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学習者が読みやすいスライドの作り方―UDフォントを使って

オンライン授業の機会が増え、日本語教師がスライドを自作することも多くなりました。見やすいスライドは学習者の学習意欲や学習効果を高めます。今回は、UDフォントというフォントを使って授業で使っている使用するスライドをブラッシュアップする方法をご紹介します。株式会社モリサワの高田裕美さん(UDデジタル教科書体の開発者)と野村陽香さん(公共ビジネス課UDフォント販促/推進担当)にお話を聞きました。

授業のスライドを読みやすくする工夫

編集部:モリサワと言えば出版関係者にはフォントでおなじみの会社です。フォントとは出版物などを作る際に使用する書体データのことです。本日は、そのモリサワが開発したUD(ユニバーサルデザイン)フォントの中のUDデジタル教科書体を使って、読みやすいスライドを作るコツを伺いたいと思います。

野村:まずは実際の例を見ていただいたほうが分かりやすいと思います。1)一般的なフォントで作ったスライドと2)UDデジタル教科書体で作ったスライドを見比べていただきます。合わせて、フォントだけではなく、スライドを見やすくするためにどんな点に注意するといいかも合わせてご紹介したいと思います。

1)

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2)

f:id:takuwakun:20220322134639j:plain

編集部:一見しただけでも2)のUDデジタル教科書体を用いたスライドのほうが読みやすい印象はありますが、どこがどのように違うのでしょうか。

野村:この2枚のスライドでは、主に以下のようなところを変えています。比較してみてください。

フォント:一般的なフォント/UDデジタル教科書体

レイアウト:中央揃え/頭揃え

行間:狭め/広め

余白:あまりない/余白がある

文字の太さ:変化あまりない/変化をつける

色味:揃えない/揃える

編集部:まず、今回のテーマでもあるフォントですが、ここでは「旅行が好きですか?」「はい、好きです~いいえ、あまり好きじゃありません」のところにUDデジタル教科書体が使われていますね。

野村:はい。UDデジタル教科書体は「やさしい印象」があるので、会話調のところに使ってみました。「好き」「嫌い」は見出しですので、一般的なゴシック体にしています。

編集部:文字の位置や行間を調整することで、随分と見やすくなるんですね。

野村:行頭は頭揃えにし、また1行があまり長くならないように改行することで余白を作りました。また行間は調整しないと狭くなってしまうことが多いのですが、特に日本語の授業で使用するスライドは漢字に振り仮名を振ることも多いと思いますので、それを考慮して若干広めに取りました。

編集部:振り仮名は日本語教師にとっては関心の高いところだと思います。色使いも、たくさん色を使えばいいというわけではないんですね。

野村:旅行者のアイコンと囲みの罫線の色を揃えるだけで、全体としてすっきりしたまとまりのある感じに仕上がると思います。

日本語学習者にも有効なUDデジタル教科書体

編集部:UDデジタル教科書体のチーフデザイナーの高田さんに、UDデジタル教科書体が生まれた背景や特長についてお伺いしたいと思います。まずはUDデジタル教科書体を含めたUDフォント全体について教えてください。

高田:UDとは、ユニバーサルデザイン*1のことです。もともとは、高齢化が進む日本において、視力の衰えた高齢者にも読みやすく誤認しにくいフォントを開発するというところからスタートしています。

編集部:今回はUDデジタル教科書体ということですので、教科書、つまり子供向けのフォントということになるのでしょうか。

高田:もともとはロービジョン(視力の弱い)の子供たちの問題を解決するために開発しました。子供たちが使う教科書は、一般的に教科書体という書体が使われています。教科書体は毛筆で書いた形を元にしていますので、線の太さに強弱があり、ハネ、ハライ、トメなどが強調されており、例えば発達障害の子供たちの中には、そういった形を苦手に感じる子供たちもいます。

