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雑談の授業について考える③---雑談を広げる・深める・楽しむ2つの活動

これまで、私が実践している雑談の授業のことや、雑談をどう捉えて教えているのかを2回に分けてお話ししてきました。記事をお読みくださった方から、「もっと具体的な活動や練習方法を知りたい」というお声をいただきましたので、今回の記事では、私がよく実践している雑談の活動を2つご紹介いたします。(執筆:加須屋 希)

レベルを問わず実施できる、雑談の授業での活動

これまでの記事の中で、「雑談が苦手だと感じている人の要因」を3つ、挙げてきました。

【雑談が苦手な要因

1)雑談のための日本語表現を知らない

2)「雑談のネタがない」と思い込んでいる

3)雑談に対する捉え方の違い

この中から、まずは2)「雑談のネタがない」と思い込んでいる、という要因を克服することを中心とした活動【偏愛マップ】をご紹介します。実は雑談のネタというのはもともと本人の頭の中にたくさんあるのですが、それに気づかずにいる人は多いです。ネタを掘り起こす活動をすることで、少しずつ自分が知っていることについて、深く、長く、自分の本当の言葉で話せるようになっていきます。

そして、次のステップとして、自分が持っているネタを人に伝える楽しさを知るための【noteを使って表現する活動】をご紹介します。

私が授業で実践するのは、主に中級から上級(N2~1レベル)の学習者が多いですが、これらの活動はレベルを問わず実施することが可能です。また、2つの活動はどちらも学習者の人数を問いません。

「雑談のネタがない」を克服するための活動 - 「偏愛マップ」

「偏愛マップ」は齋藤孝さんが開発したコミュニケーション・メソッドです。「マップ」というとマインドマップや言葉のマッピングがありますが、頭の中にあるものを整理したり、新しいアイデアに出会うことができるツールとして、授業でも取り入れることがあります。この「偏愛マップ」も、今まで自分が強く意識していなかったものや、忘れていたもの、何気なく見過ごしていたものを再認識することができるツールです。

さらに、自分が書いた「偏愛マップ」を他の人に見ながら、自分の好きなものについて説明をしたり、聞き手からの質問に答えていくことで、自分の中にある「雑談のネタ」を認識することができるのです。さらに、誰かの「偏愛」について聞くことで、自分が知らなかった新たな世界に出会うこともできます。

「偏愛マップ」を使った授業の進め方

①「偏愛マップ」を書く

まずは自分の「偏愛マップ」を作成します。1枚の白い紙に偏愛しているもの、つまり「ちょっと好きなもの」ではなく、本当に好きなものを書き込んでいきます。「他の人が見てわかるように書く」ということ以外は決まったルールはありませんが、注意してほしいのは、好きなものを「アニメ」「サッカー」「買い物すること」と書くのではなく、具体的なアニメのタイトル、好きなサッカー選手、よく買い物をする店や物などを、具体的に書くことです。

レイアウトも自由です。シンプルな箇条書きでもいいですし、ジャンルごとに線で囲ったり、イラストを描く人もいます。以前、オンライン授業でこの活動をした時は「Google Jamboard」や「Padlet」などのウェブツールを使ったことがありましたが、写真や動画などを取り入れてまるで雑誌のようなマップを作った人もいました。

②「偏愛マップ」を使って話をする

「偏愛マップ」が完成したら、2人組または何名かのグループに分かれて、マップを見せ合います。マップを見た人は、気になったものについて「これはどんな作品なの?」というように、質問をします。マップを書いた人は相手に分かるように説明をし、「なぜ自分がこれが好きなのか」についても話します。

この時に、質問をする側は5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どうして)をベースに、質問をしたり、相槌を打ちながら聞いてもらいます。これは、第2回目の記事の中でご紹介した「聞き手の反応が話し手に「自分の話題に興味を持ってもらえた」という自信を与える」というところに繋がり、最終的には「偏愛マップ」に書き込んだことは全て自分の貴重な話題である、ということが意識できるようになっていきます。

さらに「偏愛マップ」から派生して「わたしの町のマップ」や「もし1億円あったらマップ」など、学習者から提案してもらったこともあります。特に「わたしの町マップ」は、東京の中で自分がよく行く地域やお店が細かく書き込まれ、さながらガイドマップのようでした。自分が住んでいる町や都市などの話題はとても身近で、共通している部分も多いので、話題が尽きません。

学習者の会話

A:「蔵前」ってどんな町なの? 何があるの?

