえ、初めは、コーチングの資格を取っても、自分の担当の生徒さんのレッスンには使っていましたが、学校にアピールすることもありませんでした。ただせっかく勉強したことなので、誰かに広めたい。どうやって広めよう?ということでブログを書き始めました。そうしたら同僚がそれを見つけ、サタラボ主催者の小山暁子さんに紹介してくれたんです。それでサタラボで2回ほどコーチングセミナーを開催しました。そこにはベテランの日本語教師の方や日本語学校の副校長、教務主任のような方もいらしていただきました。Facebookでも紹介していただいたおかげで、他の日本語学校などでコーチングの研修ができるようになりました。

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コロナ禍で働き方も変わって

――さらにキャリアコンサルタントの資格も取られていますね。

はい、これで資格を取るのは最後にしようと思っています(笑い)。今教えているのは日本語の上級者がメインなのですが、上級者と仕事の悩みは切っても切れないものだと気付きました。日本の会社に就職したい、または会社に入ってみたけれどなんだか思っていたのと違う、転職したい等様々な相談があります。それをサポートするにはコーチングだけじゃだめだと思いキャリアコンサルティングも学ぶことにしました。

――本当に勉強熱心ですよね。見習わなきゃ。

ちょっと勉強に頼るところがあるんです。勉強している間は成長している感じがして。

キャリアコンサルティングを学んだことには思わぬ副産物もありました。初めは外国人しか対象に考えていなかったのですが、2020年来のリモートワークで自分の人生や働き方を見つめ直したいという日本人の方からの相談もあったんです。これから副業として日本語教師やコーチングの仕事を考えたい方、または長年日本語教師をしてきたけど違うことをしようかしらという方もいました。

――現在のお仕事はどのようになっていますか。

2020年までは飯田橋のスクールにプライベートレッスンだけで籍を置いていたのですが、それも辞めて、今は自宅ですべてオンラインで仕事をしています。外国人への日本語のレッスンとコーチングの個人セッション(これにはキャリアコンサルティングも含まれます)、そしてセミナーとして傾聴講座を行っています。

自分にはこの生活が合っているなぁと思います。遊びのためなら出かけるのもいいですし、自然に親しむのも好きなんですが、仕事だけなら家でいいんです。

自分の特性を知ってから方向を決めて

――これから何かやっていきたいことはありますか。

勉強することが好きなのですが、以前は何か資格を取ってからでないと外に出せないと思っていました。でも今は勉強したらすぐにアウトプットしたいなと思っています。現在、放送大学で「心理と教育」を学んでいますが、それも勉強会などを開いて人に伝えていきたいです。つまり専門性を深めながら、吸収したことをアウトプットすることで循環させていきたいんです。私はもともとインドアな性格で在宅ワークが性に合っています。ですからレッスンも講座もオンラインでできるのは幸せなことです。ときどき対面での仕事も楽しいですが、基本的には暮らしの中で仕事ができる今のスタイルでやっていこうと思っています。

――これから日本語教師になりたい人へのアドバイスをお願いします。

自分がどんな人生を送りたいか、自分がどうありたいか、そこに日本語教師という仕事がどう結びつくかをまず考えてほしいです。日本語教育と言っても、非常に幅広い分野です。例えば言語の専門家になりたいとか、ボランティア活動をやりたいとか、私のように人間に興味があるなどそれぞれ違うと思うんです。ですからどこに自分のこだわりがあって、大事にしたいものがあるのかを見てから、道を選んでいくのでもいいのではないかと思っています。

取材を終えて

かつての日本語教師には養成講座を出た後、日本語学校で教えるということしか頭に浮かばなかったかもしれませんが、今は本当にいろいろな道があるということを吉田さんのお話を伺って実感しました。それぞれの方が自分の特性を活かして、日本語を教えることができる時代になったのだと思います。

取材・執筆/仲山淳子

流通業界で働いた後、日本語教師となって約30年。5年前よりフリーランス教師として活動。

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