編集部:むしろ、そういったものが強調されていないゴシック体のほうが、弱視や読むことに障害のある子供たちには読みやすいのでしょうか。

高田:ところがゴシック体にしてしまうと、今度は画数が違ってきてしまったりします。また「令」や「しんにょう」など、教科書体とゴシック体では字形が異なってしまうものもあります。そこで生まれたのが、教科書体の教育的側面を維持しながら、読みやすさを追究したUDデジタル教科書体なのです。

編集部:UDデジタル教科書体は日本語学習者にとっても有益でしょうか。

高田:もちろんです。日本語の先生方にリサーチしたところ、先ほどお話ししたハネ、ハライ、トメなどを強調して書いてしまう初級日本語学習者が多いということを聞きました。日本人が当たり前のように識別できることでも、日本語の文字を初めて習う学習者の場合、どの部分の形状が(たとえフォントによって形が違っても)同じなのかは分かりません。まして、筆文化のない方は、書くときに必要なアクセントなのか不要なものなのかが分からないのです。フォントの違いで学びが止まってしまうのであれば、大変残念なことだと思います。

UDデジタル教科書体を使ってみよう

編集部:UDデジタル教科書体の特長や背景も分かりましたので、それでは日本語教師が具体的にUDデジタル教科書体を使いたいと思ったらどうしたらいいか、教えてください。

野村:WindowsのPCをお使いでWindows10以降であればUDデジタル教科書体が標準搭載されています。ですので、WordであれPower Pointであれ、スライドを作成するときにそのフォントをUDデジタル教科書体を選択すれば、それで大丈夫です。

編集部:簡単にできるんですね。フォントを選ぶ際にはABC順に並んでいることが多いので、UDデジタル教科書体はかなり後ろの方にあるのですが、同じUDデジタル教科書体でもいくつか種類があるようです。

野村:初めはUDデジタル教科書体NP-R(太字であれば、UDデジタル教科書体NP-B)をお使いになるのをお勧めします。*2

編集部:Macユーザーはどうしたらいいですか。

野村:MacのPCにはUDデジタル教科書体は標準搭載されていませんが、MORISAWA BIZ+(モリサワ ビズプラス)*3という弊社の有料版のサービスがあります(330円/月 税込)。こちらには、実は日本語の先生方にお勧めのいろいろなUDフォントが付いています。特にお勧めなのは「筆順フォント」というもので、小中学校で習う漢字について、書き順に沿ったストロークごとに一文字として文字を書いていく過程を収録しているフォントです。もちろんWindowsでも使用できます。

編集部:漢字の授業でいろいろな使い方ができそうですね。最後に、今や社会にはユニバーサルデザインの考え方に沿ってさまざまな商品やサービスが生まれており、今回ご紹介したUDデジタル教科書体もその一つだと思いますが、今後の展望をお聞かせください。

高田:どのような商品やサービスも全ての人にとって最善であるというわけにはいかないと思います。そういった点から、さまざまな選択肢があることが大切だと思います。多くの人にとって読みやすいフォントの特長は損ねずに、少数の人の読みにくさを解消する点にも配慮したフォントがUDフォントであり、その一つがUDデジタル教科書体です。もちろんフォントだけではなく関連するさまざまなことも含めて、豊かな選択肢があればと思いますし、私たちもそのような声に応えて今後も新しいフォントを開発していきたいと考えています。

編集部:「全ての人にとって最適なものはない」「だから多様な選択肢を準備しよう」という考え方は、日本語教育にも通じるお話であるように思います。本日はありがとうございました。

UDデジタル教科書体について https://www.morisawa.co.jp/topic/upg201802/

★アルクの日本語文字学習シリーズ

*1:文化・言語・能力の違いや障害有無などを越えて、できるだけ多くの人が利用・参加できることを目指したデザインやプロセス

*2:詳細はこちらの動画をご覧ください。教育版「等幅・P付・K付ってな〜に?」https://youtu.be/TagLmFfAXYU

*3:https://www.morisawa.co.jp/products/fonts/bizplus/price/

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