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いつもの授業に文化体験を取り入れてみる

日本語学習者の学習目的はさまざまですが、日本のポップカルチャーや伝統文化が好きで日本語に興味を持つ人がたくさんいます。そのような学習者のニーズに応えるべく、この度、日本語を使って日本の文化体験をするためのテキスト『にほんごで文化体験』が上梓されました(村田晶子監修、長谷川由香・池田幸弘・竹山直子著)。著者のお一人の長谷川由香先生(法政大学グローバル教育センター専任講師)と監修者の村田晶子先生(同教授)のお二人にお話を聞きました。

文化体験を軸にした短期留学プログラム

――まず、本教材開発の背景を教えてください。

法政大学では2014年から毎年、夏休みと春休みに短期日本語日本文化プログラムを行っています。2週間ほどのプログラムで、日本文化の体験を柱にしているという特色があります。このプログラムの中でこれまで使ってきた教材やコンテンツが蓄積されましたので、それをまとめて広く大学以外の教育現場でも使っていただこうと思い、発刊の運びとなりました。

――短期日本語日本文化プログラムには、どんな学生が参加するのですか。

中国、台湾、韓国などアジアの国・地域を中心に、アメリカ、ロシア、メキシコ、マレーシアなどの法政大学の協定校から、毎回60名ほどの参加者があります。日本語学科で日本語を専攻している学生から、日本は好きでもまだあまり日本語は学んでいない学生まで日本語のレベルはさまざまですので、4~5クラスぐらいに分けてプログラムを実施します。

――文化体験というのは、具体的にはどんなことを体験するのですか。

浅草へ行って浴衣を着たり、防災館へ行って地震体験をしたり、焼き鳥の串打ちを体験したりと、毎回、いろいろな体験をしてもらっています。基本的には午前中に事前活動を行い、午後に現地に出かけていろいろな体験をして、翌日振り返るという流れで行います。

――世界各国から集まってくる多くの留学生にさまざまな日本文化を体験してもらうのは楽しそうですが、実際にプログラムとして運営するのは大変そうですね。

法政大学ではこのプログラムを多くの学生ボランティアにサポートしてもらっています。毎回100人以上の学生ボランティアの応募があり、留学生と一緒に授業に参加したり、校外へ引率したり、空港に送り迎えをしてくれており、大変助かっています。留学生にとっては同世代の日本人と交流できますし、学生ボランティアにとっては、このプログラムに関わることが初めてのボランティア体験になることが多いようです。ボランティアとしての敷居が高くないので、参加しやすいようですね。

――100人以上の応募とは人気がありますね。学生ボランティアにとっても、日本の伝統文化を改めて見直すきっかけになりそうですね。

留学生は日本の伝統文化よりポップカルチャーに興味があるのではないかとよく聞かれるのですが、ポップカルチャーで有名なところ、例えば秋葉原などには留学生は自分で出かけていけるんですね。それよりもプログラムでは、留学生が自分一人ではできないようなことを体験してもらうことに主眼を置いています。

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さまざまな教育現場で使えるための工夫

――文化体験は楽しそうですが、楽しいだけで終わらせるのではなく、学習効果を高めるのは工夫が要りそうですね。

学習効果を高めるためには、テーマ選びから事前活動・事後活動を含めたカリキュラムデザインまでを十分に考慮した上でプログラムを運営していかなければなりません。今回上梓した『にほんごで文化体験』では、そのデザインをさらにさまざまな教育現場でも使用できるように汎用性を持たせました。

――教材の中身を具体的に教えてください。

本書はテーマによって、以下の7章に分かれています。

1章:街を歩く

2章:食を楽しむ

3章:地域の文化・産業を学ぶ

4章:地域の人と交流する

5章:災害に備える

6章:伝統文化に触れる

7章:季節のイベントを体験する

各章は「ウォームアップ」(テーマについて事前に調べる、確認する)と2~3つの「活動」で構成され、各「活動」は「事前活動」「現地活動」「事後活動」で構成されています。

――例えば、第1章の「街を歩く」では、どのような「ウォームアップ」「活動」を行うのですか。

まず「ウォームアップ」では、日本の都道府県名や有名な観光地を確認します。その上で、「事前活動」で自分の住んでいる街の歴史や見どころをまとめ、「現地活動」で地図を作り、「事後活動」で発表するような構成になっています。また、各活動には「これもやってみよう!」という、活動を膨らませるアイデアをたくさん載せていますので、各教育現場の実情に応じて使っていただければと思います。

――「これもやってみよう!」には、どんなアイデアを盛り込んだのでしょうか。

例えば、発表をするのでもクラスで発表するだけではなく、積極的にSNSなどを使って日本語で発信するようなことを提案しています。若い世代のコミュニケーションスタイルに寄り添った方法を取り入れました。

――日本文化というと、難しい歴史の説明などに終始してしまいがちだと思います。

今回の教材では、担当編集者からの提案もありインプットよりもアウトプットを重視しました。今の時代は、興味があれば何でもインターネットで調べられます。知識そのものに紙幅を割くのではなく、興味を持ったら自ら調べてみること、体験してみること、何よりも学習者が楽しいと思えることを重視しました。また、そのアウトプットに対して教師が適切にフィードバックできるよう、各章で必要となる日本語表現などについては付録の「活動のための日本語」にまとめました。文化体験を行いつつ、日本語能力も伸ばしたいという学習者の声に配慮したものです。

コロナ禍でも文化体験はできる

――ところで、日本も世界もまだコロナが収まっていませんので、今は日本に短期留学するというのも難しい状況ですね。

はい。そのため、本書にはオンラインでもできる文化体験も取り入れました。読者が無料でダウンロードできる「教師用ガイド」の中に「オンラインアレンジ例」というコーナーを作り、オンラインでもできる活動を紹介しています。「教師用ガイド」では、文化体験の進め方やコツについてかなり細かく丁寧に解説しているので、日本語教師のみならず、これから文化体験を取り入れてみようという地域の交流担当の方やボランティアにも役立つ内容になっています

――それはいいですね。

もともと本書は大学の短期プログラムだけではなく、例えば地域の日本語ボランティア教室や日本語学校でも使っていただけるように構成されていますが、オンラインであれば、海外にいながら日本文化のバーチャル体験をすることも可能です。バーチャル博物館やYouTube動画、ストリートビューなど文化体験に利用できるものはたくさんありますので。

――地域の日本語ボランティア教室などで活用するのに、特にお勧めの章はどれですか。

地域在住の生活者の方にとっても、相互理解促進に役立つことを願っているという観点から、3章「地域の文化・産業を学ぶ」や4章「地域の人と交流する」などが特にお勧めですが、5章「災害に備える」も大切です。2週間の短期プログラムであればここまでは必要ないかもしれませんが、地域で生活するのであれば、災害のことを考えるのは重要な体験です。

――参加者が特に盛り上がるのはどの章ですか。

2章「食を楽しむ」は盛り上がること請け合いです。言わば日本語で「食レポ」をしてもらうわけですが、皆、ノリノリで動画をビデオに撮ってきます。YouTubeでも「食レポ」動画は人気がありますので、皆さんその乗りで楽しんでいるのだと思います。

――楽しそうな様子が目に浮かびます。名産やおいしいものを紹介してもらえれば、地元にとってもメリットがあるかもしれませんね。本日はありがとうございました。

村田晶子(むらた・あきこ)

法政大学グローバル教育センター教授。

長谷川由香(はせがわ・ゆか)

法政大学グローバル教育センター専任講師。

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