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皆が安心・安全に過ごせる日本語教室を目指して  ――ビルマ・ミャンマー難民の背景とVECの活動

3月のとある日曜日、東京・高田馬場で行われている、VEC(Villa Education Center)の日本語活動にお邪魔しました。ビルマ・ミャンマー難民の日本語支援、多文化共生の実践、日本語教育人材の育成など、多様な側面を持ったVECの活動をご紹介します。

ビルマ・ミャンマー難民の日本語学習を支える

VEC(Villa Education Center)は、高田馬場でミャンマー料理店ルビーを営むチョウ・チョウ・ソーさんが、日本語教育を専門とする松尾慎さん(東京女子大学教授・VEC代表理事)と一緒に立ち上げた団体です。ビルマ・ミャンマー難民の日本語学習を支える目的で2014年から活動を続けてきました。2020年には活動の幅を広げるため、任意団体になりました。

活動の中心は日本語活動と日本語教室です。日本語活動は毎週日曜日の午前中、日本語教室は日曜日の午後に行われています。日本語活動では、さまざまなグローバルな課題について参加者全員で学び合います。また、日本語教室では生活のための入門・初級日本語や子供たちの日本語を支援しています。ほかにも、生活相談や多文化共生セミナーなど、多様な活動を行っています。

活動を始めて9年で、これまで実施した日本語活動は実に378回、参加したミャンマー出身者は78名、参加した日本人などは411名に上ります(2023年3月12日現在)。

共に学び合う日本語活動

取材日当日は、高田馬場駅で本日のメインファシリテーターの西村さんと待ち合わせをして、駅から歩いて5分ほどの教室まで連れて行ってもらいました。教室は、チョウ・チョウ・ソーさんがレストランの近くに借りているアパートの一室です。

当日の参加者は、ミャンマー、インドネシア、中国などの出身者の方々と、当日参加の日本人のビジター、ファシリテーター、松尾さんなど総勢13名でした。

この日のトピックは「防災」。1週間前が東日本大震災があった3月11日であったことから、ファシリテーターの「1週間前の3月11日は皆さん何をしていましたか」というアイスブレキングから活動は始まりました。

話題はすぐに東日本大震災へ。避難所と避難場所の違いをピクトグラムで確認したり、東日本大震災直後の避難所の様子を映したビデオを皆で見たり、参加者からミャンマー、インドネシア、中国などの避難所の様子を共有してもらったりしました。参加者の問題意識が12年前から現在へつながり、日本から世界へと視点が徐々に広がっていく様子が感じられました。

大きな地震があり、あなたは避難所である小学校に避難しました。避難所では、人の話し声やいびき、子どもの泣き声が聞こえてきます。ペットの鳴き声も聞こえてきました。ゆっくり休みたいですが、むずかしいです。

その後、避難所に関する短い文章を皆で読み、語彙を確認した後、グループに分かれて「すべての人が安心して、安全に避難生活をするために、どうすればいいか」について考えました。そして、「みんなが安心、安全に過ごせる避難所」のモデルを皆で作り、最後にグループごとに発表しました。

年齢、性別、宗教、病気や障害有無、ペットなど、多様なバックグランドの人が避難してくる避難所では、さまざまなことを考慮しなければなりません。各自が理想の避難所を考えることを通して、改めて防災への意識を高めることができました。

ビルマ・ミャンマー難民の背景

VEC立ち上げのきっかけとなったビルマ・ミャンマー難民の背景について、少し確認しておきましょう。

2021年に起きたクーデターで、NLD(国民民主連盟)党首のアウン・サン・スー・チーさんが自宅の軟禁状態から、刑務所の専用施設へ移されたことは記憶に新しいところです。

ミャンマーは1962年に軍部が政権を握って以来、民主化とそれに対する弾圧が繰り返されてきました。1988年には学生を中心とした民主化運動がミャンマー全土に広がりました。チョウ・チョウ・ソーさんも、この時に日本に難民として逃れてきました。

