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日本語ジャーナル:日本語を「知る」「教える」

日本留学試験で学生が高得点を取るための指導法

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日本留学試験は日本の大学進学を目指す留学生が受験する試験です。受験者は毎年増加しており、2019年度は日本国内で約3.7万人、海外で1.3万人、合計約6万人もの人が受験しました。この日本留学試験の最新の傾向を踏まえ、どのような指導をすれば学生が高得点を取れるのか、この度、『日本留学試験模擬テスト3回分 文系編』を上梓した、咲花(さくはな)美紀先生にお話を聞きました。写真は一緒に教材を執筆した、左から総合科目担当の井上裕太先生、日本語担当の陽(みなみ)菜乃香先生と咲花先生。(NJ編集部)

聴解・聴読解の試験が難化傾向

編集部:まず、咲花先生が現在教えている学校について紹介してください。

咲花:私は現在、東京国際ビジネスカレッジで日本語を教えています。ここは、全国的に幼児教育から大学教育まで幅広く展開している創志学園グループの専門学校の一つで、学校は東京校・神戸校・福岡校がありますが、私は神戸校に所属しています。

編集部:学校では日本留学試験対策に力を入れているのですか。

咲花:漢字圏・非漢字圏を問わず日本語能力試験N1の合格者を毎年多数輩出しており、また、神戸校は日本留学アワーズ*1に2年連続で入賞するなど、ありがたいことに日本語学校の先生方からも高い評価をいただいております。また、日本留学試験についても、3年前から韓国大手日本語学校の時事日本語学院と提携し、日本・韓国の合計13カ所で年2回、2000名規模の日本留学試験の模擬試験を実施しています。

編集部:これまでそのような実践を積み重ねてきた中で、最近の日本留学試験について感じていることはありますか。

咲花:日本語について言えば、ここ数年、「聴解」「聴読解」が難化しているように思います。これまではキーワードが聞き取れれば正解できたような問題が比較的多かったように思いますが、最近は話の流れをきちんと理解し、ポイントを押さえておかないと正解できないような問題が増えました。また、文系であれば「総合科目」では深い知識の有無が問われるようになり、難しくなってきているように思います。

編集部:日本語の科目については、日本語能力試験と比べて何か特色はありますか。

咲花:話の展開の複雑さ、例えばそれまで正解と思っていた選択肢が最後にひっくり返されるといった点ではどちらの試験の「聴解」も同じように難しいのですが、日本留学試験は使われている語彙の種類が多く、また実際に大学入学後に必要となるような一方向の講義を聞いて全体を理解するような能力が必要とされ、こういった問題に慣れていない受験生が苦労しているように見受けられます。

日本留学試験で高得点を取るためのストラテジー

編集部:そのように難化している日本留学試験に向けて、どのような指導が大切になるのでしょうか。

咲花:ポイントはいくつかありますが、まずは「正解を導くためのプロセスを正しく理解する」ということが大切だと思います。

編集部:それはどういうことですか。

咲花:学生によくありがちなのが、問題を解いて自分の答えが正解か不正解にばかり目が行ってしまい、「何個正解した」「何個間違えた」ということにこだわってしまうことです。それより大切なのは、「なぜ間違えたのか」「どういうプロセスで考えるのか」「そのプロセスの中のどのポイントで間違えたのか」を、一つ一つきちんと理解することなのです。

編集部:表面的な○×や点数ではなく、教師は学生が問題を解く手順や過程にまで踏み込むことが大切なんですね。

咲花:それから「読解」はタイムマネージメントが極めて大切です。「読解」の問題は25問を40分間で解かなければならないので、1問を1分半ぐらいのスピードで解いていかなければなりません。文章を1文1文精読していたのでは到底間に合いません。徹底したスキミングとスキャニングの練習が必要になります。