B:おしゃれなコーヒー屋とか、雑貨屋がたくさんあるんだよ。

  静かにコーヒーを飲んだりできるし、店の写真を撮るのも楽しいよ。

A:いいねぇ。私もおしゃれな店に行ってみたい!どうやって「蔵前」を知ったの?

B:Instagramで見つけて、行ってみたの。

このように「偏愛マップ」を雑談力を身に付けるために取り入れていますが、この活動によって

・自分の中にある「雑談の話題(ネタ)」を認識することができる

・他の人の話題を、興味を持って聞くことができる

といった力が得られるようになるのではないかと思っています。

私は「偏愛マップ」を取り入れた活動を、雑談以外の授業でもおこなうことがありますが、学習者に人気のある活動で、「またやりたい!」「他の人とも話したい」という声をよく耳にします。

日本語で伝える楽しさを知る活動 - 「note」を使った活動

私は雑談を「人間関係を円滑にするための言語活動、および身体的動作」と定義しています。「雑談」というと口頭での会話が頭に浮かびやすいですが、「書く」「読む」といった活動も「雑談」に含まれると考えています。

「偏愛マップ」の活動などを通じて自分が話題を持っていることに気づいたら、次はそれを表現する楽しさを知るための活動をします。

ご紹介するのは「note」というSNSを使った活動です。「note」はblogのように、文章や写真、イラスト、動画などを使って、自由に表現することができるインターネット上のサービスです。書いたものを教師やクラスメイトだけが読むのではなく、世の中の人にも読んでもらおうと、あえてSNSを取り入れることにしています。
数あるSNSの中から「note」を選んだ理由としては

① 広告収入システムではないため、広告目的の記事がなく、ユーザーや記事の質が高いこと

② 登録方法、使い方がシンプルで簡単であること

③ スマホやタブレットからも書き込みや閲覧ができること

④ 学習者が書いた記事を一か所にまとめて公開できる機能があること

などが挙げられます。

普段、学習者が日常的に使っているSNSと同じ感覚で使うことができれば、継続的に記事を書いたり読んだりできるのではないか、と考えました。

また、「note」のようなSNSを使った活動の目的は大きく分けて2つです

①アウトプット:自分が知っている情報を他の人に伝えることの楽しさを知る。また、伝え方の工夫をする。

②インプット:他の人の記事を読むことで、伝え方・表現の幅を広げる。また、書くのに必要なことを日頃からインプットできるようになる。

他の人の記事を読むというインプットができるのがSNSの利点です。学習者にとって、教科書や本やインターネットの記事など、日本語を読む機会はたくさんありますが、日本人が書いた文章を、自分が好きなジャンル・内容を探して、無料で手軽に読むことができるという点において、「note」は生の日本語に触れられる良いチャンスなのではないかと思っています。

そして、SNSの特性を活かして、いいと思った記事の著者にはコメントを残したり、交流することもできます。反対に、自分が書いた記事にコメントをもらえたらどんなに嬉しいことでしょうか。

授業で「note」を使う際は、目的も含めて、これらの話をした上で活動を始めます。

note」を使った授業の進め方

①「note」を使う目的、この活動で得られることを伝える

目的などに加えて、「これまで学校で練習してきた作文や論文から少し離れて、自分の好きなことを好きなように書いてみよう」と呼びかけます。

②「note」に登録する

note」が無料であること、個人情報を出す必要はないこと、メッセージ機能はないため個人的なやりとりはできないことなどを説明した後、アカウントを登録します。細かい個人情報の入力などはなく、一般的なSNSやインターネットサービスの登録と同じです。

③記事を読む

いきなり記事を書くのではなく、まずはインプットの活動から始めます。「note」の世界がどんなところなのか、日本人はどんなことを、どんな表現を使って書くのかを知る活動です。まずは、1週間かけてたくさんの記事を読み、自分が気に入った記事をクラスの中で紹介してもらいます。

印象的だったのは、アニメが大好きな学習者が、自分の好きな作品の考察が書かれた記事を紹介した時のことです。「日本語でこれだけ作品について深く考えて書かれたものを初めて読んだ」と興奮した様子で語ってくれました。その日は一晩中「ハッシュタグ」を使って検索し、アニメの考察が書かれた記事を片っ端から読み漁ったそうです。