1990年の総選挙でNLDは圧勝しましたが、1989年以降も断続的にスー・チーさんは自宅軟禁状態に置かれ、その間の1991年にノーベル平和賞を受賞します。2015年の総選挙でNLDが圧勝、2016年にはNLD政権が発足しスー・チーさんは国家顧問兼外務大臣に就任しましたが、それも束の間、2021年には再び軟禁状態となり、複数の有罪判決を受け、現在に至ります。

民主化と軍部による弾圧が繰り返される中で、多くのミャンマー人が祖国を離れ難民として世界へ逃れていきました。2021年の日本における国籍別の難民認定申請者数はミャンマーが最も多く612人でした。これは難民申請数全体の約25%を占めます。ちなみに、2021年のミャンマーの難民認定数は32人でした。

活動後はミャンマー料理を楽しむ

日本語活動が終わった後、希望者はチョウ・チョウ・ソーさんが営む近所のミャンマー料理店ルビーに場所を移し、美味しいミャンマー料理を食べながら、交流を楽しむこともできます。チョウ・チョウ・ソーさんは、NPO法人ミャンマー日本語教育のかけはし協会の理事長を務め、ルビーは在日ミャンマー人のコミュニティの中心になっています。

取材日当日も参加者の多くがルビーに移動して、友好を深めました。ここで、松尾さんと西村さんにVECの活動について話を聞きました。

ーーVECの活動に参加している学生は、どのぐらいいるのですか。

松尾:東京女子大学では学部の2年生から日本語教員養成課程が始まるのですが、受講学生には現場体験を勧めていて、VECのことも紹介します。希望する学部生が参加するんですが、その中に、継続的に参加するようになる学生もいます。そんな学生には少しずつ役割を持ってもらうようにしています。そんな中からファシリテーターとして成長を遂げ、大学院に進学する学生もいて、交替で中心メンバーとして関わってもらっています。

西村:私はちょうど修士課程を修了したところなのですが、VECの活動に関わるようになったのは4年ほど前からです。VECでは学内では決して関われないようなさまざまな背景の人たちとの接点があり、大変勉強になっています。

ーー本日の「防災」の活動は、非常によく練られた活動だと思いますが、どのぐらい前から準備をしているんですか?

西村:今日の活動は、1週間ほど前に私の方で原案を作り、松尾先生や当日参加するほかの学生、大学院生に見ていただきながら何度も修正して、本日を迎えました。

松尾:事前のメインのファシリテーターとのメールでのやりとりの数はかなり多いですよ。担当は公平に回ってきます。次回のメインファシリテーターは私(松尾)なんですよ。

ーー先生が直接ファシリテーターをされることもあるんですね。長年VECの活動が続いているのはどうしてだと思いますか。

松尾:教室が皆にとって安心・安全な居場所になっているからだと思います。これは、難民として厳しい環境で生きてきたミャンマー人にとっても、ファシリテーターやビジターとして参加している日本人にとっても同様です。

西村:VECは集まってくる方が皆、同じ想いを持って関わっているからだと思います。そしてその想いが学内の先輩から後輩に受け継がれています。それは松尾先生が全体をコーディネートして、親身になって我々をご指導くださっているからだと思います。

ーーところで、先日、VECの活動をベースにして、『対話型日本語教材 ともに学ぶ「せかい」と「にほんご」』(凡人社)が出版されました。こちらの教材を紹介していただけますか。

松尾:本日の日本語活動では「防災」を扱いましたが、他にもこれまで日本語活動でさまざまなテーマに取り組んできました。この教材では、「環境」「フードロス」「児童労働」など、国や文化を超えて存在する12のトピックについて考え、物事を捉える「物差し」を豊かにすることを目指しました。

西村:この教材のために新しく作った内容もあります。必ずしも難しい問題だけではなく、各地の食べ物や世界一周など、日本語教室の参加者に興味を持ってもらえそうな話題も入れながら、硬軟織り交ぜたトピック構成になっています。

ーーグローバルな課題を身近なところに引きつけて教材化しているところが非常にユニークですね。ちなみに、VECの活動に参加してみたいと思ったらどうしたらいいですか。

松尾:VECのホームページの「一緒に活動に参加しませんか」からご連絡ください。積極的なご参加をお待ちしています。

ーー本日はありがとうございました。

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