編集部:先生方はストップウォッチ片手に指導されているそうですね。

咲花:もちろん、そればかりではなく時間を取って精読するような読解の授業もあるのですが、試験対策の「読解」と通常の「読解」は分けて考えています。

編集部:「聴解」にも、そのようなポイントはありますか。

咲花:「聴解」ではメモを上手に取ることが極めて大切です。学生を見ていると、音声が流れている間、目をつぶってじっと耳を澄まして聞いている学生もいます。かたや、あれもこれもメモを取ってしまい、結局正解が導けない学生もいます。そういった学生には、まずメモの取り方から指導します。

編集部:点数を取るためには、相応のストラテジーがあるのですね。

咲花:メモは量も適度でなければいけませんし、とる個所がズレていてもいけません。ただ、そのようなことは一朝一夕に身に付く技術ではないのです。試験直前になって慌てて試験対策としてするのではなく、入学した最初からメモの取り方は徹底的に教え、身に付けさせるようにしています。

編集部:「記述問題」についてはいかがですか。

咲花:「記述問題」は、ある種の「型」がありますから、まずはその「型」をしっかり自分のものにさせること。その上で、それに沿って、いろいろなテーマで作文を書き、添削するということを繰り返せば、ほとんどの学生は合格点が取れるようになりますよ。

解説を読み込んで、正解への道筋をつかんでほしい

編集部:科目ごとにさまざまなポイントがあるんですね。そのようなストラテジーや学校でのこれまでの教育実践が、今回の『日本留学試験模擬テスト3回分 文系編』には、どのように反映されているのでしょうか。

咲花:日本留学試験を受験する学生の目から見て「こんな本があったらいいな」と思えるような教材を作りたいと思いました。初めて問題を見た時から正解にたどり着くまでの道筋が解説で示せればいいと。教師が初めから正解がわかっていてそのための理由を述べるような解説ではなく、学生が理解できるような平易な言葉で、一つ一つプロセスを踏めば必ず正解があるのだということを学生には伝えたいです。

編集部:今回の解説は全部で230ページという膨大なものになりました。本誌に入れてしまうと、ものすごく分厚い本になってしまうので、パスワードを入れれば読者の方は無料でダウンロードできるようにしました。

咲花:問題を解いてみて、不正解だった問題はもちろん、あやふやで自信がない問題は解説を何度も繰り返し読んでもらいたいと思います。どういうふうに考えて、どういう手順で問題を解いていけばいいのかを、腹落ちするまでしっかり読み込んでください。

編集部:最後に日本留学試験の指導をされる日本語の先生方や、今年日本留学試験を受験する学生の皆さんにメッセージをお願いします。

咲花:今は新型コロナウィルスの影響で学生さんや先生方は大変な思いをされていると思います。本書が日本留学試験の受験を不安に思っている学生さんの不安を少しでも解消できるものになればとてもうれしいです。日本語の先生方には、今回ご紹介したような試験のための指導は「機械的な受験対策」のように見えてしまうかもしれません。もちろん学生の日頃の日本語の運用力を高めることが大切であることは言うまでもありません。それに加えて、学生を次のステップにスムーズに送り出してあげることも我々日本語教師の大事な仕事だと思っています。日本留学試験の指導をどうしたらいいだろうと悩んでいる先生(実は以前の私がそうでした!)のヒントになれば幸いです。

編集部: 本日はありがとうございました。

咲花美紀

東京国際ビジネスカレッジ神戸校教務研修課課長。国内日本語学校での日本語指導や、日本語教師養成講座での指導を経て、現職。現在は、留学生への日本語教育だけでなく、教員養成・研修や教材開発にも力を注いでいる。共著に『テーマ別上級で学ぶ日本語〈三訂版〉ワークブック』(研究社)。

 

*1:日本語学校の教職員が選考委員となり、留学生に勧めたい進学先(大学・大学院・専門学校など)を選ぶ、一般財団法人日本語教育振興協会「日本語学校教育研究大会」主催の留学生の環境整備を目的に設立した賞。