別の学習者は「日本の大学院を卒業して就活をして、内定をもらった」という留学生の記事を紹介しました。紹介した学習者もこれから大学院に入り、日本で働くつもりでいたので、非常に参考になった、と言っていました。そして「自分たち以外にも日本語を勉強している人で「note」をやっている人がいる」ということに驚いていました。

④記事を書く前に

最初の記事を書く前に、著作権について触れておきます。インターネット上で記事を公開する際に気を付けなければならないことを、きちんと「ルール」として認識してもらいます。そしてもう一つ、「ハッシュタグ」についても紹介します。せっかく書いた記事ですから、たくさんの人に検索して読んでもらえるよう、「note」の中でよく使われるハッシュタグを紹介します。

⑤記事を書き、「note」に公開する

いよいよ記事を書きます。記事のテーマは、自由に書くこともありますし、クラス内で話し合って共通のテーマを決めて書くこともあります。既に様々な記事を目にしているので「こんなことを書いてもおもしろくないかもしれない」といった気持ちは薄いようで、書く前の段階でペンが止まってしまう、という人はあまりいません。

雑談の授業は「伝えること」が目的なので、記事での文法や文章力についてはあまり追及しません。インターネットに公開するため、本人が心配な場合は事前にこちらが確認をしますし、読み手に伝わりにくい部分のみ、修正してもらいます。

しかし、彼らは「たくさんの(不特定多数の)人が読むかもしれない」と思いながら、一生懸命ことばを駆使して、わかりやすく書こうとします。その結果、これまでよりも「相手に伝えること」を意識して書く姿勢が芽生えるようです。今まであまり深く考えてこなかった「助詞の違い」などをたくさん質問してくる学習者もいました。

書き始める前は「まずは短くてもいいから、何か書いてくれたらいい」という気持ちでいましたが、実際には彼らは私が思っているより遥かに雄弁です。「昨日食べたもの」にしても、その料理にまつわるエピソードや、なぜそれを選んだかが語られていたり、「日本の生活で思ったこと」にしても、自分なりの考察を交えて語られていました。

note」の活動を楽しんで参加する学習者は多いですが、読者である私や同僚の先生たちも彼らの記事を読むのをいつも楽しみにしていました。

⑥他の学習者の記事を読み、コメントする

書いた後は、お互いの記事を読みます。「note」には「マガジン」という機能があり、学習者が書いた記事を集約させることができます。その機能を使えば、学習者はいつでも簡単にクラスメイトの記事を読むことができます。

読むときは宿題として、記事を家で読んでもらいます。そしてその場でコメントを投稿したり、学校で直接会って質問や感想を伝えるようします。SNSの投稿にコメントをするのは、今の若い学習者にとっては日常茶飯事。日本語でも気軽に感想を伝えることができるようです。そして学校では少し詳しく質問をしている姿も見られました。こうして、新たに「雑談」のチャンスが生まれていきます。

そして、記事を書くことを繰り返すうちに「書くためのインプット」が増えていきます。普段何気なく目にしているものを注意深く見るようになったり、今まで見なかったニュースを見るようになったりと、新たなインプットが増えます。必然的に普段の話題も増えた学習者が多いように思います。

おわりに

「雑談の力を身に付けるため」の活動として「偏愛マップ」と「note」をご紹介しました。どちらも、もともとは「コミュニケーションをしながら、誰かと繋がるため」に作られたものです。これこそが、現代社会で学習者に身に付けてほしい雑談の力であると考え、採用しています。誰かと繋がって楽しく話し、自分の生活をより便利で豊かにすることこそが、雑談の力なのではないかと思っています。

これからも学習者が楽しみながら雑談の力を身に付けられる活動を模索していきたいと思います。

参考文献:『偏愛マップ キラいな人がいなくなるコミュニケーション・メソッド』(齋藤孝著 / NTT出版)

執筆:加須屋 希

ユニタス日本語学校東京校で専任として働く日本語教師。大学院、大学、専門学校に進学する留学生を中心に日本語を教える。日本語学校でのオンライン授業導入や、「自分で考え、表現する学習者のための授業」を取り入れるなど、これからの日本語学校や日本語教師の在り方を模索し、実践している。
趣味はディズニーランド、シーを散歩すること。1か月に1回の割合で通う、自称「ディズニーランドマニア」である。

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